第三十話 命懸けなんだ!
空洞のどこを見ても石の突起物が生えいる。噂に聞く鍾乳洞、実物は初めて見た。
上からはとある部分から光が差し込んでいる。地下だというのに、どうして太陽の光が差し込むのか。というか、地上はもう朝になっているのか。
僕は空洞を横断する様に流れる地下水の元へ向かう。
地下水───雨によって水が土に染み込み、それが地中を通って ろ過され、地中の隙間を縫って流れ出るもの。
つまり、山から流れ出る水は比較的綺麗だという事。
僕は地下水に顔を突っ込み、一口、その水を含んだ。
顔を地下水から離す。水の中に突っ込む為に閉じた瞼はそのままで、口に含んだ水をゆっくりと喉に通していく。
「……………はぁ」
美味い。
乾きが収まり、満たされる感覚。
これだけ美味しい水は、人生で初めてかもしれない。
とにかく、これでここに留まる準備は完了した。
□□□
あれから、何日経過しただろう?
僕はひたすら、スーサイドロックを狩っては食していた。
有難い事に、ここの魔獣は際限が無い。新たな個体がどんどんと発生するのだ。
たまたま目に出来た事なのだが、発掘路の曲がり角から奥を覗いた時、黒く色付いた瘴気が集まっているのを発見した。それを最初見付けた時「また見た事も無い魔獣か!?」と警戒したけど、それは徐々に下に佇んでいる小さな石へと吸収されていき、全部入りきった所でボンという効果音と共に黒い瘴気が一気に吐き出され、スーサイドロックの本体となる黒い体が生成されていた。
あの色付いた瘴気は何だったのか? どうして無機物から有機物が発生するのか? 謎は多い───が、今は考えない事にした。
目下の第一目標は、あの巨大な化け物と戦えるぐらい強くなる事。早く倒して、地上に戻りたいのだ。考えるのは、その後でいい。
あの魔獣は巨体、圧倒的質量で押し潰す事が可能な為、それだけでも十分脅威なのだが、一番警戒しなければならないのはあの光線だ。
目で追えない。狙いを定められ放たれたら まずかわせない。つまり、狙いを定められる訳にはいかないのだ。
狙いを定められない様にするにはどうすればいいか───速く、より速く動くしか無い。
『気功術』による走行じゃあ まだ足りない。ガルクさんが見せた“縮地”、せめてあれが使える様にならなければ始まらない。
ガルクさんはあれが“技”だと言った。魔力を操る“技”、“気功術”をさらに高めて行う“技”。
生半可なコントロールじゃあまず成功しない。より速く、より精密に魔力を動かせて初めて成功する───と思う。
だから僕は、スーサイドロックを倒す際、『気功術』の扱いにも充分注意して動いていた。
斧を振り下ろす際はどこの筋肉に力を集中させるのがいいのか・走る時はどこからどこに魔力を動かしたら より速くなるのか、どうすれば、どうすれば、どうすればどうすればどうすれば───
ひたすら考え、どんどんとスーサイドロックの討伐数を増やしていった。
□□□
あれから随分とまた時間が経過していた。
今のレベルはこんな感じ。
ラクト=ユウキ 種族 (人間) 年齢:16
レベル:23 取得経験値量:89426
筋力 :1824
瞬発力:2011
体力 :1963
魔力 :11059
出力 :301
抵抗力:3926
スキルホルダー:気功剣
:自爆術
:属性解放剣術
スキルリスト
《パッシブ》魔素完全適応
《チョイス》気功術Lv.19
《チョイス》気功剣Lv.12
∟《チョイス》属性解放剣術Lv.6
∟火
∟風
《チョイス》自爆術
《チョイス》縮地Lv.3
もうすでに最低目標だった『縮地』も習得して、能力値も大幅に上昇している。前に習得した『属性解放剣術』も大分使い慣れてきたし───ここまで来たなら、あの化け物も倒せるかもしれない。
そう思っていた時の事だ。
「───!」
少し遠くから爆発音が響いてくる。
この感じ……前にもあった。確か、その時は───
「おぉお゛ぉぉおお゛お゛お゛ぁぁあああ゛ああ゛ああ!!!!」
すぐ傍で巨大な爆発が起き、発掘路がとある広間と繋がる。
目の前には、あの巨大な岩の化け物。
知らず知らずの内に、最初の広間の近くまで来てしまっていたんだ……!
化け物が右手を上げる。
どうする……やるか?
「……っ」
いや駄目だ。この質量・この圧迫感、どう考えてもまずい……!
僕は離脱を決意。来た道を戻り始める。
化け物が地面に向かって張り手の要領で右手を下ろした。
瞬間、振り下ろした地面が爆発する。爆炎が勢いよく上がり、煙がどんどんと込み上げる。
後少し離脱が遅ければ殺られていた。光線だけでなく、体発火もするのか!?
化け物が頭部の位置を下げ、口から淡い光を放ち始めている。まさか……!?
発掘路に注ぎ込む様に、化け物が口から光線を放った。
光による線は僕の走っている所で丁度爆発を起こし、辺り一面を光で覆う。爆発による衝撃は周りにも伝わり、洞窟の側面には細かく亀裂が入り、天井が少しずつ崩壊を始める。
「───っはぁ!」
僕はかろうじて爆発を避け、ひたすら発掘路を走っていた。
ギリギリだった。僕の『縮地』による移動距離がほんの少し爆破範囲を超えてくれたおかげで、何とか焼かれずに済んだ。
見通しが甘かった。
今は発射部分から走って遠ざかっていたからかわせたけど、もし無謀にも戦いを挑んで戦闘中にあれを放たれていたらと思うとゾッとする。
僕は『縮地』を何度も使用して その場から去った。
□□□
「ふぅ……なんとかまけたか」
僕は流れる汗を腕で拭いながら辺りを確認する。
爆発音もしなければ天井から小石が落ちてくる事も無い。
どうやら、あの岩の化け物は僕を追ってきてはないらしい。
はぁ……。
「………」
勝てるかもしれない、だと?
何を甘ったれた事を言っていたんだ僕は。これは野生との対決だ、負け=“死”なんだぞ。なのに、勝てる確証が無いまま挑もうとしていたなんて……なんという間抜け!
スーサイドロックを狩る事に慣れ、危機感が完全に欠落していた。戦場であってはならない事だ。
小鬼の帝王の時とは違う。今は強くなれる時間がある。
やるなら徹底的だ。レベル三十五───それが最低ライン。そこまでいってないのなら挑もうなんて考えては駄目だ。
奴を倒して、地上へ戻る。
死にたくないのなら、やるしかない。
僕はまた発掘路を歩み始めた。
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