第二十九話 巨大な岩の化け物
大小様々な形の岩が引き寄せられ・継ぎ接ぎにされ、その隙間から見えるのは光を巡らせる血管の様な赤黒い線。十メートルはありそうな巨体でありながら二足で立ち、まるで人の様な姿を形成している。不格好ながら頭や口も再現され、目の代わりと言わんばかりに窪みの漆黒の中から赤い光を覗かせている。
正しく岩の化け物。何だ、これ……?
「おお゛おぉぉおあ゛あ゛あぁぁあぁあぁぁあああ!!!!」
巨大な音がくぐもり響く音。まるで咆哮だ。
威嚇する為じゃない。ただ戦場に立った事に対する高揚を表しているだけ───そんな感じがする。
この体格・この威圧感、明らかに上位種だ。スーサイドロックなんて目じゃない。
やばい、やばい……! こいつは……!
「───!」
岩の化け物の口が橙色に光り出す。まずい!
突如、口が光ったかと思えば───すでに、広場では爆発が起こっていた。
光線だ。口から見えた橙色の光はエネルギーを溜める事で生じた現象。膨大なエネルギーが一直線に吐き出され、地面と衝突した事で───爆発。
目で追えなかったけど、それが起きたって事実は分かる。
僕はエネルギーが吐き出される直前、背筋の凍る様な感覚に身を任せて離脱していた。地下広場の側面にあちこち空いた発掘路、その一つに逃げ込んでいた。
それが結果的に幸を成し、爆発に巻き込まれずに済んだ───が、そこで一つ問題が生じる。
「うおっ!?」
爆発の衝撃により、僕が入った発掘路の入口付近が崩れたのだ。
当然入口は埋まり、そこからは出られなくなる。
土で埋もれた入口。その向こう側からはまた化け物のくぐもった雄叫びが聞こえてくる。
□□□
スーサイドロック。
膨大な魔素を体内に宿しながら、それを上手く操る事が出来ず自爆してしまう不出来な魔獣。
自分の力で自滅するなど、生物としてはあまりに未熟・あまりに不格好・あまりに未完成───だが、そう生まれ持ってしまったのなら仕方が無い。人を見たら攻撃するという魔獣としての性もまたどうしようも無い。
そう有るなら そう有るしかない───が、たまに、その在り方から外れるものがいる。
人と出会わず、自らの欠陥を自らで自覚して、そして順応し続けたもの。
スーサイドロック、自身の保有する魔素量を扱うには、その体は小さ過ぎる。小さ過ぎるのなら伸ばせばいい。大きくなればなる程、今度は魔素量が足りなくなる。足りないのなら補えばいい。
そうやって、人と出会わず、順応に順応・進化に進化を重ねた事で───ここに一つの怪物が誕生した。
名付けるのなら、そう───クラフトロフ。
破滅をもらたす鉱獣───クラフトロフ・ビースト。
推定危険度ランクはB───いや、Aに到達するかもしれない。一体で大都市一つを壊滅させる事が出来る魔獣に付けられるランク───Aランクに。
幸いなのは、この魔獣に飛行手段が無い事・そして、この魔獣自身地上に出る気が無いという事だろう。
故に、被害は出ない。しかし、会えば終わり。
ラクトは、そんな化け物に出会ってしまった。
□□□
「………どうしよう」
僕は路地で固まりながら、これからの事について考えていた。
あの巨大な岩の化け物……あれは何だ? あのサイズというだけでも凶悪なのに、さらには光線とも呼べるエネルギー爆発まで。
どうやってここから脱出する? なんとか視線をくぐり抜けて梯子まで到達しても、背を向けて登っている最中に光線で撃たれそうだ。
あいつは僕を見つけた、見つけてしまった。
僕という存在がいるという事を知ってしまった以上、そう簡単には見逃してくれないだろう。
なら、どうするか………どうしよう? ………どうしよう???
そもそも、ネフィサファ鉱山にはスーサイドロックしかいない筈だ。あんな化け物がいるなんて聞いてないぞ。
もしかして、僕が知らないだけ? 上級冒険者の間では共有されている情報なのか?
クソ……もっと情報収集をしておくだった。
とまぁ、そんな事をグチグチ言っても仕方が無い。なってしまったものはどうしようもならない。そう、どうしようもならない………どうしよう……も……。
「はぁ〜〜〜………」
とりあえず、あいつが僕の存在を覚え・ここにいる以上、脱出は不可能と見ていい。
ならばどうするか───倒すしか無いだろう。
今のままでは当然無理だ。逆立ちしたって あの化け物には届かない。光線に当たってお陀仏だ。
だけど、ここにはさっきの僕の攻撃で死んだスーサイドロックの肉と、そしてまだまだ大量のスーサイドロックが存在している。
レベルアップだ。
ここで上げれるだけ上げて、あの化け物を倒してから上に行く。そうするしか無い。
と決まれば、まずは食料と水だ。この二つが無かったら、そもそもあの怪物に挑む前に餓死してしまう。
ここは地下発掘路。さっきの地下広場にはそれらしい所が無かった。なら、この道のどこかにある筈だ───休憩所が。
長い事発掘は行われていないとはいえ、たまに高ランクの冒険者が小銭稼ぎで降りてきて、宝石の発掘を行う。
その際、もしもの時に備えて非常食を持ち込んでいてくれれば、もしかしたら、休憩所に食べれる食料を持ち込んだままにしていてくれてるかもしれない。
僕はそれに賭けて、歩き始めた。
□□□
「あった……」
歩き始めて数十分。
あれから何体ものスーサイドロックを殺しては食しを繰り返し、遂には簡易的な木造りの家を発見した。
洞窟の壁にめり込む様な形で造られたそれは、おそらく鉱山夫達が休憩所として使い、そしてたまに来る冒険者達の小休憩にも用いられていただろう。
鉱山路の途中で落ちていた・溜めた魔力で光を発するランタン型の魔道具で家の中を照らしながら、食べ物が無いか捜索を行っていく。
辺りに散らばるのは相当古い紙資料であったり、昔使われていただろう古びたコップや皿───そのどれもが砂埃を被り、劣化している。
「………おっ」
そんな中で、奥の壁際に設置している棚に、幾つかの缶詰を見付けた。
「このマーク、魔導コーティング? これ、相当高価な物だぞ」
缶詰に書かれているマークから、これは魔術によって劣化しにくくなる様コーティングされた物だと知る。
しかも、他の物と比べて被っている砂埃が少ない事から、他の物よりも後に持ち込まれた物だっていうのが分かる。おそらく、ここを再利用した冒険者が持ち込んだ物だろう。流石は高ランク冒険者、持ち込む物の品質が違う。
「有難い……これで食料問題は解決。後は水だけど……」
辺りを探る。
それっぽい物を幾つか見付けるも、そのどれもが黄色く変色していて、とてもだが飲める様な気がしない。
「くそ………一番大事な水が見つからないか」
僕は一度小屋を出て、また散策に向かう。
水が無ければ駄目だ。水が無いと脱水症状を起こして倒れてしまう。
そもそも、生物の体は大半が水分だという。絶対に不足させちゃ駄目なものだ。
辺りを探る、探る、探る───
あれからどれくらいの時間が経過しただろう?
結局、見付けた缶詰の中身はまだ食べていない。というか、戻ってすらいない。
缶詰の中身はクッキーだった。食べればさらに水分が欲しくなる。水が無い この状態で食べるのは少し厳しい物だ。
最初は、魔獣の肉や血液を食料や水分の代わりにすればいいじゃないかとも思った───が、すぐにその考えも無くなった。
魔獣の肉をどれだけ食おうが・魔獣の血液をどれだけ飲もうが、腹は満たされず・喉の乾きは増す一方だという事を思い出したからだ。
何故か、魔獣の肉は腹に溜まらない。取り込んだそばから分解し、全て別のものに変換していっている様な感じだ。
魔獣のものではどうやっても代用出来ない。
だから、見つけないと……早く、見つけなければ。
そもそも、こうなる前からすでに僕は大量の汗を流し過ぎてしまっている。途切れず迫るスーサイドロックの群れとの戦闘で、気力・体力・水分を大量に消費してしまった後の状態なのだ。すでに僕の体はフラフラだった。
足取りが覚束無い。視界が霞み始める。
どんどんと一歩が短くなって、持ち上げる足が重くなり、前へと進まなくなり。
それでも尚歩んで、その結果─── 一つの広間に辿り着いた。
さっきいた地下広場とも違う。天然物……?
不思議な場所だった。
地下であるにも関わらず天井から一筋の光が差し込む神秘的な場所。
だが、今の僕はそんな事は気にならなかった。
目に付いたのは一つ。
そこには、探し求めた地下水源が広がっていたのだ。
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