第二十八話 落ちた先は
投げられた、落ちる、底が見えない、やばい、やばい、やばい───
マサニに地下へと続く大穴へと投げられ、現在落下している最中。
自由落下しているため、けっこうな勢いで風がぶつかってくる。深すぎるのか地面が見えない。
このまま落下していたら、間違い無くしぬ!
「───っ!!」
僕はまだ離していなかった戦斧を両手で握りながら、落ちつつも横に移動し、なんとか壁が触れる距離に。
そして───
「───っ!」
戦斧を穴の岩肌にぶっ刺した。
「───っっっ!!!!」
しかし、すでに自由落下により落下速度が大分上がっている状態。
戦斧を岩肌に突き刺したぐらいでは止まらず、岩肌を削りながら落下を続けていく。
手からとてつもない衝撃が伝わってくる───が、意地でも戦斧から手を離さない。
筋肉がはち切れそうだ───それでも、手を離した瞬間、終わってしまう。
意地だった。
意地でも死にたくないという思いで、目を瞑り、歯を立て、込められる最大限の力で、戦斧を握り続けた。
尚も戦斧は岩肌を削っていく。
少しずつ減速はしている。だが、未だに止まる気配は一向に無い。
「───あ」
減速しながら落ちていた最中、戦斧が一つの硬い岩にぶつかり、岩肌から外れてしまった。
再び、自由落下が始まる。
まずい……まずいまずいまずい!!
慌てて、もう一度岩肌に戦斧を突き刺そうと急いだ───所で、
「───ガハッ!?」
僕は地面へとぶつかった。
「ガッ……っ、くはっ……」
どうやら、戦斧が弾かれる頃には、すでに地面と近い距離にまで来ていたようだ。
再び速度が上がる前に、なんとか地面に落下することができた。
それでも、けっこう痛いけど。
「っ、ふぅっ、はぁ……」
軋む体に無理を言って、仰向けからうつ伏せの体勢に。
そして、両手に力を入れ、上半身を起こしていく。
とりあえず、今の状況を確認しないと。
そうして、顔を上げた所で───
視界を埋め尽くす大量のスーサイドロックが、こちらを向いていた。
□□□
「───っっっ!!!!」
僕は今大量のスーサイドロックと戦っていた。
いや、戦いと言うよりは、相手が自爆する前に叩き潰すという作業に近い。
ただひたすら、休み無く近付いてくる魔獣を叩き殺す。
さっきからずっとこの状態だ。下に降りた瞬間から大量のスーサイドロックが反応して、自爆しようと近付いてくる。
「───ガァ!?」
僕の背後で爆発が起きた。一匹殺し漏らした。
光を感じて、ほぼ反射で前に出たから掠った程度で済んだけど、それでも熱と衝撃が僕にダメージを与えてくる。今ので背中側の服が少し焼かれ、皮膚が露出。
だが、それで休んでいる暇など無い。僕はまたスーサイドロックを殺し始める。
一体一体が、Cランクの冒険者でも受けたら ただでは済まない爆発を引き起こす。今の僕でも、流石に食らえない。
数が多過ぎる!
大量だとは聞いていたけど、まさかここまでなんて……! これじゃあ、食べるどころか肉を剥ぎ取る余裕すら無い!
ネフィサファ鉱山は地上付近と地下では危険度が違う。
鉱山地下では、発掘できる鉱石が高価なものになるが、その分、出現するスーサイドロックの数も多くなるのだ。
そのため、危険度は一気に跳ね上がり、ランクは驚きのB。並の冒険者では立ち入れない危険地帯へと化す。
今度は右側で爆発。
「───ぐぁっ!?」
なんとか体を逸らして難を逃れるも、右肩部分の服と皮膚が焼かれる。
また殺し漏らした……!
攻撃が間に合わない。次から次へと湧いてくる。
クソ……何でこんなことになった?
何で……僕がこんな目に合わなきゃいけないんだ?
僕は、誰にも迷惑はかけてない。
強くなるためと言っても、人理に反することをしていなければ、誰かを貶めることもしていない。
こんな目に合わされる言われは、無い筈だ。
なのに……何で……?
「───」
理不尽だ。納得できない。
許せない。我慢できない。ふざけるな。
憎らしい。腹立たしい。わざわざ僕の手を汚させたキャリー達も、僕をこの場に突き落としたマサニも、こんな世界の仕組みを創った神も───全てに憤りを感じる。
まるで、この場で死ぬことを望まれているみたいだ。
───死んでやるかっ。こんな所で絶対に死んでやらない。意地でも生き残ってやる。
ジジッ ジジッ
元々、ここには強くなるために来たんだ。
なら、こいつらも糧にしてやる。
こいつら全部食い殺して、さらに強くなってやる。
それが、こんな世界を創った神に対する、僕なりのささやかな反逆だ。
□□□
あれから、どれくらいの時間が経ったのだろうか?
数時間? 数分? 数秒? 分からない。辺りに迫るスーサイドロックの群れを処理するので精一杯。数を数えている暇なんて無い。
叩き潰したらすぐに後ろを向き、また叩き潰したら横に迫るスーサイドロックに向かって横薙ぎを放つ。
潰したら向いて、潰したら向いて、潰したら向いて───
何度繰り返しただろう?
もう僕の体はボロボロで、服もズタズタだ。
いくら『気功剣』で強化しているとはいえ、流石の戦斧にも劣化が見えていた。
それでも、この群れを突破する為、時折見える群れの隙間に自分から跳び込んでは、近くにいるスーサイドロックを叩き割り、そいつの肉を取り出して口に頬張っている。
でも、すぐに次のスーサイドロックが迫ってくるから、取れるのは手で鷲掴みにした分だけで、熱消毒もしている暇が無い。
レベルアップをしないと、この群れを脱する事は出来ない。でも、それもままならないのは、苦しい所だ。
もう、体は重く、呼吸をするのも辛い。節々は痛みと言う名の悲鳴を上げ、それに反比例する様に脳の思考が遅くなる。
今すぐぶっ倒れてしまいたい・もういいじゃないか・よく頑張った───そんな甘い誘惑が、僕の心を掻き乱す。
………死ねない。
その度に、生への執着と、全てに対する怒りを持って誘惑を断ち切る。
そうだ、死ねない。僕は騎士に──“最強”になるんだっ、こんな所では死ねない。誰にだって、この願いは邪魔させない。
僕は前方部分にまた群れの隙があるのを発見する。
それで一度跳び上がり、その隙間近くにいるスーサイドロックに向かって頭上から戦斧を振り下ろした。それにより、スーサイドロックは本体共々叩き割られ、血飛沫が舞う。
僕は戦斧を振り下ろした勢いでスーサイドロックに出来た亀裂に左腕を差し込んで、乱雑に肉を引き千切る。
そしてそれを口に含みながら、地面に着地した。
また別のスーサイドロックが迫ってくる。
最早これは“波”だな。大量のスーサイドロックによる波状攻撃。
あぁ、何度でもやってやるよ。この“波”が途切れるまで、何体だって殺してやる!
そうやって、
「───」
戦斧を握り締めた瞬間だった。
突如として、内から奇妙な感覚が僕を包む。
本能が、内に溜めたものを別のものに変換して解放しろと告げてくる。
この感覚の正体は分からない。
でも、僕はその感覚に突き動かされ、目の前に迫るスーサイドロックに向かって戦斧を振り下ろした。
□□□
「ハッ……ハッ……ハッ……」
やっと訪れた静寂。
しかし、僕はそれを噛み締める余裕が無い程 疲弊し、四つん這いとなって肩で息をしていた。
それでも、さっきの事について思考を回す。
それにしても……凄い攻撃だった。
突如として僕を包んだ あの感覚。その感覚に身を任せて戦斧を振るった瞬間、戦斧を中心とした大爆発が起きたのだ。
ここら一帯にいたスーサイドロック全てを弾き飛ばす程の衝撃。火はここから幾つも開けられ伸びている発掘路にも入っていき、文字通り全てを焼き尽くした。
端っこの方には、スーサイドロックの死体が大量に転がっているのが見える。今でこそまた石が引き寄せられているが、爆発はスーサイドロックが纏っていた岩をも吹き飛ばし、壁に飛ばされるまではスーサイドロックの本体である黒い体が露出していた。
ここら一体の地面や壁は黒く焼き焦げており、一目で凄い爆発があったのだと分かる。
にも関わらず、僕は無傷だった。
どういう原理かは分からない。ただ、この事実こそ、あの爆発は僕が引き起こしたものだという証明に他ならない。
とりあえず僕は、呼吸が整った所で、何か分からないかとステータスボードを開いた。
「“オープン”」
ラクト=ユウキ 種族 (人間) 年齢:16
レベル:16 取得経験値量:50126
筋力 :1121
瞬発力:1341
体力 :1283
魔力 :8039
出力 :239
抵抗力:2406
スキルホルダー:気功剣
:自爆術
:属性解放剣術
スキルリスト
《パッシブ》魔素完全適応
《チョイス》気功術Lv.17
《チョイス》気功剣Lv.10
∟《チョイス》属性解放剣術Lv.2
∟火
∟風
《チョイス》自爆術
「ぞくせい……かいほうけんじゅつ?」
知らない項目が追加されていた事で眉を顰める。
とりあえず、何か調べる為にその項目を指で長押ししてみた。
属性解放剣術
↑気功剣の熟練度が一定値に達した為 解放。気功剣により武器に溜めた魔力を現象に変化させて放出する。現在変換可能属性(火、風)
「『気功剣』の……『スキル』の横にある数値は熟練度を示す値だったんだ……」
ステータスボードを見ながら何度か頷く。
「さっきのはこの『属性解放剣術』による効果だった訳か。それにしても……とんでもない威力だな」
僕は顎に手を当てながら他にも変化が無いか確認していく。
「レベルは二つ上がっていて………ん? あれ?」
そして、スキルホルダーの欄の異様な状態に気が付いた。
「………『自爆術』!?」
いつの間にかスキルホルダーの欄に、使う事は無いだろうと思っていた『自爆術』がセットされていた。
「何で『自爆術』が………じゃあ さっきの爆発って、これも発動していたからこその結果だったのか」
新しい『スキル』とはいえ とんでもない威力だなぁと思っていたけど、そうか……これによって出力が上がっていたのか。
てか、『自爆術』って……やばい代物だと思っていたけど、そうでもないのか?
「んー……」
そうやって、さっきの事に何か納得が出来ないで頭を捻っている───その時だった。
「───うお!?」
急にくぐもった爆発音がきこえ、洞窟全体が振動する。何だ……?
「───! ───っ!」
爆発音と振動が収まらない。
それどころか、爆発と爆発までのスパンが短くなって、音も段々近付いてきて───
瞬間、一際大きな爆発音と共に、目の前の洞窟の壁が崩れ去った。
「おお゛おぉぉおあ゛あ゛あぁぁあぁあぁぁあああ!!!!」
そこから現れたのは、見た事も無い巨大岩の化け物だった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
もし少しでも面白いと思っていただけたら、ブクマ又は感想等 貰えると嬉しいです。作者自身、自己顕示欲の塊みたいな者なんで、貰えると滅茶苦茶 励みになります。
また、誤字や辻褄が合わない点などがあれば即修正に入ろうと思いますので、言って貰えると幸いです。
よろしくお願いしますm(_ _)m。
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それではまた次回の更新で。





