第二十六話 素手VS大剣
力強く右足を踏み出し、瞬間的にマサニとの距離を詰める。
そして、彼の鳩尾に向かって右の拳を突き出そう───とした所で。
「───!」
上から殺気。
かなりの速さで距離を詰めたというのに、マサニはそれに反応し、大剣を構え、振り下ろしていた。
このままいけば、僕の拳の方が先にマサニにぶつかる。でも、マサニはそれを承知の上で大剣を振るってきた。僕の攻撃を受けるのを覚悟した上で、防御ではなく攻撃を選んできたのだ。
後もう少しでマサニの体に拳が届く。けれど、拳が届いた所で、その後すぐにマサニの大剣が僕を両断するだろう。
「───っ!」
折角のチャンスではあったが、僕の攻撃でマサニの体勢を崩せなければ、その瞬間僕の命は刈り取られることになる。そんなリスクは犯せない。
僕は拳を引っ込め、すぐに地面を転がる。そうやって左に体を移動させることで、マサニの大剣を避けることに成功。
マサニの大剣は、そのまま地面を直撃した。僕を殺るために振り下ろされた大剣にはかなりの力が込められていて、大剣によって地面が割られ、けっこうな衝撃が辺りを襲う。
直撃していたら即死だった。その事実に僕は顔を顰めながらマサニの背後に回る。
僕はまた拳を握り、今度こそ攻撃を当てようとマサニの背中に向かう───が。
「───!」
マサニは右足を軸に反転。その勢いを利用して、大剣による斬り上げを繰り出してきた。
さっきと同じ展開。僕の拳の方が先に届く、しかし、それではその後に僕の体は両断されてしまう。
このままじゃ堂々巡り。しかも、この駆け引きで有利なのはマサニの方。このままではいつか追い詰められる。
だから───
大剣が目の前に迫る。
けれど、僕は前に行く勢いを止めない。
白刃は僕に狙いを定めている。
かわさなければ必中。
───だから、その大剣を避けるように、僕は体を回転させた。
ほんの少しだが、僕の体は大剣よりも左の位置にズレ、大剣をかわすことに成功。正に紙一重。
きちんとかわせるかは賭けだった。
もし、少しでも体の反応が遅れていたら・もし、少しでも思い通りに体が動かなければ───僕は確実に大怪我を負っていただろう。
でも、僕はその賭けに勝った。故に、ほんの少しだがマサニに隙を作らせられた。
すぐにマサニとの距離を詰める。
左フック、必ず当てる。そして、この一撃でマサニの体勢を一気に崩す。
この一撃で、一気に有利を勝ち取るのだ。
僕は拳に渾身を込めた。
───そう、力んでしまった。
最初から力を入れた状態では、どうしたって動き出しが遅くなる。
しなやかな物と硬い物では、しなやかな物の方が自由に動く。それに似た理由だ。
つまりは、マサニに回避の隙を与えてしまった。
「おっと」
マサニが後方に跳ぶことで僕の拳を回避する。
「───っ!」
避けられたっ。でも、まだマサニは体勢を崩している。すぐに追撃をすれば。
僕はすぐに右の拳を繰り出そうと前へ詰める。
だが───
「───!?」
マサニは体勢を崩しながらも、両足を軸にして、回転斬りを放ってきた。
まさか、体勢を崩しながらもあんな重い大剣を扱えるとは考えていなかった僕は不意を突かれ、良くない回避方法を取ってしまう。
その場に両手両足をついてしゃがむ───その場に留まる回避方法を取ってしまったのだ。
一文字回転斬りは回避できた。だが、すぐに頭上から殺気が迫る。
マサニは一文字斬りの途中で体勢を直していた。一文字斬りを終えた後、すぐに右足を踏み出し、僕の頭目掛けて大剣を振り下ろしてきたのだ。
「───っ!」
殺られる。
それを覚悟した瞬間、僕は両手両足でなんとか推進力を生み出し、後方へ跳ぶことに成功。
ギリギリでマサニの大剣を回避した。
「………ふぅ」
僕とマサニの距離が開いたことで、一息つく余裕が生まれる。
先程の大剣は、またしても僕を捕らえられなかった腹いせをするように地面を割り、攻撃により生じた衝撃と共に岩の破片が散っていた。
「………」
マサニは、攻撃を回避した僕を無表情で見据えながら、大剣を肩に担ぎ直す。
「……三度だ」
「え?」
「俺がお前を両断しようとした回数。三度、俺はお前に大剣を振るった」
マサニが空いた左手の指を三本立ててこっちに突き出してきた。
「最初の二度はいい。あの攻撃は、お前によって当たるかどうか左右されるものだからだ。だが、最後のは違う。あれは確実にお前の隙を突いた攻撃だった。俺はあの時、お前の死を確信していた。なのに、何でお前は生きている?」
「………」
「どうやら、本当に成長しているらしい。腹立たしいことに、お前はどうやら本物だったようだな」
無表情にそれらを語るせいで、この発言の裏にはどんな意味が隠されているのか全く読み取ることができない。
何を言いたいのか分からない、が、今はそんなことどうでもいい。
どうしても、拳と大剣ではこっちの方が不利だ。このままでは、相手の攻撃を受け止めることすらできない。
武器が必要だ、大剣の質量にも耐えうる強固な武器が。
「やはり、お前は生かしておけない。ここで確実に仕留める。絶対に」
僕はマサニに背を向けて走り出す。
マサニの話なんか聴いてられない。
とりあえずはここから離脱しなければ。
「………」
戦闘中、相手に背を向けるのは愚策。そんなことは分かっている。
しかし、今この状況においては、背を向けることよりも、武器を持たずに戦う方が愚策に思えた。
だから走る。あそこまで、一気に走る!
「……」
何だ……?
マサニにとって、僕はもう面倒以外の何者でもない存在になっている。だから、てっきりすぐに追い掛けてくると思った。それか、僕が無視したことに激昂して怒鳴りつけてくるか。
とにかく、まだまだ波乱が続くと思っていた───のだが。
マサニは大剣を両手持ちに切り替えはしたものの、落とさない程度の最低限の力しか込めていないようで、力無く腕を伸ばしている。
ろくに構えも取っておらず、まるで追い掛けてくる気配が無い。
「………っ」
何を考えているかは不明……だが、追ってこないならチャンスだ。
このまま一気に走って───
と、前を向こうとした所だった。
ほとんど一瞬で身を屈ませ、瞬時に突撃の体勢を整えるマサニ。
───来るか!
「───!?」
目の前に、マサニがいた。
いや、断じて瞬きはしていない。
僕はまだマサニから目を離していなかった。
なのに、まるで時間が切り取られたみたいに……気付いた時には、マサニが目の前にいた。
───くっそ。
左から斜め右に向けての斬り上げ。
マサニによって繰り出されたそれを───。
ギリギリ、本当にギリギリで、僕は回避して見せた。
意図的に重心を右に傾け、そのまま倒れ込むように地面を転がったのだ。
転がってから瞬時に立ち上がり、前を目指す。
しかし、まだ僕の体勢は整っていない。気を抜いたらすぐに転んでしまいそうだ。
マサニがそれを見逃す筈もなく、攻撃を空振ってからすぐに体勢を立て直し、僕を追ってくる。
このまま鬼ごっこを続けては確実に負ける。
いつか、マサニの刃を僕へと届き、僕は逃げることができなくなる。そうして、最後を迎える。何もしなければ、そうなる。
だが───僕の視界の先に、煌めく何かが目に入る。
転んでもいい───体勢が整っていない状態で、僕は無理な加速を行った。
幸い、それを手に取る時まで、僕の体が転ぶことは無かった。
マサニとの距離はもう無くなっており、すでにあいつは上段を構えて僕の命を狙っている。
鬼ごっこを続けるなら、走り続けなきゃいけない。
でも───僕は足に力を込め、急停止した。
そのまま足を軸に、反転。
「───っっっぁぁぁああぁああ゛あああ゛ああ!!!!」
マサニの大剣が迫る。
それに対し、僕は回転しながら、両手で持った戦斧による横薙ぎを繰り出した。
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