第二十五話 仲間とは?
人と戦う時、僕はいつも『気功術』を行使していなかった。
というのも、『気功術』は強化具合が強すぎる。それこそ、岩で固められたスーサイドロックを簡単に叩き割ってしまうぐらいには強力だ。
無闇に使うと、人なんて簡単に殺せてしまう。だから、目の前にいる『成長の糧』メンバーと戦っている時でも、無闇矢鱈に命を奪わないよう、その力を行使せずにいた。
しかし、相手は僕の命を奪う気でいる。自分達の保身のため、人気の無い所で襲い、簡単に人の命を摘もうとしている。
そんな奴らに、何を遠慮する必要があるのか。悪党でも無闇矢鱈に命を奪ってはいけない? そんな甘いようで、一体何が成せるというのか。
もう迷わない。殺る時は殺る。自分の手が汚れるなど、厭っていられるか。
別に、僕が人の善悪を決める、などと言うつもりは無い。
ただ、こいつらは、ここで残したらさらなる被害を生む可能性がある。その可能性が、あまりにも高い。だから、殺す。ただそれだけのことだ。
この行いによる報いがあるなら、甘んじて受け入れてやる。
僕は『気功術』を発動させたまま、目の前で立っている残りの『成長の糧』パーティメンバーであるキャリーとバキャーを見据える。
「………え? ……え!?」
キャリーの方は、今目の前で起きたこと───インが殺られた事実───が理解できていないようだった。目の前で起きたことは視認できたが、その内容を受け入れるのに時間がかかっているといった感じか。
それに対し、バキャーは、最初こそキャリー同様惚けていたが、すぐに何が起きたかを理解し、こちらに激しい敵対心を向けてくる。
「………っ、クッソがぁぁぁぁぁ!!!!」
バキャーがハンマーを振り被り、こちらに突進してきた。
あんなにどデカいハンマーを持って振り被っているというのに、全く重心をブラさず走ってこれるその筋力、“気功術”も使っていないだろうに、凄まじいな。
───だが、所詮それだけだ。僕からすれば、それはあまりにも遅すぎる。
バキャーが間を詰める前に、僕からその間を詰めてやる。
一気に目の前に移動した僕に驚くバキャー。走行をやめ、バックステップしてハンマーを当てるための間合いを取り直そうとする彼だが───動きの切り替えも僕からすれば遅すぎる。
バキャーがバックステップをする前に、僕は自身の右拳を彼の腹に叩き込んだ。
「───っ!!!!」
あまりにも大きな瞬発力から繰り出された拳。それを受けたバキャーの体はくの字に曲がり、そこから衝撃が貫通。彼の口からは一気に血が吐き出される。
よろよろと膝から崩れ落ち、その場で腹を抱えて踞ろうとするバキャー───だが、僕は殴った右手を勢いよく引き、今度は左の拳で彼の顎目掛けてアッパーを繰り出した。
ほとんどバキャーでは視認することのできない拳がまた彼を襲い、硬い物が壊れるような鋭い音と共に、倒れかけていたバキャーの体が一瞬浮かび、仰向けで地面に倒れる。
今度はキャリーだ。僕は彼女に視線を向ける。
「ヒィッ!!」
ただ視線を向けただけで、彼女からは情けない悲鳴が漏れる。
関係無い。相手が男か女か・相手に戦意が有るか無いか、そんなことでは戦闘中断の理由にならないほど、もう彼女らは非道になりすぎた。
僕は右足をキャリーの方に向け、母指球に力を込めていく。
攻撃が来ると察したキャリーは、自身の目の前に白い魔法陣を展開。おそらく、防御系の魔術だろう。
「───!!」
構わず、溢れ出る力に任せた跳び蹴りをキャリーに繰り出す。
『気功術』によって強化された僕の勢いは、キャリー程度の魔術では全く弱めることができず、簡単に破壊。ガラスが割れたような音と共に、僕の左足はそのまま彼女の体に突き刺さり、最後には彼女の体を洞窟の壁へと吹き飛ばした。
キャリー程度の肉体強度では僕の攻撃には全く耐えられず、足が突き刺さると共に彼女の体は壊れ、内蔵が飛び出し、洞窟の壁にぶつかった瞬間、背中から扇状に血が飛び散った。
無論、一瞬で絶命。
「………」
呆気無い。実に呆気無い。
これが、Cランクパーティ『成長の糧』の面々が迎える最後。
確かに、彼らの連携は厄介で、連携を戦力として加味するならば、Cランクでも問題無くやっていけるだろう。
しかし、個々の力は、Dランクより少し上程度。彼らが捉えきれない速度で移動、決着がつけられる僕からすれば、連携など無いにも等しい。つまり僕は、以前の状態でも問題無く倒せたホブゴブリンと同程度の実力の者と、三回戦うだけで済む訳だ。
故に、こんなにも呆気無い幕切れとなった。
「……ん?」
何かが動く音がしたので、僕は後ろを振り返る。
「……っ、が……!」
動いていたのは、バキャーだ。
いつの間にかうつ伏せとなり、匍匐前進の要領で僕から離れようとしている。
「ぐぅ……! っ、ハァッ……! んだっ……これぇ……!」
前に進みながら、何度か立とうと試みるバキャー。
しかし、腕の踏ん張りが効かず、またすぐにうつ伏せの体勢へと戻ってしまう。
「目のっ前……! グラッグラ……! あぁ……!」
口から血を垂らしながら、悪態をついている。
けれど、体は言うことを聴かないようで、進んでる距離も微々たるもの。
酷く惨めな姿だった。
「ありっえねぇ……! おかしい、だろ……! こんなのぉ!」
もう、見るに耐えなかった。
僕に、死にかけの相手を貶めるような趣味は無い。
終わりにしよう───そう、歩を進めようとした、所で。
「何だ、これは?」
そこには、会いたくない人物が立っていた。
「ぼ、ボス……!」
バキャーも、僕が見たのと同じ人物を目にした途端、怯えたような表情を見せる。
「これは、どういうことだ?」
この場に新しく現れたその人物が、問いを投げ掛ける。
しかし、そんな彼の表情からは全く感情が読み取れず、問いを投げ掛けた癖に、答えは求めていないというのがありありと伝わってくる。
この場に新しく現れた人物───それは。
「どういうことだと訊いているんだ、バキャー」
マサニ=セコ。
Cランクパーティ『成長の糧』の最高戦力であり、リーダー。異常な戦力でこのパーティをCランクとして支えている個人。
そして、この場において、僕が会いたくなかった人物。
「うっ、あ……ボス……」
バキャーが何か言い訳するように口を開くが、マサニに怯え、上手く言葉を紡げていない。
あそこまでボロボロになっても命乞いをしなかったバキャーが、ここまで怯えるなんて……!
「俺は言ったよな、バキャー。俺が来るまでは、お前らがあいつに冒険者とはなんたるかを分からせてやれって。なぁ、言ったよな? 俺は「しつけろ」と言ったんだよ───「やられろ」なんて、一言も言ってないぞ」
バキャーの顔色がさらに悪くなる。
震えも一層酷くなり、歯が小刻みに触れ合うことでガチガチという不快な音が聞こえてくるようになる。
「ぼ、ボス───」
「はぁ、もういい」
マサニが、バキャーの頭に、その手に持った大剣を片手で振り下ろした。
まるで壺が割れるかのようにバキャーの頭が粉砕され、血液と───その他諸々が激しく飛び散る。
「───!?」
自分の仲間を、あんな簡単に……!?
それは、僕からしたらあまりにも信じられない光景だった。
「な、にを……」
「何でそんなに驚いている?」
大剣を肩に抱え直したマサニは、仲間を殺したことなど露にも気にとめていないようで、普通に話しかけてくる。
「いや、だって……は?」
「お前、バキャーも殺す気だったろ。それを俺が代わりにやった。それだけのことに、何を驚く必要がある?」
マサニの表情に変化は無い。至って平常心。仲間を殺した癖に、動揺する素振りは一切見られない。それが、より一層、僕の中の不快感を強くする。
「仲間、じゃ……なかったのか?」
「仲間? あぁ……こいつらのことか?」
僕の質問に、マサニは最初眉をひそめたが、すぐに問いの意味を理解したようで、大剣で死体となったバキャーを指す。
いや、何で最初に眉をひそめるんだよっ。
「はっ。おいおい、本気で言ってんのか?」
マサニが「冗談言うなよ」と左右に首を振る。
「こいつらが? 俺と? 対等な? 仲間? んな訳ねぇだろ。そもそも、俺に仲間なんていない。欲しいとも思わない」
「……」
「こいつらは駒だ。いや、道具とも言うべきか。俺の都合のいいように動き、俺を気持ちよくするためだけの道具。それができないならいらねぇ。生きてる価値も無い。俺より強くなりそうな生意気なやつもな」
「………」
「壊れた道具はゴミ箱に捨てなければならない。不要な道具もな。だが、俺は面倒くさがりでな。ゴミをゴミ箱に捨てるのすら億劫になる。だから、そういうのは他のやつに任せるんだが……」
マサニは視線を下に落としながら「ハァ」と溜め息をつく。
「そんな簡単なことすらこなせねぇとはな」
見下すように、同じパーティメンバーだった三人を見やる。
「……………っっっ」
マサニの言い分を一通り聞き終えると、僕の中でとある激情が噴火しようなほど猛る。
あまりの感情に、僕は強く歯軋りをし、その怒りを隠せず、表情に出てしまった。
駒、だと……? 腐っていたとしても、彼らもまた一人の人間だったんだぞ。それを……命を、何だと思っている……!!
いや、分かっている。僕も、二人の命を奪い、もう一人の命すら摘もうとしていた。そんな僕に、マサニを怒る資格や、責める権利は無い。
だけど……!
「僕を殺せないやつは役立たず、か……」
内心、腸が煮えくり返っているにも関わらず、笑みがこぼれてきた。
「じゃあ、お前はさぞ簡単にこなせるんだろうなぁ……!」
自分でも驚くほど低い声が口から出てくる。
「僕を“ゴミ”だって言うなら……なら、お前は、さぞ簡単に事を成せるんだろうなぁ……! 同じパーティメンバーだった相手すら殺せてしまうお前だ。良心の叱責すら、その心には無いんだろ?」
僕はマサニを強く睨みつけた───まるで、自分の怒りを彼にぶつけるように。
そんな僕を、マサニは嘲笑う。まるで脅威を感じないと言わんばかり、その余裕な姿勢を崩さない。
「良心なんて言葉は俺の辞書に無い」
その言葉を皮切りに、僕はマサニに向かって突撃───右の正拳を繰り出した。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
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