第二十四話 善悪の判断は嫉妬で狂う
「ふぅ……」
僕は再びスーサイドロックを発見、会敵の後に討伐を果たし、汗を拭いながら一息ついていた。
目の前には、戦斧によって叩き割られたスーサイドロックの死体が転がっている。
ここにきた最初は真っ二つにすること叶わなかったスーサイドロックだが、レベルが六も上がった今では、軽々とその岩玉を二つに割ることができている。
成長がありありと見え、十分な満足感を僕は得ていた。
だけど、そろそろ魔石採取を始めないとな。
レベルアップも目的の一つではあるけれど、やっぱり、その日を凌ぐにはお金が必要だ。
ゴブリンカイザーの討伐報酬で貯金ができたとはいえ、それに甘えていてはすぐに余裕など無くなってしまう。
だから、稼げる時に稼いでおかないと。
そう思い、外にピッケルを取りに行こうと踵を返した所で───
「───!」
突如殺気を感じ、僕は身をかがめ、片手を地面につけて二足一手で低い姿勢の体を支える。
後ろから何かが来る───そんな危機察知能力による、咄嗟の反応だった。
先程まで僕の胴体があった位置では、背後から迫った鉄のナイフがすでに通った後になっている。
一体何が───
「───ぐっ!」
すぐに腹部へ蹴りが飛んできて、それに対応できなかった僕は諸にその攻撃を受けてしまう。
それなりに強い蹴りだ。だが───。
僕は体勢を立て直すため、蹴られた勢いを利用する。蹴りに対して抵抗せず、むしろ勢いに任せて後ろに転がり、そして、ある程度相手と離れたと思われる位置で片膝をつき、上半身を起こした。
すぐに相手を確認するため、視線を前に向ける───が。
「───!!」
また後ろに気配。本能がさっきよりも危険を叫んでいる。
これは───まずい!
僕は頭を下げた。───瞬間、頭部があった位置に何かが通過した。
さっきのナイフよりも重い物が振られたのか、野太い風音が僕の耳に入ってくる。
「───っ」
これ以上好きにされてたまるか!
僕は手に持って離さなかった戦斧を両手でしっかり握り、時計回りに半回転しながら相手に向かって振り回した。
「───っ!」
しかし、それと同時に相手も武器を振るっていたようで、僕の戦斧と相手の武器が激突───相手の力の方が強く、戦斧は大きく弾かれ、僕は体勢を崩してしまう。
衝突の勢いで相手の武器も弾かれたが、相手の力の方が強かった分、相手はすぐに体勢を立て直し、僕の胴体目掛けて武器───頭が僕の胴体と同じぐらいの大きさのハンマーを振るってきた。
「───っ」
避けきれない!
それを悟った僕は、戦斧から手を離す。
それにより、一気に体が軽くなり、素早く動けるようになったので、すぐさま後方転回。相手のハンマーをかわす。
攻撃が空ぶったことで、また野太い風音と共に、今度は壁と衝突して、少し崩れた岩がなだれ落ちる音も聞こえてきた。
「はぁ……はぁ……」
僕は洞窟の壁を背にして、襲ってきた相手に目を向ける。
ネフィサファ鉱山にはスーサイドロックしかいないって聞いてたのに、武器を持った相手がいるなんて予想外だ。一体どんな魔獣が───いや、違う。
「おいおいマジかよ……今の全部避けちまうか」
「せっかく当てやすいようそちらに飛ばしてやったと言うのに……何をしている」
「うっせ」
薄暗い洞窟内、足音が近付いてくる。
僕はそちらの方に目をこらした。
そこから現れたのは───人だった。
「にしても、何もできなかった寄生虫が、ようここまで成長したもんだ。どんなカラクリだぁ?」
「どうせ教えてはくれまい。冒険者にとって、力こそが正義だからな。わざわざ敵に塩を送るやつがどこにいる?」
「ふっ、だろうな。だからまぁ、消すんだが」
「本当に気分が悪い。何でこんな寄生虫なんかにチャンスが来るのかしら? 本当に───憎たらしい」
三人共、知っている面々だ。
前まで一応お世話になっていた冒険者パーティ『成長の糧』に所属する三人。
でも、最近では全く関わりが無くなっていて、これからも、関わりは無く終わるものだと思っていたのだけれど……。
「どうして……こんなことを?」
念の為、訊いてみる。
先程の会話からして、理由はなんとなく分かるけれど、それでも、勘違いがあったら事だ。先に、その疑問を解消しておきたい。
「ははは! それ、本気で訊いてんのかぁ? だとしたら、お前は余っ程の馬鹿だぜぇ!!」
「こいつと同じというのは癪だが、俺も同意見だな。冒険者なら、分かるだろ?」
「………」
どうやら、僕の考えは間違っていなかったらしい。
たまに聞く。上位の冒険者が、下位の冒険者を殺すという事件。
冒険者にとって、力こそが上下関係を形作る。けれど、力というのは目には見えにくい。そこで指標になってくるのが、ランクだ。ランクは功績と実力によって上がるもの。高い実力と十分な功績が無ければ上げることができない。故に、冒険者からすると、ランクというのは目に見えやすい力となる。
上位の冒険者は、そのランクによって立場を確立すると共に、その立場が奪われることを恐れるのだ。それ故に、凶行へと走る。
全員が全員そういう冒険者と言う訳では無いが、こういう事件が中々無くならないのもまた事実。
こんなことが続けば、本当に才能のある者が育たなくなり、冒険者の戦力が削がれるため、ギルドも色々と対策を練ってはいるが、冒険者の活動範囲全てを管理・把握しきるのは困難。
だから、中々無くなることの無い、冒険者の闇だ。
「本気で、僕を殺す気ですか?」
「野暮な質問だ」
「あんただって、一応冒険者でしょ? なら、盗賊の退治依頼ぐらい見たことあるんじゃない? それと一緒よ。あんたは、私達の立場を奪おうとする盗っ人。盗賊は、きちんと処理してやらないとねぇ」
「……それは、あなた方の主観でしょう? 僕は、そんなものに興味は無い」
「ふふふ、そんな言葉を信じるぐらいなら───」
『成長の糧』後衛の女・キャリーさんが、杖を構える。杖の先端には、赤々と燃える火の玉が生成されていた。
「はなからっ、こんなことしてないんだよぉぉぉ!!!!」
大きさが僕の体の三分の二ほどの火炎球、それが一直線に飛んでくる。
僕はそれを後退して回避。
今度は、盗賊風の男・インナさんが複数のナイフを投合してくる。
丁度、僕が火球の驚異から逃れきった瞬間での投合。回避から警戒へ意識を切り替えようとした瞬間だ。
ナイフを肩に食らう───ギリギリで、前かがみで走っていた体を無理やり反転、紙一重でナイフをかわす。
しかし、体勢が崩れた。ほとんどバック走の形で、しかも、重心が前に行き過ぎている状態。僕は倒れそうになる。
そこで、追撃に来た戦士風の男・バキャーさんのハンマーが上から迫る。
キャリーさんの魔術で隙を作り、インさんのナイフで体勢を崩させ、バキャーさんでトドメ。
仲はあまり良さそうじゃないのに、連携のレベルは流石の一言だ。
「───っ」
僕は崩れた体勢を直そうとせず、そのまま身を任せることで地面に倒れる。
倒れる前に、僕から見て右斜め前に跳ぶことで少し勢いをつけ、倒れた瞬間に転がり、ハンマーから逃れるためだ。
目論見通り、洞窟の壁際へ転がることで、上から振り下ろされたハンマーを回避。
転がる勢いを利用して、洞窟の壁に背を向ける形で上半身を起こす。
「───」
けれど、そこでまた追撃。
バキャーさんのハンマーが振り下ろされたことで舞い上がった砂煙に紛れ、インナさんが僕のすぐ側まで接近していた。
インナさんのナイフが僕の目に刺さる───前に、なんとか彼の手首を掴み、その攻撃を阻止する。
続けて、インナさんがもう片方の手に持ったナイフを首に突き立てようとしてくるが、それも同じく手首を掴んで阻止。
ここからは、どちらの力が上かの取っ組み合い───にはさせない。すぐまた他のパーティメンバーが追撃に来る、それが分かりきっているためだ。
インナさんの両手を掴んだ瞬間、僕は頭を後ろに引き、インナさんの額目掛けて頭突きを繰り出す。
まさか瞬時に反撃が来るとは思っていなかったのか、インナさんは痛みでよろめき、後退した。
そこからすぐにバキャーさんがハンマーを横薙ぎに振ってくる。
それを読んでいた僕は、バックステップでかわして見せた。
「……っ、……っ」
連携攻撃により呼吸を乱され、肩で息をする僕。それに対し、また攻撃を避けられたことで、バキャーさんが苛立ちを露わにしていた。インナさんも、頭突きを食らったことで、こちらに鋭い目線を向けている。
厄介だ。
攻撃が始まったら、完全に避け切れるまで攻撃が終わらない。
性格はあれでも、Cランクパーティは伊達ではないってことか。
「………」
けれど、妙だ。さっきから気になってることが一つある。
この三人は僕を殺す気だ、それは間違い無い。こんな暴挙に走った以上、逃がす気も毛頭無いだろう。それも分かる、でも、なら、何故───
「マサニさんは、いないんですか?」
そう、僕を殺す気なら、何故『成長の糧』リーダーのマサニ=セコがいない?
あの人は、このCランクパーティの中でも実力が頭一つ飛び出ている。Fランクで素人目だった僕にもそれが分かるぐらい、実力が画していた。
前に言っていたのを聞いたが、どうやらマサニさんには、今僕の目の前にいる三人が束になっても適わないらしい。何故Cランクで燻っているのか不思議な程の実力者だ。
「あぁ? ………あー、ボスのことか。ボスはやることがあるから、後で来るってよ」
「ボスがいたなら、お前なんぞ、一瞬で終わっていただろう。あの人一人の手によって、お前はグチャグチャになっていただろうさ」
「それじゃあ俺らが楽しめねぇ。まっ、ボスなりの配慮ってこったろうなぁ。流石ボスだぜぇ」
「何? セコがこの場にいないからって、もしかしたら助けてくれるかもって期待しちゃった? なら、お門違いもいいところね。セコの異常さは、私達以上よ」
マサニさんの性格の異常さは僕もよく知っている。何より、この『成長の糧』の嫌がらせを長いこと受け続けてきたんだ。そんな人達に期待なんかしてない。
ただ、あの人がいないということが酷く気がかりだった。でも、参戦の意思があるなら、警戒するに越したことは無い。
あの人は、『成長の糧』パーティ内でも異常だから。
でも、今はいないようだから、今の内になんとかここを突破して、ネフィサファ鉱山から脱出しよう。そして、ギルドに伝えるんだ───この人達の、危険性を。
「お前からしたら、ボスが来る前にここを脱出したいだろう。だが、逃がすと思っているのか?」
「あらかじめ、ここに来る前に、後ろで魔力障壁を張っておいたわ。私を倒さない限り、この外には出られない」
「んで、キャリーを倒そうものなら、俺達が盾になる。どっちにしろ、お前は、ここで俺達三人を相手にするしかねぇ。殺られる以外に、道はねぇのさ」
『成長の糧』の面々が下卑た笑みを浮かべ始める。
彼らからしたら、僕を追い詰めた気でいるのだろう。
でも、事実、退路を塞がれた。殺す気で迫ってくる三人を相手に、ここから逃げないといけない。しかも、キャリーさんは確実に倒さなきゃいけないという条件付きで。
クソッ、厄介な……!
この三人を相手に、どうやって逃げれば───
「───」
逃げる?
どうして、僕を殺す気でいる、賊のような奴らから逃げなければいけないんだ?
賊から逃げるのが、騎士のやることか?
「ほら、まだまだ行くよ」
キャリーさんが再び火球を放ってくる。
僕はそれを避けるため、後ろに後退。
そこに、インナさんが火球に紛れて接近してきていた。
インナさんのナイフが、僕の眼球目掛けて、振り下ろされ───
「───っ!」
───る前に、僕は、インナの胴体を潰す勢いで蹴りを放った。
硬いものが潰されるような鈍い音が響き、インナが血反吐を吐きながら、洞窟の壁にめり込んでいく。
僕は……恐れていたのか? 人を殺すことを───自分の手を、汚すことを。
今まで、散々魔獣を殺してきたじゃないか。獣は殺してもいいのに、人を殺すのは駄目? 何だそれ。
しかも、騎士になったら、悪人を取り締まらなければならない。国家に仇なす罪人を───敵を、殺さなくてはいけなくなる。人一人を殺すのに躊躇してどうする!? 相手は、悪人だと、分かりきっている相手だぞ!
最強の騎士になると誓った筈なのに、何を甘ったれていたんだ、僕は!!
こいつらは、ここで野放しにしてはいけない。
ここで取り逃したら、こいつらはまた同じことをするぞ。犠牲者が、出続けることになるんだぞ!
ここで、殺らなきゃ! こいつらの悪性を知っている僕が、ここでっ、殺るんだ!!
僕は、人を殺すために、初めて『気功術』を行使した。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
もし少しでも面白いと思っていただけたら、ブクマ又は感想等 貰えると嬉しいです。作者自身、自己顕示欲の塊みたいな者なんで、貰えると滅茶苦茶 励みになります。
また、誤字や辻褄が合わない点などがあれば即修正に入ろうと思いますので、言って貰えると幸いです。
よろしくお願いしますm(_ _)m。
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