第二十三話 後ろに影あり
ネフィサファ鉱山───持つと使用者に特殊な効果を付与する魔道具の原料・魔石であったり、貴族や王族等の富裕層が購入する装飾の製作に扱われる宝石などが生成されている鉱山。
元々、洞窟にいくつもの穴を掘り、その穴から山へ入って魔石や宝石などを発掘していたそうなのだが、いつからか洞窟内にとある魔獣が現れる様になり、発掘は中止。
今では、人の出入りがほとんど無くなり、魔獣が大量に生息する危険地帯となっている。
今回の依頼は、ここに生成されている魔石を相当数確保する事。
宝石は結構地下深くに潜らないと取れないのだが、地下には地上付近とは比べ物にならない数の魔獣が存在するらしい。だから、宝石確保依頼はCやBに回る事が多い。
その点、魔石は洞窟内のどこでも生成されるらしく、運が良ければ入口付近でも採取可能なので、難易度は少し低めのDに設定されている。
でも、それでもDだ。いっぱしの冒険者でもそれなりに危険が伴う仕事。
何故そんなランクが設定されるか、言わずもがな、ここに生息し出した魔獣が原因だ。
“通称”・自爆石。
正式名称はスーサイドロック。まぁその通称にある通り自爆するのだ。
本体は直径一メートルにも満たない比較的小さな魔獣だが、常に特殊な磁力を放っており、周りの岩を吸い寄せる性質を持っている。その結果、直径一メートル五十センチから二メートルぐらいの巨大な岩のボールとなって、転がりながら洞窟内を闊歩するのだとか。
ただ、こいつの厄介な所はそこではなく、本当に危惧すべき所は、先程も言った通り「スーサイドロック以外の何かが近付いてきた時、体を発熱させて爆発する」という点だ。
正しく自爆。何故そんな性質を持ったかは不明だが、ただただ相手と自分を殺して回る厄介極まりない奴であるのは間違い無い。
爆発させずに対処する方法は一つだけ。
爆発する前に殺す、それだけだ。
冒険者組合では武器の貸出が行われている。
どれも鉄製の最低品質の物だが、貸出料金は僕の一日の食費と同等。しかも、こちらは当然と言えば当然だが、壊してしまったら修理費全額負担というペナルティまである。
しかし、背に腹はかえられないという事で、その中でも一番重かった戦斧を貸し出してもらった。貸出料は他の武器よりも少し割高だったが、仕方ないだろう。
僕が元々持つ鉄剣でも、“気功剣”を使用すれば石ぐらい斬れるだろう。
しかし、相手は石が連なり凝り固まった岩の化け物。表面は斬れても、深部まで刃が届かない可能性がある。万全を期すに越した事はないだろう。
最悪、戦斧で斬れなかったとしても、爆発する前に離脱してしまえば問題無い。その場合、完全に戦斧を借りたのは無駄になってしまうが。
僕はネフィサファ鉱山の前に立ち、その山を見上げてた。
山自体に変わった点は無い。他の山々同様、緑が生い茂っている。
洞窟には入口から整備された跡があり、線路やトロッコは今でもそのまま放置されている。
今回の依頼は、魔石の採取・納品。
これは定期的にギルドから出されている依頼であり、納品数は特に設定されていない。取ってきたら取ってきた分だけ買い取ってくれるというシステムだ。
つまりは、無理をする必要は全く無く、倒せるかどうか不確かであるスーサイドロックに挑まなくても、遭遇したらすぐに逃げるという方法を取れば、問題無く依頼を遂行できる。最悪、入口周辺に生成されているだろう魔石数個を取って帰るだけでもいい。
しかし、それでは稼げる額が少なく、しかも、それで帰ってはDランクの依頼を受けてここに来た意味が無い。
僕は強くなるためにここにいる。ここで尻込みして、何が得られると言うのか。
目を瞑る。
雑念を沈め、覚悟を決めるんだ。
洞窟内は中心部へ行くまでほぼ一本道。帰り道に迷う事は無い。
まずは、スーサイドロック相手にどれほどやれるかを確認する。
僕はスーサイドロックに出会うため、疾走を始めた。
まだ昼間だというのに、洞窟内なので太陽が届かず、薄暗い。
あるのは、いつまでも穏やかな光を発し続ける魔光石の橙の光のみ。これは、魔獣が住み着くようになる前に設置されたものだろう。大量の魔光石が均等に、奥まで設置されている。
「───!」
来た。
ゴロゴロと岩が転がってくる音が聞こえる。
スーサイドロックが前から現れた。
僕は“気功術”で魔力を下半身と腹筋・戦斧を担いでいない左腕に集中。
速度を爆発的に上げ、スーサイドロックに肉迫していく。
普通、剣で硬い物を斬ろうとしても、逆に剣の方が折れてしまう。
だが、持ち手が達人であれば、剣は折れるどころか刃こぼれもせず、石は綺麗に真っ二つに分かれるらしい。
これは、どれだけ力を真っ直ぐ剣に伝えられているか、そして、剣をより石から見て垂直に振り下ろせているかどうかが関係しているらしい。
ほんの少しでも振りが斜めにズレたり、無駄な力が入ってしまうと石斬りは成立しないのだとか。
僕は、達人じゃない。
いくら十数年と素振りを続けてきても、達人の領域にはまだまだ届かない。
だから、純粋な力と武器の頑丈さでゴリ押しするしかない。
剣よりも刃が分厚く重い戦斧に、武器の質を高める“気功剣”。それを、“気功術”で強化した肉体で振るう。
疾走の勢いも利用して、力任せに砕くのみ。
僕は振り上げた戦斧を両手で振り下ろした。
勢いよく斧で攻撃を振るう僕。
いくら岩で固められたスーサイドロックとはいえ、この質量の武器に、今の僕の力が加われば、きっと砕くことができる───そう考えていた。
しかし、いくらレベルを上げ、自信をつけてきたとはいえ、一抹の不安があったことも確かだ。例え、相手がゴブリンカイザーよりも危険度の低いDランクの魔獣とはいえ、防御力に特化した相手には、僕の力は全然通用しないのではないか? ───元最弱が故の、そんな不安が。
だが、いざ行動に移し、結果を見てみると───実に呆気ないものだった。
戦斧による振り下ろし。それにより、岩のボールは簡単に砕け、そして、中心で丸まっているスーサイドロック本体にまで届き、その体までをも潰して見せた。
岩の破片と同時に血飛沫まで漏れ、相手が絶命した事を視認させてくれる。
スーサイドロックを、自爆する前に倒せたのだ。
ここまで力をガン乗せしても岩のボールを二つに砕けなかった事には驚いたけど、それでも、防御力特化なDランクの魔獣を軽々と倒すことができた。その事実により、強くなっていることの実感が得られ、僕の感情が昂る。自然と、両手に力が入り、口角が吊り上がった。
───! いけないいけない。ここはまだ魔獣が蔓延る洞窟内。気を引けしめないと。
僕は絶命しているスーサイドロックへ向けて視線を落とした。
□□□
僕はスーサイドロックの肉を持って入口付近まで戻ってきていた。
これはスーサイドロックに限った話ではないが、世間では、何故自爆する魔獣がいるのかという問いに対し、「自分の力を制御出来ずに暴走させているのでは?」という説がある。
ありえる話だと思った。僕はステータスボードのおかげで、魔獣は魔素というエネルギー物質を体内に含んでいる事を知っている。そして、もし魔石もまた空気中に漂う魔素が原因で生成される物のだとすれば───自動的に幾つもの魔石が生成されるここには、非常に大量の魔素が漂っている事になる。そうやって膨大な魔素が漂う場所で生まれた魔獣だ───体内に含む魔素量もおのずと膨大になる筈。そして、本質が石のスーサイドロックにはその魔素を扱う事が出来ず、結果的に自爆。うん、筋が通る。
しかも、スーサイドロックは死して尚しばらく石を引き寄せる磁場を発し続ける。こういう電磁力だったり爆発だったり、特殊な現象を引き起こす力を僕は“魔”以外に知らない。つまり、この性質もまた、体内にある魔素量が異常故に起こる可能性が高い。尚更スーサイドロックが保有する魔素量が膨大だという事を指し示している。
死して尚、石を引き寄せる為、本体全てを取り出す事は出来なかった。だが、中にあった臓物は引き出せる。
僕はそれを持って洞窟入口へと戻り、そしてその場で焚き火を行った。その火で、木に刺したスーサイドロックの肉を炙り始める。
そうして、熱消毒も終えた所で───僕はその肉にかぶり付いた。
「───っっっ!!」
相変わらずマッッッッッッズ!!
だがまぁ、もう何度も食べてきて舌が慣れ始めたのか、吐きそうになる程ではない。不味い事には変わり無いが。
僕は一気に食べ進めていく。不味い物は長く口に入れたくないという事で、一気に掻き込んで飲み込んでいく感じだ。
「………うっ、っ、ぅぷ」
なんとか完食。
そして、ステータスボードを確認する。
ラクト=ユウキ 種族 (人間) 年齢:16
レベル:8 取得経験値量:16421
筋力 :641
瞬発力:709
体力 :621
魔力 :4039
出力 :142
抵抗力:1024
スキルホルダー:気功術
:気功剣 (空き数1)
スキルリスト
《パッシブ》魔素完全適応
《チョイス》気功術Lv.14
《チョイス》気功剣Lv.5
「よし!」
レベルが七から八へ上がっているのを確認し、僕はガッツポーズを取りながら思わず声を上げる。
このステータスボードでレベルを上げられたんだ。仮説云々はともかくとして、スーサイドロックの肉にかなりの魔素が込められているのは間違い無い。スーサイドロックでのレベル上げは有効。
俺は自然と吊り上がる口角を抑えながら、また洞窟内へと入っていった。
□□□
あれから何度もスーサイドロックを倒しては食すを繰り返した。
スーサイドロックを見つけては砕き、肉を取り出して入口に戻っては焼いて食う。その作業を何回も何回も繰り返して。
わざわざ倒しては入口に戻るというのは些か面倒ではあったけど、レベルアップの為だと考えれば それ程苦痛ではなくて───すでに試行回数は数十回を超えていた。
現在のレベルは───
ラクト=ユウキ 種族 (人間) 年齢:16
レベル:14 取得経験値量:31526
筋力 :1024
瞬発力:1198
体力 :1041
魔力 :7029
出力 :216
抵抗力:2106
スキルホルダー:気功術
:気功剣 (空き数1)
スキルリスト
《パッシブ》魔素完全適応
《チョイス》気功術Lv.16
《チョイス》気功剣Lv.8
《チョイス》自爆術
かなり強くなった気はするけど、レベル十を超えた辺りからレベルアップがしにくくなったな。
てか、『自爆術』? 何だこれ?
僕は『自爆術』の部分に触れてみる。
自爆術←出力のステータスを爆発的に上昇させる
「おっ」
思わず声が出てしまった。
でも、出力上昇スキルは普通に有難い。
気功術による強化具合、僕は異常に魔力値が高いにも関わらずその上昇量はイマイチだった。いや、十分有難い恩恵ではあったんだが……どうも納得いかないと言うか……。
そこで考え着いたのが出力の関係だ。出力は一度に魔力を放出する力の度合いを示す値。だが、もしこれが放出する度合いではなく操れる量を示した値だったら?
もしそれが当たりだった場合、出力を上げるこの『自爆術』を使えば、さらなる強化が見込める。一度に操れる魔力量が増えるということは、それだけ強い強化が見込める、ということだからだ。
『自爆術』───物騒な名前ではあるけど、かなり有用そうな『スキル』だ。使ってみたいな。
スキルホルダー:気功術
:気功剣
:自爆術 カチッ
「───!」
使いたいと思ったら、勝手にスキルホルダー欄に『自爆術』が追加された。
スキルホルダー、今現在すぐに使える『スキル』を示した欄だったと思うけど、意思を汲み取ってすぐに組み替えてくれるのか、便利だな。
一度に使用出来る『スキル』は三つまで、但し、発動する『スキル』は意思によって簡単に選べる、と。
それじゃあ早速、『自爆術』を使ってみますか───
□□□
『自爆術』を行使。
瞬間、左腕の所から異常に熱が溜まっていく。
熱により皮膚は光を放ち始め光源となり。
どんどんと熱が昇ってくる。
首・右腕・胴体・脚───全てに熱が回り、体全身を飲み込んでいく。
まるで、熱が意思を持っているようだ───熱い───。
荒ぶるエネルギー。体全体を包んだというのに───熱い───それでも、熱量の上昇は止まらない。
あまりの熱に、眼球が飛び出るような錯覚を───熱い───覚える。いや、それどころか、僕という一生命を形成する皮・肉・骨───熱い───までもが吹き飛び、全てを強制的に投げ出されるような、そんな───熱い───危機感を覚える。
これは、まずい。このままでは、僕は───熱い───熱い……熱い、熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱───
□□□
「───カハッ、はっ、っ」
意識が戻る。
いつの間にか僕は膝を地面に着けて蹲っていた。
『自爆術』を行使しようとした。
その瞬間、行使したら どうなるかの抽象イメージが脳裏の中で再生された。
俺の体は異常な出力に耐えられない。
暴走───自爆。これを行使して待っている未来が、それだ。
駄目だ………これだけは使えない。使ったら、間違い無く自滅する。それは、出来ないっ……!
僕は気持ちを切り替える為に首を横に振る。
未だに体は震えている。
恐ろしいイメージだった……身の毛のよだつ、どころではない。だが、ここでいつまでも引きずっている訳にはいかない。要は使わなければいいのだ。僕の体は、今、こうして五体満足である訳だし。
「………うしっ」
さらには頬まで叩いて立ち上がる。
まだ時間はある。
レベルアップの続きといきますか。
僕また洞窟内へと入っていった。
□□□
「何してたんだ、あれは?」
ラクトが洞窟に入っていくのを確認すると、先程までラクトが焚き火を行っていた場所周辺の茂みから、盗賊風のバンダナを巻いた男が姿を現す。
その男に続いて、筋骨隆々で、体のあちこちに古傷のある戦士風な男と、大きくて黒いとんがり帽子に、先端が丸まっている気の杖を持った魔法使い風の女も茂みから出てきた。
「はん、ただ単にビビってただけだろ。なっさけねぇ」
「真昼間に焚き火って、馬鹿なのかねぇ」
「あいつは、俺達が街を出るよりももっと前に出発したと聞いている。もしかしたら、万全を期すため、辺りを探索していたのかもしれない。急激に力をつけて調子に乗っているとも聞いていたが、それにしては慎重なことだ」
「あいつにそこまでの頭があるとは思わねぇけどなぁ」
三者三様、口々に、先程のラクトの行動について言及している。
「それにしても、ネフィサファ鉱山か。ボスが急に支度を始めろと言った時は驚いたが、なるほど……確かに、あいつを分からせるには、ここ以上に最適な場所は無い」
「冒険者でも滅多に来ることのねぇ鉱山だ。しかも、近くにあるのは森。わざわざ人目を気にする必要がねぇってのは、ありがてぇな」
「それだけじゃない。ここにいるスーサイドロックも十分使える。あれは、即席の地雷だ」
「私、あの岩嫌いなんだけどぉ〜」
「安心しろよ。こっちに向かってきたら、俺のハンマーで砕いてやるからよ」
「洞窟で長物とは。いざという時、壁に詰まらなきゃいいがな」
「はっ、壁なんて俺にゃあ関係ねぇよ。洞窟の壁ごと全部削り潰してやる」
「……その驕りが命取りにならなければいいな」
「……あ? 何だよ、喧嘩売ってんのか?」
「俺はあらゆる可能性を考え、忠告をしているだけだ。むしろ、その考え無しな態度こそ、俺に喧嘩を売ってるとしか───」
「はいはいそこまで。あんた達、サコの命令、忘れたの?」
サコという名前が出たことで、爆発寸前だった二人が止まる。
そう、ここにいる三人は、ラクトをよく荷物持ちとして同行を許していたCランクパーティ『成長の糧』の面々なのである。
どうやら、この一癖も二癖もあるパーティメンバーの中でも、リーダーであるマサニ=サコは一目置かれる存在なようで、流石にリーダーの言うことを無視して喧嘩はできないと、2人共頭を冷やし始める。
「サコから言われてるでしょ。先に私達であの寄生虫を懲らしめておけって。もしここでくだらない喧嘩始めて、それでサコが来たら、どう言い訳をする気?」
「………悪い」
「すまない」
「全く……ほら、さっさと行くわよ」
「あぁ」
「おう」
魔法使い風の女が扇動し、三人共、ラクトが入った洞窟に侵入を始める。全ては、格下・ユウキ=ラクトを痛ぶるだめに。
三人共、魔獣蔓延る洞窟内だからこそ、それなりに警戒はしていたが、それでも、最大限の注意ははらっていなかった。
場所が、Dランクの魔獣しか出ないとされるネフィサファ鉱山だから。懲らしめる相手が、万年Fランクだった少年だから。そんな理由が故に、警戒を怠ったのである。
彼らは、後悔することになるだろう───あんなことになるのなら、もっとよく注意をはらうべきだった、と。いや、そもそも、ネフィサファ鉱山に入ったのが間違いだった。もっとよく、情報収集をしておくべきだった、と己の怠慢を嘆くことになる。
これより起こるは悲劇。
神により定められた、運命矯正。
今日ここに来た者は、全員、等しく、その選択を悔やむことになるだろう。
あぁ、何故自分は、ネフィサファ鉱山に足を踏み入れてしまったんだ、と。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
もし少しでも面白いと思っていただけたら、ブクマ又は感想等 貰えると嬉しいです。作者自身、自己顕示欲の塊みたいな者なんで、貰えると滅茶苦茶 励みになります。
また、誤字や辻褄が合わない点などがあれば即修正に入ろうと思いますので、言って貰えると幸いです。
よろしくお願いしますm(_ _)m。
次回更新日や更新時間を知りたい方は、私の活動報告やTwitterで色々と呟きをしていますので、そこを見てくださればと思います。プロフィールに行けばTwitterのURLや活動報告が確認出来ると思いますので、気になる方はそちらに飛んでください。
それではまた次回の更新で。





