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第二十二話 上手くいかない事ばかり

 翌日、僕は朝から冒険者組合(ギルド)に立ち寄っていた。


 何故授業に出ていないかというと、今日の授業は全て座学、しかも、すでに履修した範囲であるからだ。


『修練塔学園』の一学年分の座学は半年で全て履修し終えるよう教育課程(カリキュラム)が組まれている。

 しかも、次の学年分の座学を受けるには、実技試験を突破して第ニ学年に上がらなければならない。


『修練塔学園』に通い始めてからこれまで一年とちょい。僕はすでに同じ座学を二回履修し終え、今は三回目と突入している。

 今までは「見落としていた所に強くなるヒントがあるかもしれない」と根気よく受けていたが、流石に三回目となってくると見落としている部分の方が少ない。

 レベルアップにより強くなれる機会も得た訳だし、今の僕からしたら座学を受ける事に全くメリットを見出せない。

 しかも あの座学、あくまでサバイバル技術を学んだりなどの雑学で、戦い方や武器の扱いを教えてくれるものでもないしね。


『修練塔学園』の授業は日にち毎に『模擬戦』や『遠征』などといった実技授業があるか変わっていく。

 今日はそういった実技授業が無い日、という訳だ。


 昨日は結局あのままリーネ先生の言う通り安静にしていたので稼ぎも無い。

 なので、昨日の分も含め、今日でそれなりに稼いでしまおうという魂胆だ。


 ちなみに、ワシド君から負った傷は完治しているものの、跡は残ってしまった。

 僕の顔面右側・右肩から右腕には火傷の跡が色濃く残っている。

 まぁ、こればっかりは闘いを完全に支配出来なかった僕の未熟が原因でもある。甘んじて受け入れよう。リーネ先生の薬のおかげで後遺症も無いし、問題視する必要は無いだろう。


 という訳で、依頼を受ける為にクエストボードの前に来た訳だが……。


「わぁお……」


 クエストボードの前には結構な人溜まりが出来ていた。

 皆冒険者だ。今日朝に更新された依頼の中から良質なものを、我先にと取り合っている。


 しかも、冒険者の平均はC・Dランク。ここにもCランクやDランクの冒険者が数多く溜まっている訳だ。

 Eランクになり、上のランクの依頼を受ける事が可能になった今(Fランクは普通の仕事で言う所の研修生の扱いな為、Eに上がるまで一個上のランクの依頼を受ける事は出来ない)、僕が狙うのもDランクの依頼。ここに混ざらなければいけないのは、必然とも言えよう。


 さぁ……初めての依頼争奪戦だ。

 気合い入れて人混みの中へ入らないと───


 そうやって自分の両頬を叩いて気合いを入れ、いざ前に進もうとした所で、いきなり後ろから誰かに裾を引っ張られた。


「うおっ」


 驚き、後ろを振り向く。


 そこには───


「あの!」


 以前助けた、狐耳の生えた獣人の女の子が立っていた。



   □□□



「君は……!」


 以前、ゴブリンカイザーと戦った時に足を怪我して追い詰められていた獣人の女の子だ。

 金色の髪に狐耳………あれ? それって確か───あぁいや、金色じゃなくて黄色か、これ。


「この前は、助けてくださりありがとうございました」


 獣人の子が丁寧に頭を下げる。


 ただ、朝のこの時間───依頼が数多く存在する この時間は冒険者の出入りが激しい。

 そんな中、場所に構わず頭を下げる子と、見るからに年下の女の子に頭を下げさせている少年がいるとしよう───間違い無く目立つ。

 クエストボードに向かう冒険者がチラチラとこっちを見てくる。


 滅茶苦茶 目立ってる。

 それに、今は───


「あぁうん気にしないで、冒険者は助け合いがモットーだし当然の事をしただけだよ、それじゃあ僕はこれで」


「待ってください!」


「うおぅっ」


 すぐにクエストボードに向かおうとした所で、また裾を引っ張られ引き止められる。


「そ、それじゃあ私の気が収まらないんです! せめて、何かお礼を!」


「え、えぇ……」


 お礼?


「い、いや気にしなくていいよ そんな大した事してないし」


「大した事あります! 聞きました! 一歩間違えていたら命を失っていたかもしれないって!」


「あっいやっ………とりあえずその大声やめて」


「あっ……ごめんなさい……」


「いいんだ今度から気を付けて、それじゃあこれで」


「ですから お礼を!」


「うぐっ」


 どさくさに紛れて去ろうとしたけど失敗。いくら何でもあからさま過ぎたか。


「お礼って本当にいいんだよ、気にし過ぎもよくないよ」


「で、でも……」


「じゃああれだ、これは貸し、もし僕に何かあったら味方になって欲しい、これでどう?」


「………」


 そう言うと、何故か獣人の子は泣きそうな顔でこっちを見る。

 いや、そんな反応をされても。事実、そんな困っていることなんてないし。急に「恩を返させてくれ」って言われて、「はい、そうですか」ってすぐに返答できるやつがこの世に何人いるだろうか?


 ………。


 仕方ない、少し厳しい言葉になってしまうが。


「ごめんね、ハッキリ言うよ」


「へ?」


「今、僕は、誰かに何かをして欲しいだったり、何か手伝ってくれとか、そんな願望は一切無いんだ。言ってしまえば満ち足りてる状態。こんな状態の時に「何かさせてくれ」と言われても、何も浮かばない。逆に、そう言われることが一番の困りごとだ」


「あ……」


 彼女がより一層悲しそうな表情になる。それと同時に、「やってしまった」という後悔の念も表情から伺えるように。

 とても申し訳ない気持ちになるが、して欲しいことが無い時に「何かさせてくれ」と言われても、こちらとしても困ってしまう。

 恩を返そうと言うのに、こちらを困らせる結果になるのは彼女としても本望ではないだろう。だから、ここは本心を伝える。仕方がない。

 しかし、これでは余りにも彼女に失礼だ。こちらの申し訳が立たなくなる。だから───。


「でも、それじゃあ君が納得できない。だから「貸し」なんだ。ここにいることと、その装備から見て、君はこれからも冒険者を続けるんだよね? じゃあ、今よりももっと強くなると思う。僕もそうさ、これからもっと強くなる。でも、そうして強くなって、色々なことができるようになった時、お互い、冒険者を続けていた場合、一人じゃどうしようもならない時が絶対来る。だから、この縁を、その時まで取っておきたいんだ」


「───!」


 彼女の気持ちを受け取る気はある、とアピールはしておく。「君の思いそのものが迷惑だ」と言う訳ではなく「ただタイミングが悪かっただけなのだ」とフォローしておく。


「ズルい言い方でごめんね。でも、将来、いつの日か、僕の味方になって欲しい。未来で何が起こるかは分からないけど、その時、一緒に問題を解決して欲しいんだ。どうだろう?」


「………」


 僕の言葉を受けて、彼女は何かに気付いたようにハッとして、思案するよう一度顔を下に向ける。

 そうして、少しすると、満足いく結論が出たのか、顔を上げる。彼女の表情には、強い意思が宿っているように感じた。


「分かりました。絶対、今よりも強くなって、貴方のお力になれるよう頑張ります!」


「うん、ありがとう」


 そうして、僕は彼女と別れた。

 よかったぁ〜。納得してくれた。あれで納得してくれなかったらどうようって内心ヒヤヒヤしてたよ。

 でも、これで心置き無く依頼争奪戦に参加できる。僕がそうして、改めて前を向くと。


「あれ?」


 多数の冒険者が、依頼が貼られている筈のボードから去っていく。まるで、何かが終わったとでも言わんばかりに。


「い、いや、いやいや、そんなまさか……」


 ボードに目を向ける。

 そこには───。


「あ、あぁぁぁ〜………」


 ほとんど依頼を剥がされた寂しいボードが、ポツンと立っていた。


   □□□



「この依頼お願いします」


 争奪戦でまともな依頼を取れなかった僕は、意気消沈しながらも、唯一残っていたDランクの(つまりはあまり旨みの無い)依頼書を持って、受付の方に足を運んでいた。


「あ」


「え?」


 そうして足を運んだ受付には、この前ガルクさんと言い合いをしていた・よく僕の持ってくる依頼を受理してくれる眼鏡をかけた受付嬢さんがいた。

 受付嬢さんに驚いた顔をされる。


「………」


「……」


 え、何この間?


「あの」


「………」


 目を逸らされる。えぇ……?


「……その、顔の傷はどうしたんですか?」


「え? あぁ……これ。実は昨日学院で実技の際に少しヘマしちゃいまして」


「そう、なんですね……」


「……」


 なんか歯切れが悪い。本当にどうしたんだ……?


「その……」


「───?」


「いえ、何でもありません……」


「はぁ……」


「………」


「……」


 またしても沈黙が降りる。

 何だこれ、すっごい気まずい。


「あの、依頼……」


「あ、はい、今すぐ受諾いたし───」


 僕が依頼書を渡し、受付嬢さんがそれを確認する───と、彼女は何故か目を見開き、固まってしまった。何か驚いたといった感じだ。


「……? あの……受付嬢さ───」


 どうかしたのかと声をかけようとした瞬間───彼女が、一瞬、ニヒルな笑みを浮かべたような気がした。


「え……?」


「分かりました、鉱山での魔石発掘依頼ですね。すぐに受諾いたします」


「あ、はい」


 だが、気付くと受付嬢さんはいつもの営業スマイルへと戻っていて、テキパキと仕事を終わらせていく。

 あれ? 気のせい、だったか……?


「はい、完了しました。それでは、頑張ってください」


「……」


 僕は頭を下げ、受付を去る。

 無事に依頼は受理してもらえたけど、どうしてもさっきの笑みが気になる。

 何か企んでいた人間が、思わぬ好機を得たような表情。依頼書を見てからその表情を作ったな。この依頼、もしかしたらいわく付きかもしれない。


「………」


 とりあえず、何があってもすぐに対応できるよう準備しとこう。

 そうやって気を引き締めた所で、僕は依頼先である()()()()()()()()へと向かった

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


もし少しでも面白いと思っていただけたら、ブクマ又は感想等 貰えると嬉しいです。作者自身、自己顕示欲の塊みたいな者なんで、貰えると滅茶苦茶 励みになります。

また、誤字や辻褄が合わない点などがあれば即修正に入ろうと思いますので、言って貰えると幸いです。


よろしくお願いしますm(_ _)m。


次回更新日や更新時間を知りたい方は、私の活動報告やTwitterで色々と呟きをしていますので、そこを見てくださればと思います。プロフィールに行けばTwitterのURLや活動報告が確認出来ると思いますので、気になる方はそちらに飛んでください。


それではまた次回の更新で。

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