第二十話 視界が晴れれば味方も見える
僕は現在医務室に運ばれており、傷に回復促進効果のある軟膏を塗られ、包帯を巻いてもらっていた。怪我をしたのが顔の右半分と右腕・右肩だったので、その部分全体に包帯が巻かれたせいか どこかの不死性の魔獣の様な風貌になっている。
ちなみに、ケイン先生はすでに修練場の方へ戻っていた。
「全く……また随分と酷い怪我ね」
そうやって僕の前から話し掛けてきたのは、すでに顔馴染みとなった『修練塔学園』の雇われ治癒師・リーネ=アルマ先生。
色素の薄い緑色の前髪を一対一の比率で掻き分け、背中ぐらいまである長い後ろ髪を三つ編みにして纏めている。おっとりとした目に、縁ありの丸眼鏡が特徴的で、いつも私服の上に白衣を着ている。
かれこれ、この先生とは入学して以来からの付き合いだ。
僕は模擬戦や実習がある度に怪我をして この医務室に運ばれてくるので、最早 週に四・五回 顔を合わせる仲になっている。
「どうしたら そんな怪我を負うのかしら」
「あははは……その、『スキル』を真正面から受け止めようとして……」
「はぁ!? ………アナタ、もう少し利口な子だと思っていたけど……そうでもないのね」
リーネ先生に呆れられてしまう。
リーネ先生の中では、僕はまだ弱い男子生徒のままなのだろう。そんな生徒が、こんな火傷を負わせる様な『スキル』に真正面からぶつかった───うん、無謀以外の何ものでもないなぁ。
「はぁ………この学院を諦めろとはもう言わないけど、それならそれでもっと立ち回りに気をつけなさいって何度も言ってきたでしょう。最近は「来なくなったなぁ」って安心していたのに……その矢先にこれって……心配する身にもなって欲しいわ」
「………」
そう、リーネ先生は前に『修練塔学園』から去るよう勧めてきた時がある。当初から怪我を負う事が多かった僕に「わざわざ この学院に縋り付く必要は無い」「まだ他にも沢山の道がある」と諭してくれていたのだ。
でも、その度に僕がかぶりを振るので、並々ならぬ事情があるのだろうと考えたのか もうそれは言わなくなっていた。でも、その代わりに「もっと怪我をしない様に注意しなさい」と促される様になったけど。
そう言われていたにも関わらず、こうやってまた怪我を負ってリーネ先生の心配を掛けてしまった。その事に、罪悪感が募る。
「ごめんなさい……リーネ先生」
「はぁ……反省しているなら行動で示して欲しいわ。もうこれで何度目?」
「返す言葉も無いです……」
「全く……」
リーネ先生がまた溜め息をつきながら、薬品を片付けていく。
薬品を片付け終わると、また僕の方に先生は戻ってきて、僕の両手を握り、僕の腰の上に置いて。
「いい? こんな事を続けていたら、いつか取り返しのつかない大怪我を負う事になるわよ。今はただ運良く助かっているだけ。もし その運が尽きたら、一生後悔する様な事が必ず起きるわ。アナタの体は一人のものじゃないの。産んでくれた両親・面倒を見てくれた顔馴染みの人々・そして私、自分では分からなくても、沢山の人がアナタを心配しているのよ。アナタが怪我をしたら、悲しむのはアナタ一人だけじゃない。その事を胸に刻んで、これからはしっかりと気を付けて」
「───!」
目頭が熱くなる。
今まで、僕は一人で抱え込み、そして味方はいないと勝手に決め付けて、半分自暴自棄になっていた。こうやって僕の事を心配して優しく諭してくれるリーネ先生の事も、どこかで疎ましく思ったいた。この人は、僕がどんな気持ちで頑張っているのかを知らない・僕がどんな思いで頑張り、苦しんでいるのかを分かっていない、だからそんな事が言えるんだって。
でも、余裕が出来た今だからこそ、リーネ先生の言葉の真意が分かる。先生は、本当に僕の事を心配して言ってくれていたんだ。僕の事が心配で、あぁやって諭してくれていたんだ。
この学院に味方はいないと思っていた。
でも、そんな事無かった。
リーネ先生は、最初から僕の味方だった。
胸が熱くなり、それと同時に、今までそんな事にも気付けなかった自分が情けなくなる。
「………はい、ごめんなさい」
何とか涙を堪えながら、僕は俯き、そう答えた。
一瞬、リーネ先生が驚いた様な顔をする。でも、すぐにと微笑み、「うん」と返してくれた。
とそこで、コンコン、とドアをノックする音が響く。
「失礼します」
そうしてドアを開け、入ってきたのは───キリシア君だった。
「怪我かしら?」
「いえ、ラクト君の様子を見に」
「あら珍しい」
「……」
ストレートに「珍しい」と言われ、さっきまで熱くなっていた胸にしこりが溜まる。「珍しい」と言われる事に、なんかちょっと悲しさを覚える。
「それじゃあここどうぞ。私はそこで薬品の整理をしてるから」
「あ、ありがとうございます」
2人共うすら笑いを浮かべ、キリシア君は僕の前にある椅子に、リーネ先生は壁際にある薬品が並べてある棚に移動していく。
どっちも見事に作り笑いだ。え、仲悪いのかな二人。あぁいや、キリシア君は首席。滅多に傷を負う事は無いだろうし、ほぼ初対面なのかも。それなら、あんな風になるか。
「傷はどうだい?」
「あぁうん、大丈夫……です」
「あははは、変に敬語は使わなくていいよ。ラクト君の方が一つ年上なんだし。それに、学院は実力順。確かな実力があるんだから、尚使わなくていい」
「あぁ……そう言ってもらえると」
「うん」
キリシア君が笑みを作る。
「それで、どうしてキリシア君が……?」
「あぁうんそうだね、勿論 話したい事があってきたんだけど……その前に、一つ訊いてもいいかな?」
「うん……別にいいけど」
「良かった。じゃあ質問。ラクト君さ、“気功術”、使えるよね?」
「───!?」
僕は目を見開いてしまう。
「………どうして……?」
「やっぱり! 最後の一撃を見て、そうじゃないかなぁって思ってたんだ! まさか、同世代で“気功術”を扱える人に出会えるとは思ってもみなかった」
キリシア君は、抱えていた悩みが晴れた様に・思いも寄らぬ発見をした時みたいに、満面の笑みで発見を喜んでいた。
「“気功術”という“技”は、実力者にとっての最低基準だからねぇ。そこに達せない者は上にはあがれない。でも、実力者になる為の最低基準だからこそ、習得には大量の時間と理に適った修練が必要になる。僕だって、父上からそれを聞き、父上の伝手で様々な現役騎士の方々に修練を手伝ってもらったからこそ、入学前に習得出来たんだ」
「………!」
キリシア君も、“気功術”を……?
「この学院の学は悪い。騎士になる為、“気功術”は必須の“技”なのに、それを教える事はしない。感覚で学ばせようとする。まぁ、感覚でそこまで辿り着けない者に高みは無いという意見には同意するけどさ」
「……」
そう、だったのか……。
“気功術”───禁書観念的身体能力値表示板を手に入れた時に与えられた僕の『スキル』。
スキルリストに表示されているから、てっきり『スキル』だと思っていたのだけれど……世間一般的には違うみたいだ。
“技”。
努力と技術で到達出来るもの、か。
あれ? でも、“気功術”って魔力を必要にする“技”だよね。でも、元々の僕の魔力値ってゼロだったと思うんだけど………あれ?
やっぱり、誰でも到達出来るものじゃない……?
「だから、しばらくは同世代に“気功術”を扱える様な人は出ないって思ってたんだ。でも、どうやらその考えは違ったみたいだ」
僕が“気功術“について考えている間にも、キリシア君の話は続いていく。
「君もさ、そうやって努力に努力を積んだからこそ、そこに到達出来たんでしょ?」
「あ、いや、僕は……」
「いやぁ、嬉しいなぁ。これで僕も、やっと成長が伺える」
「え……?」
「ラクト君、怪我が治ったら───」
「次は僕とやろう」
「───!!」
「君なら、僕とやれるよね? いやぁ、楽しみだなぁ」
「え、ちょっ!」
「それじゃあねラクト君。要件はこれだけなんだ。なるべく早く治してね」
そう言って手を振り、僕が制止する暇も無く、キリシア君は医務室を出ていってしまった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
もし少しでも面白いと思っていただけたら、ブクマ又は感想等 貰えると嬉しいです。作者自身、自己顕示欲の塊みたいな者なんで、貰えると滅茶苦茶 励みになります。
また、誤字や辻褄が合わない点などがあれば即修正に入ろうと思いますので、言って貰えると幸いです。
よろしくお願いしますm(_ _)m。
次回更新日や更新時間を知りたい方は、私の活動報告やTwitterで色々と呟きをしていますので、そこを見てくださればと思います。プロフィールに行けばTwitterのURLや活動報告が確認出来ると思いますので、気になる方はそちらに飛んでください。
それではまた次回の更新で。





