第十九話 勝負の着き方は一辺倒ではなく
スキル『暴情渦巻き災禍』
自身の怒り・妬み・苦しみといった負の感情を魔力に伝え、己の武器に集中させる。そうやって発生し・溜め込んだエネルギーを、相手に向かって一度に放つのがこの『スキル』。
魔力もやはり人に備わっている力。その時の精神状態によって大きく左右される。
人の感情の中でも負の感情は特に精神を揺さぶる力が強い。その感情に乗せて発揮させるのだ───荒ぶり・纏わりは無いものの、強い。
まだまだ魔力の扱いが未熟なワシドでも、この『スキル』を使用すれば、一キロ先の建造物だった簡単に破壊出来る───それぐらい、飛距離・威力を向上するのだ。
しかも、これは純粋なエネルギーによる攻撃だ。ただの打撃では、弾き返す事は愚か、威力を弱める事すら出来ない。
それを考えると、立ち向かう決意をしたラクトは悪手を選択した───そう思われても仕方が無いのかもしれない。
だが、使用した“技”が良かった。“気功剣”───“気功術”から派生した技の一つ。
一般に、武器の斬れ味を向上させると思われている技だが、本質は違う。
何故 斬れ味が向上するのか───それは、武器に魔力を集中させ、武器の質を高めているから。
魔力とは故意にエネルギーを生み出す為に用いられる力だ。武器に魔力を集中させる事でエネルギーを生み出し、そのエネルギーを武器の変質に当てる。そうやってエネルギーを蓄積された武器はさらに鋭利に・さらに強固になる。
魔力の刃───エネルギーの刃、それが“気功剣”の正体。
エネルギーに対抗するには同じくエネルギーをぶち当てるしかない。
幸運にも、ラクトの“技”はワシドの『スキル』を跳ね返す性能を持っていた。
今、二人の攻撃がぶつかり合う。
□□□
「ぬぁぁあああぁあああヴィレクぅぅぅカタリファぁぁぁああああああ!!!!」
ワシド君が馬鹿みたいにエネルギーを帯びた木刀を振り下ろした。
その瞬間、まるで解放されたかの様に強大なエネルギーが僕へ向かって迸る。
ここで止める!
僕は力強く右足を踏み込み、魔力を盛大に溜めた木刀を横に振り切った。
強靭な紫電エネルギーと光り輝く武器がふつかり合う。
───瞬間、僕を軽く飲み込む大きな爆発が起き、激しい轟音と衝撃が辺りを襲った。
女子生徒は悲鳴を、男子生徒は驚きの声を上げる。
キリシア君はその中でも微動だにせず立ち、勝負の行方を見守っていた。
少しすると衝撃は落ち着き、爆発が起きた地点では濃い煙が立ち昇る。
「はぁ……はぁ……」
ワシド君は刀身がほとんど無くなった木刀を握り締め、肩で息をしている。
汗を腕で拭い、剣を振り下ろしたままだった体勢を整え、こっちを確認する。
未だ煙は立ち昇り、ワシド君からは僕が見えないだろう。
だが、それもすぐに終わる。
煙が晴れ始める。
「───」
すると、ワシド君は目を見開き、その驚愕を顕にする。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ」
ダメージを負いながらも、僕がその場に立っていたからだ。
僕の木刀もまた、その刀身が焦げ、ほとんどが無くなっていた。しかも、すぐにその元木刀だった物を地面に落としてしまう。
顔の右側部分・右肩・右腕の表面が焼かれ、僕は右目を閉じ、右腕を左手で抱えている状況だ。焼かれた部分が尋常じゃなく熱い……いや、痛い。
でも、そんな状況でもワシド君の方を見やる。死角から追撃なんてされたら たまったものじゃないから。
だけれど、流石に耐えれなくなり、両膝を地面に着けてしまう。四つん這いに近い形になり、足りない酸素を補給する為か呼吸が荒くなる。
「これは何事だ!?」
と、そこでケイン先生が丁度医務室から戻ってきた。
すぐにこっちに駆け寄り、僕の状態を確認し出す。
僕はその間に後ろに視線を移す。
後ろにいた女子生徒二人は、先の衝撃で驚いたのか腰を地面に着け惚けていた。
良かった………無事か。
僕は安堵の息をつく。
例え、あの二人もまた僕に対する苛めを見過ごしていた奴らだったとしても、僕とワシド君の戦闘で傷つくのは間違っている。
この戦闘に関して言えば あの二人は無関係だ。そういう理不尽は僕が忌み嫌う事だ。だから………それを防げて良かった。
「とりあえず、話は後だ。ユウキ、今からお前を医務室へ運ぶ。立てるか?」
「ハァッ、はぁ………はい」
よろけながらも何とか立ち上がり、ケイン先生の肩を借りながら歩き出す。
あぁ………今日は何か疲れたな。
□□□
ラクトがケインに連れられ修練場を後にする。
それを、ワシドは刀身が無くなった木刀を片手で握り締めながら見送っていた。
ラクトが見えなくなると彼は俯き、力いっぱい唇を噛み締める。
一応、ラクトの戦闘続行不可能な傷を負わせたのだから、この模擬戦はワシドの勝利と言えるかもしれない。
しかし、彼は釈然としない気持ちを抱えていた。
それは、彼の渾身の一撃を食らいながらも、ラクトが意識を保ち、それどころか吹き飛ばされもしなかった事が起因しているのだろう。
完全な勝利ではなく判定勝ち。どこかスッキリとしない幕引きにより、彼は複雑な気持ちを抱える事になった。
「君の負けだね、ワシド」
と、その後ろからキリシアが近寄ってくる。それも、敗北の言葉を持って。
「あぁ?」
当然、ワシドはその言葉に納得出来ず、キリシアの方を睨み付ける。
「どこが俺の負けだって言うんだよ。事実、俺じゃなくラクトが医務室へ運ばれていったじゃねぇか」
「いいや君の負けさ。前を見てみな」
そう言われ、渋々ながらもワシドは自分の前方に視線をやる。
「あそこで腰抜かしてる女子生徒二人が何だって言うんだよ」
「彼女達は、君が『スキル』を放つまであそこで闘っていたんだよ」
「だから、それが何だって───」
「まだ気付かないのかい?」
キリシアの物言いがよく分からず、ワシドは眉を顰める。
「はぁ………いいかい? もし、君と闘っていた彼が避けていたら、どうなっていたと思う?」
「え?」
「君のあの『スキル』は強力だ。それは君自身がよく分かっている事だろう。でも、それと同時に発動までの時間が長い。あんな長い予備動作があったら当たらない、て僕は君にずっと言ってきた筈だよね」
「………それは、お前に限った話だろ」
「闘っていた君の方がよく分かっているだろう。彼は君と同じスピードタイプ。あれはここにいる修練生中でも上位の速さだ。そんな彼が、あんなあからさまな攻撃をかわせない訳無いだろう」
「………」
「もし彼がかわしていたら、君の『スキル』はあそこで爆発なんかする筈も無く、そのまま直進していっただろう。そうなると、どうなっていたかな」
「───あ」
「やっと気付けたかい? そう、そうすると君の『スキル』はあの女子生徒二人に当たっていたんだよ。君の模擬戦と何ら関係の無い生徒二人に深い傷を負わせる所だったんだ、君は」
「……っっ」
「だから彼はかわさなかった。いや、かわせなかったと言う方が正しい。やむを得ず受け止めた。しかも、そうした上で、君の最大の一撃をほとんど掻き消している。もう言い訳の余地は無いよね」
キリシアの指摘が的を得ているからか、ワシドは黙り込み肩を震わせている。
「彼の勝ちだ。彼の方が強く、周りも見えており、冷静だった。しかも、『スキル』に対し ただの“技”で対応してしまうのだから、彼の強さに疑いは無い」
「……技?」
「それを知らない時点ですでに負けてるんだよ、ワシド」
そう言い、キリシアがワシドの横を通り過ぎていく。
「彼の強さは確固たるものだ。強くなりたいなら、まず それを認める事だね」
背中を向けながら手を振り、キリシアは修練場を後にする。
ワシドはそのまま立ち尽くし、屈辱に身を焦がす事となった。
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