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第十八話 追い詰められた獣は憤る

 ワシドは強さに貪欲な少年だった。


 一番強い男になる───それが彼の夢。


 幼い頃からその夢を持ち、叔父叔母に育てられながらも、朝から晩まで剣の振りを確認し、自身が生まれ持った『スキル』を理解して、必死に全ての力の向上にほとんどの時間を捧げてきた。

 例え、手のマメが潰れて血がしたたろうと、筋繊維が千切れ体が悲鳴を上げようとも、彼は鍛錬を断行し続けてきた。

 そうして、学院に入学する頃には、彼には「誰よりも強くなった」という自負が生まれていた。学院への入学など、彼にとっては“最強”の証明でしか無かった。


 しかし、現実はそう上手くいかない。


 同年代にいた天才・“剣聖”の息子・キリシア=メフィスワート。彼の存在が、ワシドを“最強”から遠ざけた。

 “最強”を目指す彼にとって、次席での入学は耐え難い現実だった。

 ひたすら鍛錬を繰り返し、授かった『スキル』を伸ばし、そうして確かな実力を身に付けたにも関わらず上がいる、それも()()()()

 あれだけ血のにじむ努力を続けたというのに、まだ上がいるのか───その事実は、彼の自尊心を大きく傷付けた。


 だが、それでも腐らなかったのは、一重に精神の強さがあったからだろう。


 現実を受け入れる精神(こころ)の強さ。


 ギリギリでだが、彼はその悔しさ・憎らしさを向上心へと昇華して見せた。

 まだ“最強”へと至れないのなら、立ち塞がる奴ら全員踏み倒して前へ進めばいい。まずは、“剣聖”の息子(キリシア)からだ、と。


 そうして、ワシドは入学してからキリシアに挑み続けた。どんな授業でも彼と競い、挑戦した。


 だがまぁ、そうやって彼が上へと挑める様になったのは精神の強さだけが理由ではない。


 次席───それはつまり、首席(キリシア)以外の生徒よりは上だという証明に他ならない。

 自分は強者の位置にいる・あの鍛錬の日々は無駄ではなかった───その事実・その自信もまた、今日までの彼を支えていた大きな要因だった。


 だが、それも今───



   □□□



 ワシドの攻撃が大きく弾かれる。

 さっきまで防戦一方だった筈が、いつの間にか対応され始めている。


 速度ではワシドの方が僅かに上回っていた。それは、ラクトが防戦に回るより前に打ち合った時に証明されている。

 しかし、筋力ではラクトの方に分があった。その証拠に、走る勢いを乗せて放った斬撃が、初速ゼロから放たれたラクトの斬撃に押し返されている。


 最初ワシドは攻撃を弾かれた事に動揺しつつも、すぐに気持ちを切り替えラクトから距離を取り、またスピードによる撹乱かくらんを再開し始めた。

 今の一撃はたまたまタイミングがあっただけの偶然だ、見切られた訳では無い───そう自分を納得させて、また攻勢に移り出す。


 しかし、そこからは一方的だった。


 攻撃を仕掛ける側は変わらずワシドではあったが、そのことごとくがガードされ、それどころか何回か攻撃を弾き返される始末。

 攻撃が弾き返された時は体も後ろに弾かれ体勢を崩すワシドではあったが、上手く地面に転がる事で体勢を整えてすぐにスピードに乗り始める。だから、一見戦況はラクトの防戦一方で変わっていない様に見えた。


 しかし、心境には大きな変化があった。


 今まで底辺だと見下していた相手に攻撃を見抜かれ・あまつさえ押し返される始末。

 その事実が、プライドの高いワシドの心を追い詰める。


 ワシドは強く歯軋りし、ラクトの不意を突く為、撹乱の途中で彼の背後に近寄り、跳んで上からの攻撃を仕掛けた。


 それが最後の皮切りとなる。


 ラクトは、その攻撃にすら対応して見せた。完全に見切り、木刀諸共(もろとも)ワシドの体を横に弾き飛ばす。


 弾き飛ばされたワシドはギリギリの所で受け身を取り、地面を転がる事でなんとかダメージを最小限にするも───その一撃で、彼の事を認めざる得なくなっていた。


「………っ!!」


(あぁもう分かった、分かったよ! 認めてやる! こいつはもう底辺なんかじゃねぇ! 余程素晴らしい努力を積んだんだろうなぁ! 俺との差が縮まってやがる! 努力したつもりでも、努力の方向性はこいつの方が合ってたって事だろうなぁクソが! どいつもこいつも、苛つく事ばっかだぜ!!)


 ワシドは遂にラクトの実力を認め、木刀を強く握り、激しく彼を睨み付ける。


(こいつは実力者だ。それは認める………だが)


 改めて両手で木刀を強く握り直し、左足を前に出し、木刀を立てて頭の右手側に───八相の構えを取った。


(俺より上なんて事は有り得ねぇ! あってはいけないんだぁ!!)



   □□□



 ワシド君が一度距離を取り、構えを取り直している。


 凄い剣幕で睨んでくるな。やっと、僕の事を相手として認めてくれたのかな。


 逆に僕は凄く落ち着いていた。

 体は熱いのに、内はどんどんと冷めていく。いや、冷めていくというよりは……視野が広がっていく感覚。闘いの最中だっていうのに、ワシド君以外の情報もどんどんと入ってくる。

 後ろで打ち合っている女子生徒の声と音まで耳に入る始末だ。この感覚は、何なんだろう……?


 僕はただ、ベテラン冒険者(ガルクさん)の闘い方を模しただけ。ただ、彼の様に無駄を省いた闘い方をしようとした、それだけだ。

 それで、これだけ変わるのか。確かな力を身に付け、完成された一つの型を見ただけ。でも、それでこんなにも変わる。


 そう思うと、少し悲しくなるな。今までやってきた事、そのほとんどに意味が無かったって事になるから。


 一人で考えるだけじゃ駄目だったんだ。それに気付けただけでも、今日この授業を受けた意味があった。


「───!」


 突然、ワシド君の方から大きな音と共に結構な風が襲ってくる。いや、風が襲ってくると言うよりは、何かによって激しく発生した風が僕の方にも当たっているといった感じだ。

 僕は両腕を顔を覆いつつも、隙間からワシド君の方を確認する。


「───っ!」


 それは、普通の力では無かった。


 恐らくまだ握っているだろう木刀から、紫色の瘴気とも炎とも言える様な可視化されたエネルギーが激しく生成され、木刀の向きに沿う形で天に昇っている。


 普通の人間に起こせる現象じゃない。明らかに『スキル』か魔術を使用している。


 別に、この模擬戦において『スキル』の使用は禁じられていない。魔術も然りだ。

 剣と魔術両方を扱う人間はそういないから模擬戦で魔術を使っている生徒は見た事無いが、互いに全力で闘い高め合うという名目上、模擬戦において『スキル』の使用は認められている。それどころか、推奨されているぐらいだ。


 恐らく、このワシド君が扱う超常の力も、普段の模擬戦では見慣れた光景なのだろう。僕はいつも即ボコボコにされて医務室に運ばれていたから よく知らないけど。

 その証拠に、ワシド君のこれはかなり目立つというのに、他生徒に動揺は見えず、僕がワシド君にこれを発動させたという事で「おぉ……」と声を上げる生徒が数人いるぐらいだ。


「………」


 これ、食らったらまずそうだな。放たれてすらいないのにこの風圧、絶対に尋常じゃ無い。

 でも、こんなあからさまな予備動作があったら、流石に当てるのも難しいと思うんだけど………何かあるのか?

 とりあえず、あれが放たれたらすぐにかわせるよう僕は少し重心を下ろし───


「───!!」


 そこで気付いた。

 僕の後ろで模擬戦を行っている女子生徒のペア。

 二人共かなり実力が近いからか、目の前の闘いに集中し過ぎてこっちを見ていない。『スキル』の発動も珍しくない事が相まってか、完全にスルーして競い合っている。


 やばい! もしこれを避けたら、あの二人に被害が行く。でも、注意するにしても時間が───


 考えてる暇は無い。僕は即座に()()()()()()()()()


 今現在の最強の一撃を持って、ギリギリまで相殺するしかないっ。


 さらに木刀へ魔力を流して気功剣も発動。木刀が白色に淡く光り出し、周りの空気が揺らぎ始める。


「ぬぁぁあああぁあああヴィレクぅぅぅカタリファぁぁぁああああああ!!!!」


 そうして、ワシド君より強烈な一撃が放たれた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


もし少しでも面白いと思っていただけたら、ブクマ又は感想等 貰えると嬉しいです。作者自身、自己顕示欲の塊みたいな者なんで、貰えると滅茶苦茶 励みになります。

また、誤字や辻褄が合わない点などがあれば即修正に入ろうと思いますので、言って貰えると幸いです。


よろしくお願いしますm(_ _)m。


次回更新日や更新時間を知りたい方は、私の活動報告やTwitterで色々と呟きをしていますので、そこを見てくださればと思います。プロフィールに行けばTwitterのURLや活動報告が確認出来ると思いますので、気になる方はそちらに飛んでください。


それではまた次回の更新で。

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