第十七話 頂を夢見る獣は吠える
「えっと……」
いきなり今まで特に繋がりの無い人に声を掛けられて困惑してしまう。
「………?」
声を掛けてきた銀髪の男子は笑みを浮かべたまま首を傾げる。恐らく、僕がすぐに返事をしなかった事に疑問を持ったのだろう。
周囲が少し騒がしくなる。
「お、おい…………あれ……」
「嘘だろ……キリシア?」
「何で首席が、あいつなんかに……」
首席!?
僕は改めて目の前にいる銀髪の男子に視線を集中させる。
この人が、今年の首席……!? 道理で……騒がしくなる筈だ。
でも、何で首席が僕なんかに勝負を?
「おい! ちょっと待てよキリシア!」
と、僕がさらに困惑を深めている横で、銀髪の男子───キリシア君に後ろから声を掛ける生徒がいた。黒髪で鋭い目付きをした威圧感のある生徒だ。
その声を聞いて、キリシア君は溜め息をつき、後ろを振り返る。
「………何? ワシド」
「どうもこうもねぇ! てめぇ、俺との勝負の真っ最中だろうが!!」
「あぁそれ? なら、棄権する。僕の負けだ。ほら、これでいいでしょ?」
「───!! ふざっけんなよぉ………おいっ」
キリシア君のおざなりな態度に、黒髪の生徒───ワシド君は眼光を鋭くさせていく。
だが、周囲はそんな二人のやり取りを他所に、別の事でさらにざわつきを増していた。
「お、おい………次席のワシドまで」
「何でトップツーが二人揃って あんな底辺の所に……?」
「………っ、何がどうなってんだ……!」
どうやら、ワシド君もワシド君で今年の次席という実績を持った生徒みたいだ。
僕は今まで目の前の事で手一杯だった。
その日その日を耐え忍ぶ事で全力を使い果たし、上なんてとてもだが見る暇が無かった。
僕が入学を果たした時の首席ならいざ知らず、今年入学してきた生徒の事は、苛めてきた生徒を除き、ほとんど知らない。
ワシド君の事もキリシア君の事も、知る余裕が無かった。
でも、何でそんな実力者がこっちに来るんだ?
二人は話を続けていく。
「そいつ、知ってるぞ。ラクト=ユウキだな、底辺中の底辺。この学院きっての雑魚。そんな奴がちょっと強くなった所でたかが知れてるだろうがっ。んなのに、そいつとの勝負を取るのかよ!?」
「雑魚かどうかは誰が決める事でも無い。強さの基準は人それぞれだ。思っても口に出して言う事じゃ無いだろ」
「じゃあ、何だ? 俺との勝負よりもそいつとの関わりの方が有意義だって言いたいのかぁ? そいつの方が、俺より強いと!?」
「僕は人の実力について無闇に口出しすべきでは無いと言っただけなんだけど………まぁ、君より上かどうかは、今から確かめる所だ」
そう言ってキリシア君はワシド君から視線を外す。
それにより、ワシド君は屈辱で表情を歪め、
「おいてめぇぇぇ!!!!」
僕の方を指さして、大声で呼び掛けてきた。
「は、はいっ」
いきなり声を掛けられたものだから少し驚いて肩が跳ねてしまう。
「俺と先に勝負しろ! キリシアとの勝負はその後だ!」
「おい、ワシド、どういうつもりだ」
「どうもこうもねぇ! てめぇが先に模擬戦を中止するのがわりぃんだろうがっ!! なら、先に対戦相手選ばせろ!!」
「───! それは、まぁ……一理あるか」
恐らく、ワシド君が言いたいのは───元々今日の模擬戦闘の授業はキリシア君との戦闘に用いようと考え、実際さっきまでキリシア君もそれに同意していた訳なのに、急遽中断され、計画が狂わされた、だから先に相手を選ばせろ、て感じの事なのだろう。
確かに、計画を狂わされたという意味では、害を被ったのはワシド君だ。なら、先に相手を選ぶ優位性を持ってもいいだろうという話。
でも、それ、完全に僕の意見が取り入れられてないよね。
相手を尊重する意思を無く、自分本位で、自分勝手。これが、将来騎士になろうという者達の次席の姿か。「ふざけるな」と、声を大にして言いたい。
強い相手───それも、憤りを感じた相手と戦えるということで、僕は反論せずにワシド君の提案を受け入れた。
戦いを開始するため、正眼の構えを取る。
「へぇ……」
それを見て、何故かキリシア君が感嘆の声を漏らした。
しかし、構えた時点でもう模擬戦は始まってるのと同義。他の事に気を回している余裕は無い。
この模擬戦の授業は一ペア毎に審判がつく訳では無い。
だから、「始め」の挨拶も無い訳で───お互いに構えてから一拍置いた所で開始となる。
相手は次席。さっきの三人よりも絶対に実力は上。先手を譲るべきではない。
僕は右足を踏み込み、一気に加速した。
「───!?」
ワシド君の懐に潜り込み、そして、上段からの振り下ろし。
表情からして意表を突く事には成功したが、ギリギリの所で反応され、木刀を頭より上の位置に持ってこられガードされてしまう。
流石っ。
だけど、ここで止まらない。
僕はガルクさんと対戦した時と同じ様に攻撃と離脱戦法を採用。
ガードされたそばから すぐにワシド君と距離を取り、また別の角度から攻撃に入っていた。
それを何度も繰り返す。何度も何度も何度も───
今回はきちんと背後からの攻撃も織り交ぜ、完全不規則、どの方向からでも攻撃をけし掛けていく。
今の所、ワシド君にそれをギリギリでだが防御されている。
もう少しで当たるという ほんの僅かな所で反応され、木刀と体の間に彼の獲物を差し込まれる。
だが、やはりガルクさん程では無い。
今はガード出来ているが、徐々に対応が遅れ始めている。体の向きの切り替えに無駄が多い。そのせいで少しずつだが僕の木刀が掠り始めている。
よし、このまま行けば───
僕はさらに攻撃を続ける。
このままヒットアンドアウェイを繰り返していけば、その内ワシド君は僕の攻撃に対応出来なくなる。
そこで一気に体勢を崩し、勝負を決める!
「………へぇ〜」
「───!」
「まさか、俺と同じ戦法をっ、取れる奴がいるとはなっ!」
それを言った瞬間 彼の反応が速くなり、一度木刀で木刀を打ち払われた。
「───」
さらに、突然ワシド君が目の前から消える。
やば───
「───っ!」
いきなり体の右側が衝撃に襲われる。
いや、これは───ワシド君にやられたんだっ。
何とか右腕を立て木刀を盾にする事で事無きを得たが、反応出来た訳じゃ無い。
僕は一度そこから離脱する。
「……」
彼を視線で追う。
さっきの僕よりも不規則な走行だ。
縦・右斜め・横直線・僕の左横すれすれ───近付いてきた時に絶対攻撃をするという訳でも無い。
と思ったら後ろから攻撃にに移られる。
僕は何とかそっちを振り向き、木刀を立ててガードする。
速い……! ひょっとしたら素の僕よりも速いんじゃないのか?
まさか、ワシド君も僕と同じ戦法を用いるなんて………しかも、僕よりも速いときたもんだ───厄介な事この上無い。
「………」
でも、目で追えない訳じゃ無い。
僕はその場から動かず、ワシド君を視線で追う。そして、彼が攻撃を仕掛けてきたら木刀でガードし、また彼を視線で追い始める。それの繰り返し。
片足を軸にして攻撃を仕掛けてきたワシド君の方に回り、もう片方の足でしっかりと体を止める、そしてガード。
速度で劣るのなら相手より無駄の無い動きで先回りすればいい。ガルクさんとの闘いで学んだ事だ。
だが、やはりそう上手くはいかない。ワシド君の方へ向こうとして少し回り過ぎたり、軸足ではない方の足の踏ん張りが足りなかったりと、ガードし始めはこっちも無駄な動きが多かった。だから、攻撃を防御出来ていても攻勢には回れなかった、けど───
僕はまた木刀を立て、ワシド君の攻撃をガードする。
徐々に慣れてきた。
また距離を取るワシド君を目で追う。
そして、また不規則に走り回る彼をしっかりと見据え、攻撃のタイミングを見切る。
………きた───。
僕は振り下ろされる木刀を横から同じく木刀で打ち払った。
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