第十二話 策を弄すのが我が流儀
ガルクさんを睨み付ける。
さっきは完璧にタイミングを合わせられた。直線的な軌道じゃガルクさんに一泡吹かせる事は出来ないって訳だ。なら───
僕は闘技場の壁に沿う様に走り出す。
直線的な動きが駄目なら、さらに不規則で湾曲した動きで翻弄するまで。
さっきよりもヒットアンドアウェイを激しくさせる。しかも、ガルクさんに近付く際には蛇行などをして動きを読ませない。
だというのに───
「───っ!」
崩せないっ。ガルクさんの防御を崩せない!
それどころか、片手持ちの大剣で軽々と僕の攻撃が弾かれている。明らかにさっきよりも余裕を持って対応されてるっ。
弾かれた際、僕もすぐに離脱の姿勢に入っているから体勢を崩される事は無いけど、それじゃあ状況が変化しないのと同じ。
くそっ。
僕は大きく旋回。闘技場の壁際ギリギリを走り、一気にガルクさんの背後へ回る。
そして、今度は直線的に近付いて攻撃を仕掛ける。
「───なっ!?」
だが、それも受け止められる───だけでは無い。
僕の攻撃を大剣で受け止めたガルクさん。そのまま彼は両手持ちに切り替え、攻撃を受け止めると共に僕の体を担ぎ上げる。そして───
「───ぅぅぅるるるぅぁぁあああああ!!!!」
そのまま反対側に、僕の体を叩き付けた。
まるで何か重量のある物を砂の上に落とした時の様な鈍い音が響き、叩き付けられた衝撃で僕の体はガルクさんから離れる様に吹き飛ぶ。かなりの力で叩き付けたからか、彼の周りには大量の砂煙が舞い上がっていた。
「………っ、……っ」
ばかっ力め……! あまりにも非常識な攻撃によって、砂に叩き付けられた時に剣を手放してしまった。僕は背中の鈍痛に耐えながら、ガルクさんを睨み付ける。
今の攻撃、普通なら成立する筈の無い攻撃だった。
大剣を相手の体に当てて担ぎ上げるならまだしも、接しているのが相手の剣だけの状態で持ち上げるなど、余程上手く相手の重心の動きを誘導しつつ、尚且つ思い切りの良さと勢い・パワーが無いと成立しない。
出来ない事は無いかもしれないが、修練時ならともかく、今は相手がどう動くかも分からない実践だぞっ。どんな感覚と身体能力してるんだよ!?
「………」
ガルクさんが僕の剣を拾い上げる。そして───
「───!」
僕の方に剣を投げた。ある程度の所で地面に着いた刀身が、慣性で砂を引きずりながら こちらに戻ってくる。
「ほら、どうした? もう終わりか? もう翻弄するにはスピードが足りてねぇって分かっただろ。全力、ぶつけてこいや」
獰猛な笑みを浮かべながら こちらを煽ってくる。
「………」
確かに、今の僕じゃまだガルクさんには敵わない。身体能力も・培ってきた経験も、時間と実績を積み重ねてきた彼には遠く及ばないだろう。
それでも───
「………っ」
一戦士として、ここまで露骨に侮られては───黙っていられない!
力を得たとはいえ、僕はまだまだヒヨっ子。どう足掻いたってガルクさんには敵わない。
それでも、舐められる自分から決別すると決めたんだっ。もう、あんな惨めな思いはしないと決めたんだ。
ここで力を示せなければ、僕に───騎士としての未来は無い!
僕は上半身に魔力を集中させていく。
「ふふ、いいねぇ………さぁ! お前の全力を見せてみろやぁ!!」
ガルクさんが吠える。それに呼応して、僕は走り出した。
下半身の強化は捨て、剣の振りに力の全てを集中させる形。
スピードによる翻弄は出来なくなるが、そもそもガルクさんには避ける素振りが見受けられない。
この攻撃は意地でも受ける。
戦っている中で感じた。彼は避けられる攻撃もあえて大剣で受ける きらいがある。おそらくそれが、今まで戦ってきた中で一番効率が良いと彼自身が考え、築き上げてきた戦闘スタイルなのだろう。
そうやって築き上げてきた彼の戦闘スタイルが、今回もそうさせる筈だ。
それを信じ、僕は自分の鉄剣を両手で持って振り被る。
そして、ガルクさんとの距離がある程度近くなった瞬間、僕は上半身の筋肉を総動員して剣を振り下ろした。
やはり予想通り、彼はその自慢の大剣で僕の攻撃を受け止めて見せた。
今の振りは僕の中でも渾身の振りだった。それをきちんと受け止めて見せるとは………流石はBランク冒険者。
こうなるだろうとは思っていた。例え僕がどれだけ力を込めようとも、ガルクさんの防御を崩す事はきっと無い───そう思っていた。
───だから、こうするのだ。
僕の一撃を受け止め、そしてそこから僕を弾き返そうとするガルクさん。
その直前───僕は一気に力を抜いて、跳び上がった。
跳び上がった所に、ガルクさんの弾き返す力が加わった事で、僕は楽々と彼の後ろを取る。
すでに能力値では絶対に敵わないと分かっていた事だ。
格上が相手なら、いつ いかなる時だって裏をかく努力を怠らない。正攻法で敵わないのなら邪法で。どういう状態であっても勝ちを模索する。
その努力を怠った時点で───敗北は決定するのだ。
僕がより力を込めた一撃を放とうとした事で、ガルクさんもまた異常な程の力を入れて対応してきた。故に、完全に大剣を振り切り、体勢が崩れた状態。───明確な隙だ。
彼の背後から再び攻撃を仕掛ける。しかも、今度こそ全身全霊────今持てる僕の力の全てを持って、彼にこの刃を届かせる!
───気功剣!!
刀身に魔力を集中させた事で淡く青色に光った剣をガルクさん目掛けて振り下ろす。
最早 昇格試験の事など頭に無く、あるのは「ガルクさんに一泡吹かせる」という思考のみ。
ただ必死に・純粋に・彼に打ち勝つという思いだけを持って、考え、そして実行した この一撃。
未だにガルクさんはこちらに背を向けている。対応出来ていない。
取った!!
そう思い、放った一撃は───ガルクさんに届く事は無かった。
一瞬、本当に一瞬だった。
僕の剣が当たる、そう思った瞬間、急にガルクさんの体が消え、気付けば彼はさっきとは少しズレた位置に立っていたのだ。
そうして僕の必殺の一撃は空振りし、今度は逆に僕が隙を晒す羽目となる。
そして、ガルクさんはBランク。そんな隙を見逃す筈も無く。
ガルクさんが大剣を僕の首の位置まで持ってきて寸止めする。
「勝負は着いたな」
笑みを浮かべ、ガルクさんは口を開いた。
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