第十一話 昇格試験という名の命懸け
Bランク冒険者・ガルクは、Fランクの少年がゴブリンカイザーを倒したという話に実は半信半疑だった。現場を見ている分 他の人より信用度は高めだが、それでもかなり疑いを持っている。
では、何故ラクトにこんな提案をしたのか───それは、どちらでもよかったからだ。
ガルクはソロ、Bランク帯では珍しい単独行動派の冒険者。
普通、上に行ける冒険者程 自分の欠点を理解し、パーティを組んでその欠点を埋めようとする。そうしないと危険だからだ。
Bランク以上でソロとなると、余っ程の自信家か───危険と痛みを楽しむ変態かの二択。
ガルクはその中で───変態の方だった。
重度の戦闘狂。
普段は気のいいお兄さん肌な彼だが、一度戦闘になるとその豹変っぷりは凄まじい。
人呼んで血と狂乱のガルク。
傷を気にしない彼の戦闘スタイルと、血に塗れるその姿から付けられた二つ名だ。
そんなガルクが提案したのだ───勿論、この昇格試験の理由だってジャンキー故だ。
本当にラクトにゴブリンカイザーを倒す程の実力があればそれでよし。だが、もし違っていたとしても、それが意味する所は、カイザーを倒せる程の実力者が他にいるという事。楽しみが増えるという意味で、それもありだった。
言わばこれはそれを確かめる為のもの。
だが、本音を言うと、ガルクはFランクの少年にそこまで期待はしていなかった。
真実が分からなかったから手当室ではあんな風に振舞ったが、やはり期待は出来ない。これが終わればこの先会う事も無くなるだろう───心の中ではそう思っていたのだ。
だが───
□□□
僕は初撃から気功術を用いて攻撃していた。
Bランクの中でも弱い方だった あのゴブリンカイザーにほとんど手も足も出なかった僕だけど、カイザーの肉を食った事であれから二つもレベルアップしている。流石にまだ実力は届いてないだろうが、それでも競れるぐらいにはなっている筈だ。
それぐらいの実力があれば、ガルクさんに印象を少しぐらいは残せる。
所詮、冒険者の世界は弱肉強食だ。いくら心優しいガルクさんとはいえ、いつまでも弱い相手を気にかけてはいられない。ここで印象を残せなければ、彼との縁もそこまでになってしまうだろう。
「………」
そんなのは───見下されるのは、もうコリゴリだ!
出る杭は打たれる、そう言われるが、僕が目指すのは誰しもが認める“最強”だ。利口な奴なら まだこの段階で実力を明かす事はしないんだろうけど………でも、それじゃあ“最強”には遠回りだ。ここで弱いフリをして、ガルクさんとの縁を切るなんて本末転倒。
まずはここでガルクさんに認めてもらう事で、“最強”への第一歩を踏み出して見せる!
戦闘開始から一直線にガルクさんを目指して斬り下ろしを叩き込む僕。
それなりの初速で不意を突けたと思ったのだが、流石はBランク冒険者。自身の大剣を盾にする事で僕の初撃を凌ぐ。
だけど、僕の速度はガルクさんの予想を上回ったみたいだ。少し驚いた様に目を見開いている。
それに、剣と剣がぶつかった余韻でガルクさんの大剣が震えている事から、力の面でも驚かせる事が出来たんじゃないだろうか?
僕はすぐにその場を離脱。
ガルクさんは見るからに力型の戦士。相手の攻撃を受けてから圧倒的 力で捩じ伏せるのが主な戦法だと考えられる。
相手はBランクの超ベテラン。手の内は勿論それだけじゃないだろうが………基本的な戦術はそれで間違い無いと思う。
なら、こちらは速度で対応だ。
多分、一度でも攻撃を受けたら終わる。それぐらいの圧を感じる。力で勝てないなら、速度で翻弄するしか無い。
僕は攻撃と離脱を繰り返した。
一度攻撃を入れたら離脱、しかも、離脱する方向は不規則。そうする事で、相手に攻撃の照準を定めさせない。
僕の攻撃をガルクさんは大剣を盾にする事で防いでいる。右手は柄に、左手は刀身に添えて、僕の攻撃を防ぐので手一杯って感じだ。
予想通りガルクさんは典型的なパワータイプの様だ。そこまでの速度は出せないのか、僕の隙を伺っている。
「………っ!」
くそっ、ガルクさんの防御が崩せない。
四方八方から攻撃を仕掛けてるってのに、ガルクさんは最小限の動きで僕の方に向いて攻撃を受け止めてくる。
このままじゃあジリ貧だ。動き回ってる僕と最小限しか動かないガルクさん。そもそも、元の能力値が違い過ぎる。先に体力的な限界が来るのは僕の方だ。
「………」
だから、先に仕掛ける。
僕はさっきから連撃を行っているが、攻撃を入れると一度下がり、今度は攻撃した位置から少しズレた左右どちらかの位置を狙って攻撃していた。───つまりは、一気に背後へ回る事はしていないって事。
もう何度も何度も繰り返して、ほんの少しずつ僕の動きにも慣れてきた頃だろう。だから───今!
「───お」
僕は一度攻撃を入れてから、離脱する事無く一気にガルクさんの後ろへ回った。
攻撃しても離脱しない・さっきまで取られてなかった背後への回り───騙しの二段構え。
取った───
「───!?」
しかし、僕のその一撃がガルクさんに入る事は無く。
ガルクさんは体の向きを変える事はせず、鞘に仕舞う要領で剣を背中へ持ってきて、左手は肘を刀身に添え、僕の攻撃を受け止めてきた。
嘘だろ……!?
僕はとりあえずまた距離を開ける。
「ふぅ………」
今ので決めきれるとは思っていなかったけど、まさか完璧に受け止められるなんて……!
これがBランク冒険者の実力っ。そこらの戦士や魔獣とは地力もセンスも違う。
今まで息つく暇無く動いていたので、一度大きく呼吸をしながら、これからの策について改めて考え直す。
だが───
「………ふふふ」
「……?」
「ははははは!!!!」
ガルクさんが急に高笑いを始めた。
「いい、いいじゃねぇか! まさかこんなにやれるとは思わなかった! いやぁ〜やってみるもんだねぇ。世の中どこに楽しみが転がっているか分かんねぇ。こういうのがあるから、この世界から離れられねぇんだ」
「何を……?」
「さぁギアを上げるぜぇ! ───ついてこいよ?」
「───!!」
ガルクさんがそう言った瞬間───彼の雰囲気が変わった。
やばい……何かは分からないけど、やばい!
僕はすぐに攻撃を仕掛ける。
こういう時こそ先手を取らないと。後手に回ったら、その時点で対応しきれなくて終わるっ。
全速で向かってからの斬り上げ───だけど、
「───!?」
さっきまで防御しかしてこなかったガルクさんが、僕の攻撃に合わせてその大剣を振るってきた。
元々の能力値が違うんだ。タイミングを合わせられたら必然的に弾かれるのはこっち。
「───!!」
弾かれて体勢を崩した所で、ガルクさんが追撃に来ていた。
すでに大剣を大きく振りかぶっており───
「───っ!!」
僕はギリギリ鉄剣を盾に。
しかし、ガルクさんの振り下ろしはそんな事で受け止められず───僕は闘技場の壁まで吹っ飛ばされた。
だが、ガルクさんの大剣は僕を吹っ飛ばすだけじゃ止まらず、そのまま砂が敷き詰められている闘技場の地面へ。大剣がぶつかった瞬間、闘技場の砂が大量に巻き上がり、それどころか下で固められていた基盤の石にまで大きな亀裂が入った。
「がっ、はぁ……!」
あんな強烈な勢いで壁まで吹っ飛ばされたのだ───一瞬息が吸えなくなる程の痛みと衝撃が僕を襲い、後ろの壁はかなり陥没して細かい亀裂が入る。
攻撃直前にバックステップまでして勢いを軽減させたっていうのに………なんつう馬鹿力っ。まともに食らってたら死んでてもおかしくないぞ。
何とか埋まりかけた壁から体を出して、鉄剣を構え直す。
だが、今ので僕が思っている以上に大きなダメージが蓄積されたのか、体はふらつくし手は震える。
たった一撃で、これか……!
「……………はは、はは! いや〜今のは危ねぇ! うっかり殺し掛けたわ! よく今の回避出来たなぁおい」
殺し掛けたじゃねぇよ! 普通に死ぬとこだったわ!
「………っっ」
そう言ってやりたけど、流石にそんな余裕は無い。
せめて、ガルクさんに向ける視線を鋭くする。
けれど、彼はそんな凄みなど全く意に介していない様で───
「よしよし、いいねぇ───まだ、やれるな?」
「───っっっ!!!!」
その一言で、僕の細胞が一気に粟立つ。
殺し掛けた───加減を間違えたという事は、僕の実力がガルクさんの予想を覆した事に他ならない。
これは昇格試験。あくまで実力を認めてもらう事が前提の闘いだ。これを指摘すれば、この決闘を終了するだろう。
───だが、言えない。それを言う事を、ガルクさんが許してくれない。ガルクさんから溢れ出るオーラが「余計な事は言うなよ」と脅迫してくる。
圧倒的実力者は気迫だけで周りを黙らす事が出来ると言う。
おそらく、これがそれだ。こんな気迫を当てられたら、黙る以外無いじゃないか。
「………っ」
上等……! こっちだって、やられっぱなしはごめんなんだ。
やられっぱなしのあの頃から、卒業するって決めたんだ。
一発、目に物見せてやる!
僕は体に力を入れ直した。
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