第十話 悪い噂流れて機会を貰う
いかにも冒険者という風貌な男の人が部屋に入ってきた。
「えっと……アナタは?」
「お? 何だ、俺を知らねぇのかい? 別に自惚れてた訳じゃあねぇが、俺もそこそこ有名になったとは思ってたんだがねぇ」
「………」
男の人が少し恥ずかしそうに頭を掻く。
それを見て、僕は少し申し訳無い気持ちになった。
今まで、僕には上を見る余裕が無かった。
底辺も底辺───最近までド底辺にいた僕は、とにかく必死に目の前の困難から抜け出す事にしか目がいっていなかった。それぐらい、いっぱい いっぱいだったのだ。
知っているのは、誰でも知っている様な この街のナンバーワン。名実共にこの街最強───Aランク 単独冒険者・リオン=ラフネスぐらい。それも、名前を知っているぐらいのもの。
当然、そうなると他の冒険者の事なんて知っている筈も無く………こう振り返ってみると、僕は他の冒険者さんの事をびっくりする程 知らないな。
「おっと、話が逸れちまったな」
「い、いえ……」
「俺ぁガルク。身なりはこんなんだが、一応、Bランクの冒険者をはってるもんだ」
「───!? ヴィ、B……!」
自己紹介をされて、思わず固まってしまった。
冒険者になった者の中でも、ひと握りの者しか到達出来ない上位ランク───B。
冒険者の中で一番多いランク帯はD、その次がC。持たざる者の到達限界がCとされる。
つまり、Bは───才能を持ち、尚且つ努力した者のみが到達出来る上位領域。持たざる者と持つ者の境界線がこのBとCとされる。
そんな、冒険者の誰もが最初憧れるランク・B。そこに到達出来た選ばれし超ベテランが、僕の目の前にいる。
これに驚きを持たない人がどこにいる!?
「ははは!! 驚き過ぎだろ坊主! 何だその顔!」
ガルクさんが笑いながら僕の背中を叩いてくる。
でも、背中は丁度僕が怪我した所で、しかもただでさえ他の人より力の強いガルクさんの絡みだから───
「…………!!!!」
「あっ……わ、わりぃ」
あまりの痛さに悶絶。男の意地で何とか声は抑えたけど、体を強ばらせ・これでもかと言う程力強く掛け布団を両手で握って痛みに耐える。
「あ〜………その、大丈夫か?」
大丈夫じゃねぇよ!! そう言いたかったけど、相手はBランクの大先輩・ガルクさん。流石にそんな無礼は働けない。
気合と根性でその言葉を飲み込み、空元気で無理やりを笑みを作る。
「だ………だ、だだだ大丈夫、ですっ……!」
「お、おぉ………本当すまん」
空元気で笑みは浮かべたものの やっぱり痛みが酷すぎる為、痛みが治まるまで話は待ってもらう。
「す、すいません。もう大丈夫です」
「ほ、ホントか? 無理してねぇか?」
「はい」
それを聞いてガルクさんはホッと一息吐く。
「んじゃ、本題入っていいか?」
「あ、はい。というか、何でBランクのガルクさんが僕なんかの所に?」
「あ? そりゃあ助けた相手が目覚めたって聞いたら様子見に来るだろ」
「………へ? 助けたって……」
「何だぁ? 聞いてなかったのか? 坊主を助ける為に、この街にいる高ランク冒険者がチーム組んで救出に向かったんだぜ」
「……………え?」
あまりに信じられない話に、
「ええええええええええぇぇ〜〜〜!?!!?」
僕は空いた口が塞がらないどころか、喉の奥から出る限界以上の声量で驚いてしまった。
その後、あまりにも大きな声を出し過ぎて また背中が痛んだので、話が中断した。
「す、すいません……」
「いや、痛みが治まったんなら良かった」
今度は自分の不注意で話を中断させてしまった為に、すっごい気まずい。ガルクさんも苦笑いを浮かべてるし。
「で、その……」
「あん?」
「何で、その………そんな大規模な救助が……?」
おそるおそるガルクさんに尋ねる。
「そりゃあお前、ゴブリンカイザーが出たなんて報告受けたら、それぐらいするのは普通だろ。ま、正確には救助ではなく、討伐が主な仕事だったけどな。相手はゴブリン種の頂点───Bランク、下手したらAランクに分類される様な魔獣だ。それぐらいするのは普通だろ」
「………」
それを聞いて、改めて僕は凄い状況に置かれていたんだなあって実感する事になった。
あれがまだなり掛けだから良かったものの、もしきちんと成長しきったゴブリンカイザーが相手だったらと思うと………。
ゴブリンカイザー一体を相手に、上位ランク帯冒険者をチームで当てなければいけない。その事実を聞いた事で、あのギリギリの戦闘を思い出し、身震いする。
今思い返せば、計画通りとはいえ、あのゴブリンカイザーは最後の最後まで本気を出さずに終わっていた。
最後のあの斬撃だって、ゴブリンカイザーは避けられないと見るや「これは食らっても仕方ない」と割り切っている様な感じだった。僕の今までの実力を鑑みて、一撃くらいなら食らっても大丈夫と考えていたんだろう。だからこそ、奴は最後の最後まで焦った顔を見せる事は無かった。
ゴブリンシャーマンの進化個体であるカイザーだから魔術も扱えただろうに、油断していたからこそ、それすら出さずに絶命した。
でも、もしお互い本気でぶつかっていれば、一方的な蹂躙を受けていた事だろう。本気を見ていない僕でも、それは分かる。
よく生き延びたな、僕。
「でも、いざ向かってみれば、転がってるのは死体と坊主だけ。拍子抜けもいい所だったぜ。んま、実際は血だらけの坊主を見て、違う意味で焦っていたから、拍子抜けしている暇なんて無かったんだけどな」
「………」
そうだった。凄い救助隊が組まれたって所に耳がいって流していたけど、ガルクさん達は僕の命の恩人て事になるじゃないか。
その事を思い出し、さらには今までのやり取りを思い出して───
「す、すいません!」
僕は頭を下げた。
「あ、あぁ?」
「命を助けてくださったガルクさんを前に、僕は……」
「………あ〜、いや、気にすんな。知らないのはどうにもなんねぇよ。あの時だって、坊主は気絶していた訳だしな」
「……………」
ガルクさんがフォローを入れてくれるけど、それでもやっぱり自分を許す事が出来ない。
助けてくれた人に「知らない」と言ったり、「何で救助してくれたの?」って言ったり……もっと先に言うべき事があっただろ!
自分で過去の自分を責める。
「あぁ………その、坊主の様子を見に来たってのが一つ目の要件な。それで、もう一つ話があんだけどよ……いいか?」
「……はい」
そんな僕を見かねてか、ガルクさんが話題の切り替えを提案してきてくれる。
僕としても、これ以上ガルクさんに迷惑を掛ける訳にはいかないという事で、心内は自分を責め続けながらも、その話に応じた。
ただ、傍から見てもそれは明らかだったのだろう。ガルクさんはどこか「やれやれ」と言う感じで息を吐き、話を始める。
「坊主さ、昇格試験を受けるつもりだったんだってな」
「え? あ………はい」
「さっき聞いたけどよぉ、坊主ってFランなんだってな。驚いたぜ」
「………」
Fラン───Fランクだと言われ、僕は心に引っ掛かりを覚える。
でも、その様子には気付かなかった様で、ガルクさんは話を進めていく。
「でも、その昇格試験の日はすでに過ぎちまった。本当はそこでランクが上がる筈だったのに、逃してしまった。坊主としては、納得出来ない部分もあるんじゃないのか?」
「………いえ、そんな……自業自得みたいな所もありますし」
「別に殊勝なフリはしなくていいぜ。試してる訳じゃねぇんだ。坊主だって冒険者だろ? 実力的にランクを上げれるのに逃したとなりゃ、大なり小なり思う事はある筈だ」
「………」
「ま〜ぁ、別に逃しただけなら また予約を入れ直せばいい。だけど………一度すっぽかしちまった手前、もう一度予約は入れづらいって気持ちが、坊主にはあるんじゃねぇのか?」
「………? まぁ、申し訳無いって気持ちはありますね……」
ガルクさんの意図が伝わってこない。何が言いたいのだろう?
「そこでだ───俺が坊主の昇格試験を担当するってのはどうよ?」
「………え?」
「俺としても、Fランでありながらゴブリンカイザーを倒す坊主の実力を見てみたいのよ。どうだ? 悪い話じゃ無い筈だ」
「……………」
空いた口が塞がらないとは正にこの事だ。まさか、Eランクへの昇格試験にBランクが立ち会うなんて聞いた事も無いぞ。しかも、同時に試験官もしてくれるというし。
「坊主もこの不名誉な名称とさっさとおサラバしたいだろ?」
「……? 不名誉な名称?」
「あぁそっか。坊主は寝てたから知らねぇのか。今な、坊主は『ホラ吹き』って呼ばれてんだわ」
「え!?」
「いやな、ゴブリンカイザーの件って結構大事になったんだがよ。冒険者の間では今もその話題で持ち切りだ。しかも、討伐隊が到着した頃にはすでに誰かによって狩られた後だったって情報もいつの間にか流れててな。それで色々な推測が成されたんだが……」
ガルクさんがチラッとこちらを見る。
「状況的に、坊主がゴブリンカイザーを倒したって結論が出たには出たんだよ。でもよぉ、相手は推定ランクB以上のゴブリンカイザーで、坊主はFランだろ? だからすぐにその結論は却下されたんだ。それどころか、「そいつは嘘をついている」「何か都合の悪い事実を隠そうとしているんだ」なんて根も葉も無い噂が流れ始めて………何故か今ではそれが冒険者全体に浸透して、いつの間にか事実として捉えられてんだよ」
「………それで『ホラ吹き』、ですか」
「そ」
僕は困惑してしまう。
えぇ……? 何それ……?嘘をつくとか事実を隠してるとか……それ以前に僕、今日まで気絶してたんだけど!
思わず溜め息が出てしまう。
「それを払拭する為に昇格試験よ」
とそこでガルクさんがビシッと人差し指をさしてきた。
意味が分からず、首を傾げる。
「Bランクの俺と昇格試験を兼ねた模擬戦闘を行う事で、坊主の実力を証明する。こんなに悪い意味で注目されてんだ───それなりに見物が来るだろう。そこで、ゴブリンカイザーを倒したのが坊主だって証明すれば、そんな根も葉も無い噂もすぐに消えるだろう。皆が皆 坊主を見返すって訳だな」
「───」
僕はそれを聞いて素直に驚いてしまった。
「どうして……そこまで」
「あぁ? んなの決まってんだろ? 俺ぁ頑張った奴が報われないっつう事実が嫌いなんだよ。命懸けて女の子を助けようとした坊主の事を『ホラ吹き』呼ばわりだぜ? 大の大人がそれを黙って見てられるかってんだ」
「───!」
それを聞いた時、目頭が熱くなった。
「未来ある若者をこんな所で潰させる訳にはいかねぇんだよ。若者を育てるのも先輩の義務だしよ。それに、有望な株は大切にしねぇとな」
Bランク冒険者が、僕の事を認め・助けようとしてくれてる。
今まで弱い・役立たずと罵られてきたから、その事実がどうしようもなく嬉しくて、嬉しくて───。
「勿論、受けるよな? 坊主」
ガルクさんのその問いに、僕は何とか涙が出ない様に堪えながら。
「はい!」
有り余る感情を言葉に乗せ、僕はそう答えたのだった。
□□□
それから二日が経過した。
僕の傷が完治するよう、ガルクさんが二日時間を設けてくれたのだ。
その二日の間に僕は傷の回復を促進させる薬───治癒のポーションなどを飲んで、もうほぼ前回の状態へ。
元々、僕がギルドに運ばれた際、傷の回復を強制的に促す魔術───治癒魔術を扱える職員が診てくれた事もあり、目覚めた時にはすでに傷はほとんど塞がっている状態だった。まぁ、それでも完治では無かった為に痛みは残っていたが。
だから、二日経った今ではほぼ万全。多少体がなまっていたものの、朝に素振りをして筋肉を解してきたので準備も万端。
いざ、昇格試験を受ける為にギルドの中へと入っていった。
朝の時間───だというのに、それなりの数の冒険者がギルド内にはいて、僕の方を見てはヒソヒソと何かを話している。
ちゃくちょく聞こえてくる言葉としては───
「来た、例のホラ吹きだ」
「あいつか、カイザー倒したとか言ってる狼は」
「身の程を知れよ、ホントにさ」
どれもこれも見下した様な言葉ばかり。
でもま、罵倒誹謗はこれまでも受けてきた。それに比べたら───特に気にする事も無いな、うん。
僕は受付嬢さんに話を通して、昇格試験を行う場所───砂が敷き詰められ、ミニコロッセオの様になっているギルド専用の闘技場に案内してもらう。
入ると、そこにはすでにガルクさんがいて、おそらく彼の獲物であろう大剣が地面に刺さっていた。
「来たか、坊主」
「はい! 今日はこの様な機会をいただき、ありがとうございます!」
「礼はいい、構えな。とっとと始めようぜ」
「はい!」
ガルクさんが大剣を地面から引き抜き、片手持ちのまま切っ先をこっちに向けてくる。顔は笑っているが、その目は獲物を狙う肉食獣の様に獰猛だった。
僕もそんなガルクさんに呼応する様に、愛用の鉄剣を抜く。
すでに闘技場にいた審判兼抑え役の男ギルド職員が、僕とガルクさんの様子を確認して手を挙げた。
「それでは、Fランク冒険者・ラクト=ユウキの昇格試験を行います。始め!」
ギルド職員の人が手を下ろすのと同時に、僕はガルクさんへ攻撃を開始をしていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
もし少しでも面白いと思っていただけたら、ブクマ又は感想等 貰えると嬉しいです。作者自身、自己顕示欲の塊みたいな者なんで、貰えると滅茶苦茶 励みになります。
また、誤字や辻褄が合わない点などがあれば即修正に入ろうと思いますので、言って貰えると幸いです。
よろしくお願いしますm(_ _)m。
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それではまた次回の更新で。





