俺と幼馴染みは無視する
「んにゃー!全っ然分かんないー!」
言わずと知れた、我らが領地帰宅部部室内に響き渡る絶叫。声の震源地は帰宅部の諏佐原部員からだ。最近、諏佐原がアホキャラになってきてる気がする。まぁ、元からか。テスト前最後の日なのに、俺たちはクラブ活動がある。何もしていないし別にいいんだけど。
諏佐原の絶叫が煩い。あと、楔の目が怖い。
「彗ちゃん、うるさい。他の部室に迷惑でしょ?」
「は、はい……」
目尻を下げながらシュンとする諏佐原。まるで子犬のようだ。まぁ、それも楔限定なのだろうが。しかし、今の諏佐原の写真を撮ったら、女子どもに売り捌けるのではないだろうか。諏佐原は同性にモテるらしいし。カメラ持ってないからとれないけど。携帯で撮るのは手振れとかあるから難しいし。諦めるか。恐らく、持っていても榊に止められるであろうが。肖像権がどうのこうの言われて。
「楔くん、そう思うんだったら教えてあげたら?」
「そうだぞ楔。諏佐原が煩いのは問題が解けないからなんだろ?だったら、お前が教えてやればいいんじゃないか?」
「ちょ、二人とも何言ってるの!? いいよ、自分でやるからさ!」
「いや、だってなぁ?榊」
「うん、私はその方がいいと思うけどなぁ」
「……」
ニヤニヤしながら、話す俺と榊。諏佐原は楔にくっつくのはなんともないくせに、勉強が絡むと、途端に狼狽えるよな。この前のゴールデンウィークの時も、焦って楔の首を閉めるぐらいまで引きずるくらいだし。そして、狼狽える諏佐原とは逆に楔は顔を俯かせ人差し指を折り曲げ、顎に当てて考えている。俺の予想では、あれは諏佐原に勉強を教え、諏佐原が赤点を回避するのと、諏佐原に勉強を教えず補充課題をやることのどっちの方が楽かを計算していると見た。
しばらく経った後、楔は顔を上げて、笑顔でいい放つ。
「彗ちゃん、一緒に頑張ろうか!」
「あっ、うん!」
花開くような笑顔を見せる諏佐原。この光景だけ見れば、一枚のイラストになってもおかしくはないくらいだ。楔の脳内でどんな考えが巡ったのかは分からないが、俺の独断と偏見で言うなら、諏佐原に赤点を回避させる方が簡単だからという結論に至ったのではないだろうか。楔は、諏佐原には手厳しいからな。それが、愛情の裏返しかどうかは知らないが。
「じゃあ、取り合えず、さっき言ってた分からない場所を見せて貰える?」
「うぐっ!」
踏まれたカエルのような声を出す諏佐原。美少女の出す声とは思えない。そんなに見せたくないのだろうか。さっき狼狽えていたのも見せたくないのが理由かもしれないな。
「見、せ、て?」
「はい……」
「……」
楔の威圧に負け、恐る恐ると言った風に、ノートを渡す諏佐原。楔に見せたら、怒られるぐらい初歩的な部分なのだろうか。楔はノートを見たとたん黙りこんでしまう。榊の方を見ると、固唾を飲んで見守っているという所か、楔を一直線に見つめている。
「……彗ちゃん、これ前一緒に解いたよね」
「は、はい……」
「……はぁ、基本からか……」
なんとも切なそうにため息を付く楔。その姿からは哀愁が漂う。前に教えてあげた問題が解けてないのかー。それは大変だなー(棒)。
「神座、さっきから勉強の手が止まってるよ?」
「それは榊、お前もだ」
「私は、普段から真面目に勉強受けてるから」
「榊ちゃん助けて!」
「それを言うなら、俺だって真面目に受けてるぞ?」
「授業聞いているフリしながらノートに絵書くのが真面目なの?」
「無視しないで!?」
「「煩い!!」」
「そこまで言うほどに!?」
俺と榊が、暑い口論をしていると、横から口出ししてくる諏佐原。意図せず、榊とハモってしまったが、まぁ、今回は諦めの悪い諏佐原が悪い。榊に助けを求める前にさっさと、諦めて楔に謝った方が絶対に速い。
「何時も思うけど、神座と榊さんってほんと仲良いよね」
「そうかぁ?これぐらい、普通だと思うが。なぁ?榊」
「う、うん、これぐらい普通だよ!」
なんか、榊の頬が赤くなっている。風邪だろうか。それとも熱?取り合えず、体調が悪いのは間違いないだろう。
――なんてそんな風に考えると思ったか?
残念だが、俺はそんなラブコメの主人公みたいな男ではない。そもそも、俺は榊以外の人間を心配しない。何故なら、榊は自分の体調が悪いときは、ちゃんと言うからだ。昔、言わなかったせいで、急に倒れたことがあり、それ以降痩せ我慢はさせていない。こういうのは、幸崎がやればいいと思う。もう既に何度もやってそうだけど。
「それにしても暑いねー」
「お茶も切れちゃったよ……」
榊はブラウスを右手でパタパタしながら、左手でペットボトルを持ちながら、気だるそうに言う。確かに暑い。
「神座、お茶買ってきてよ」
「金よこせ」
「えー?それぐらいだしてよ。お坊っちゃんじゃん」
「そう思うなら、我が家よりも凄い規模の財閥の榊お嬢様に出して頂きたいものですね」
最近、表情筋をある程度ならば意識して動かせるようになったので、頬の筋肉を引き上げるように意識して榊に笑いかける。これでもう、鉄仮面なんて言わせない。
「……神座。シンプルに気持ち悪い」
「なん……だと……?」
「何て言うか、似合ってない。今自分が凄く悪役っぽい顔してるの絶対気づいてないでしょ?」
そう言って、榊は懐から手鏡を取りだし、その鏡に俺の顔を写す。唇はつり上がり目は鋭く細められたその顔は確かに似合っていない。例えるなら、そうだな。おにぎりの具をチョコレートにするぐらい似合ってない。これが、俺……?と悪い意味で言えるレベルである。本心を隠した胡散臭い笑顔であったらせめて良かったものの、今鏡に写っている俺の顔はどちらかと言えばゲスな笑い顔である。これは引くわ。
「あぁ、うん。悪かった」
「じゃあお詫びにジュース買ってきてよ」
「……はぁ、分かったよ。……何、買ってくればいい?」
「あー…、やっぱ私もついていくよ」
謝罪の意を込めて、俺が立ち上がりながら榊に聞くと、榊は買いたいジュースを特に決めていなかったのか、俺についてきて奢らせるつもりのようだ。ちっ、青汁でも買ってきてやろうとも思ったのに(売ってないけど)。だが、俺の発言をよく考えてみてほしい。確かに買うと言った。だが、奢るとは言ってない。言葉の綾をつくことができる男、それが俺。
「行ってらっしゃーい」
楔が、俺たちに向かって手を振ってる気がする。さりげなく、これで彗ちゃんと勉強が出来るとかいて気がするがそれも気のせいだろう。だから、ドアを開けて出ていこうとしたときに、諏佐原が、一人にしないで!! 、と叫んでいた気がしないでもないこともないがそれもきっと気のせいだろう。俺の後ろから榊が出てきて扉を閉めたときに女性の叫び声が部室内で響いた気がするのも、うん、きっと気のせいだ。
第二十五話。
コメディ回(のつもり)。
諏佐原はアホキャラ(確信
この後、諏佐原には楔による地獄の特訓が待っているのかもしれませんね
と言うわけで次回。
神座くんがジュースを買いに行くだけの話になる予定。
やはり予定は未定。




