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俺は先生を説得する

 俺は、榊を引き連れ自動販売機へと向かう。

 部室を出た途端にまだましだった暑さが一気に我が身にふりかかってきて、暑い。部室から団扇持ってくりゃよかったな……。なんて、俺が後悔しがっくりと項垂れた心情のまま、ふと隣を見ると、頬に汗を滴ながらこちらをどや顔で見つめてくる榊の姿が。顔の角度に拘りがあるのか、わずかに顎を上に上げ、若干俺を見下しているようにも見えなくはない。これは構って欲しいアピール的な何かか?強制会話イベント的な何かなのか?


「……」

「……」


 俺が無反応のまま再び歩き始めると、榊は顎を上に傾けたその角度を保ったまま俺についてくる。あ、これ構って欲しいアピール的な何かだ。俺は立ち止まり、顎を上に傾けそのたわわに実った胸を強調するかのように胸を張った榊をじっと見つめる。暑いからじっとり見つめても良かったのだが、榊の全身をなめまわすように見た場合、確実に幼馴染みという言い訳をする間もなく、俺がセクハラで訴えられるだろうし、なにより彼女の華やかさとかそういったものは目に毒である。いい意味で。


「どうしたんだ榊。そんな構って欲しそうな顔の角度して?」

「角度!?角度で判断したの!?この私が滅多にしないどや顔じゃなくて!?」

「いや、顔の角度っていうのは、ある意味顔の表情よりも感情を図るのに便利だと思うぞ?俺の中で、上目使いしてくる奴は、心の中で俺を馬鹿にしている、と俺は考えている」

「なんでそんな解釈になるの……。何処から突っ込めばいいのか分からないよ」

「取り合えず、なんでお前はそんなに得意気な顔してたんだ?」


 俺が話の流れが脱線していることに気付き、流れを戻そうと榊に話をふる。榊はハッとしたように呆れていた顔をどや顔に作り直した。……わざわざそこからやらんでも。彼女はスカートにつけられている便利機能の一つ、右ポケットの中から右手であるものを取り出す。


「ふっ、こんなこともあるかもしれないと思って、扇子を持ってきたよ!!」


 彼女は、短くなった髪をふわりと靡かせる。彼女がその右手に持っていたものは、扇子であった。明らかに女子制服のスカートのポケットの大きさよりも縦幅が大きい。いつも思うのだが、榊の着ている服についているポケットは四次元なんじゃないだろうか。毎回毎回ポケットよりも大きいものを出している。榊の七不思議の一つにしよう。


「お、おぉー」

「うわ、遅い反応の上に凄い棒読み!?」

「いや、違うんだよ。これはあの扇子のセンスに感涙しててだな……」


 俺の寒いギャグで、二、三度温度が下がった気がする。榊の表情を見てそう思う。呆れてるとか、そんな次元ではないぐらい、目に光がない。目が死んでいると言い換えてもいい。彼女はその目のままいそいそと、ポケットに扇子をしまう。そうですか、扇子が要らなくなるぐらい寒かったですか。おかしいなー、俺的には、タイミングといい、言葉の語呂といい、全てが完璧だったのだが。まぁ、他人との価値観が合わないのはよくあることだ。気にしないことにしよう。


「…………」

「……い、いやー、今日は暑いな。やっぱ」

「…………」


 ……榊の無言が怖いです。

 ジト目でこちらを見てくるのだが、それだけならば俺もギリギリではあろうが耐えることが出来ただろう。だが、先程までの会話からのこの流れ。榊の無言が俺のメンタルをズタボロにすることは想像に難くないのではないのだろうか。沈黙が心地いい何てことはなかった。今、それを身に染みて感じている。なんか、変なこと口走っちゃうし。誰か、この空気壊してくれないかな。俺、友達居ないから駄目じゃん!


「おーい、簪ー!」


 誰かが俺を呼んだので、急いで声のする方へ向く。嘘だろう!?俺に声をかける奴が居るというのか……!?自分で驚く辺り虚しさが漂うが、実際事実なので仕方がない。俺に声をかけてきたのは、サッカー部副部長で、この前のサッカーの試合の時にゴールキーパーから一点をもぎ取った、桔梗だった。彼は手を振って俺に近づいてくる。彼のことを榊は知らないようで、誰?と俺に聞いてくる。


「あー、杯さんは俺のこと知らないよな。俺はサッカー部の桔梗桐」

「あ、うん。よろしく。私は杯榊。帰宅部の部長だよ」

「えーと、よろしく。っと簪、お前に用があるんだ」

「俺?お前がか?」

「いや、俺じゃないんだよなー。綴世先生がお前を探してたよ。理由は知らないけど」

「そっか。教えてくれありがとよ」

「俺こそ、邪魔して悪かったな、杯さん。じゃあなー」


 そう言って、桔梗は何処かへ行ってしまった。大方、クラブ活動だろう。あいつは一組だから、詳しくは分からないけど。つーか桔梗は一体何を邪魔したというのだろうか。俺達が自販機に向かってることなんて知っているはずもないし。ま、いっか。取り合えず、綴世先生に合わないといけないのか……。ちょっと、ナイーブになる。身の危険はないだろうが……。


「じゃあ、俺も綴世先生に合いに行ってくるわ」


 俺が榊に告げて、背中を向けて歩き出そうとすると、腕の裾を榊によって引っ張られる。


「……私も行く」


 俺のパーティーに榊が加わった。



 結局、ジュースを買わないまま職員室まで来た俺は、扉の前で立ち止まっていた。扉の向こうから、どす黒いオーラが漂っているのだ。俺は意を決して扉をノックして、自らの所属するクラスを名乗り職員室に入る。案の定そのどす黒いオーラを放っていたのは、笑みを浮かべた独身の綴世先生だった。榊はそのオーラを感じ取っていたのか。俺の分のジュースも買いに行ってくれた。その優しさが、今は辛い。


「やぁ、簪。よく来たな」


 俺は知っている。本来、笑顔とは攻撃的なものであり、友好を示すものではなく、威嚇に使うものだと。綴世先生の浮かべている笑みを見るに、そういった、暴力的なベクトルの笑みだと思われる。つまり、俺が今考えなければならない最優先処理事項は、いかにして逃げるかということだ。やり返そう何て思った次の瞬間には既に死んでいると思う。榊もいないしで、俺には逃げるという選択肢しか思い浮かばない。妙案求つ。応募はこちらまで。……何処に投稿すりゃいいんだよ。


「さて、簪。何故、自分が呼ばれたか分かっているか?」

「皆目検討もつきません」

「ふむ、そうか。いや、ある男子生徒から面白い情報を聞いたものでな」

「面白い情報、ですか?僕が関係してるって言うんですか?」

「あぁ、その通りだ」


 全く見当がつかない。別に、俺は綴世先生と敵対するような行動はしていない。先生を敵にまわすような発言するバカなんて居るのだろうか。特にこの人と敵対するのはお勧めしない。ライオンと武装なしで戦えるのなら、多分大丈夫だと思うけど。というか、マジで心当たりがない。


「なんでも、付き合う人が居なかったら『最悪』綴世先生と付き合えばいい――と聞いたが?」

「…………」


 やばい。

 めちゃめちゃ心当たりがある。ここは、口八丁で丸め込むしかない。大丈夫。俺は口だけなら達者のはずだ。かつて、榊を論破したこともある俺ならできるはずだ。自分を信じるんだ!


「…せ、先生。僕がそんなこというわけないじゃないですか! 僕は先生に媚を売るのが得意なんですよ!? だから、僕がそんなこというわけないんです! 大体、そんな話誰から聞いたんですか?他人の秘密をそうやってバラす人間って、人の悪口いうやつより酷いと思いませんか?いえ、確かに先生に報告することは悪いことではないと思いますよ。実際、ドラマとかでよく見る会社の汚職の告発だって、勇気がいることだと思いますし。ですが、でっち上げて人を陥れるような行為は最低だと思います!」


 一気に喋ったので、肺の中の空気がなくなって、肩で息をする。正直、五十メートルを全力疾走したときよりもしんどい。だが、これで俺の熱意は伝わったはずだ。若干、嘘が入って居る気もするが、大体本当なのでいいだろう。まぁ、嘘の部分が一番大事なのだが。俺の前に居る綴世先生はさらに近づいてきて、両手を伸ばしてくる。身長が同じ位なので、先生と目の高さも同じである。……目が笑っている……だと?身の危険を感じたが、逃げたら逃げたでややこしいことになるので、待機する。綴世先生が両手を振り上げたので、頬を叩かれると思い、衝撃に耐えるために目を瞑る。


「……い、いひゃいでひゅ。綴世しぇんせえ」

「今回は、その饒舌な口に免じてこの程度で済ませておいてあげよう。だが、次に私に対して、結婚だのなんだの抜かすようならば、簪風に言うところの、ライトノベルの婚期を逃したキャラクターの如く怒るからな?」

「……す、すいませんでした」


 そう言って、綴世先生は何処かへ行ってしまった。

 頬をつねるだけとは、確かに軽いとは思うが、多分俺よりも握力強かった。いまだに、ジンジンする頬を優しく優しく撫でながら、俺は榊が買って来てくれたジュースを飲んだ。颯爽と去っていく綴世先生の後ろ姿を見たあと、自分の発言を思い出してふと思った。……綴世先生、俺の先生に媚を売る発言はスルーしていくんですね。

第二十六話。

久しぶりに痛い目に合う簪。

久しぶりに桔梗君と、綴世先生に登場してもらいました。

べ、別に忘れてたわけではないんですよ!!

次回はテストを書けたらいいなぁ……

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