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俺は幼馴染みを考察する

 何が駄目だったのか。

 何処が悪かったのか。

 何時地雷を踏んだのか。


 ――俺には全く分からない。


 十六年間生きてきて、解決策が見当たらず、落ち込む、なんてことはざらにあったが、しかし俺は榊のことで悩んだり、迷ったりしたことは以外にも少ない。普通ならば、嫉妬の対象である彼女のその高い能力値にでさえ俺は頭を抱えたことはなかった。劣等感など感じる前に、動物が強者に頭を垂れるのと同様に、俺は彼女に勝てないと本能的に悟ることが出来たからだ。それゆえに、俺は彼女が関わる全ての出来事は仕方がないものと割りきってきたし、俺以外が原因だったためにそうすることが出来た。さらに言えば、大抵の場合、彼女は自分一人の力で解決してしまうからだ。


「俺の発言の何処かに問題があったってことだよな……」


 俺は、何処にも行き場のない感情を、暗い部屋のなか天井に向かって一人ごちる。幾つか解答を考えはしてはみたものの、どれもが正解には程遠く、成功確率が低そうなものばかりだった。彼女のように出来の良くない頭で、考えた所で、名案など浮かぶはずもなかった。分かっているのは、ただ俺の言葉が何処かが悪くて、彼女を傷付けたということで、それが分からない以上、思考がその地点に巡り巡って戻ってくるのも当然だった。結局、俺には彼女の気持ちは分からないのだろう。当たり前だ。俺と彼女は他人であり、他人の気持ちなど到底伺い知れるものではないのだから。

 ならば、何故俺はここまで真剣に考えているのだろうか。俺は自分に問いかけたが、答えは帰ってこない。返答はない。それは、俺がその質問に対して、解を出せないのか、それとも出さないのかは自分にも分からない。結局、俺には自分のことすら分かっていない。考えれば考えるほど、複雑な答えへと到達し、結論は出ない。思考の迷路とでも言うのか、人間誰しも一度入り込んでしまうと、考えずにはいられないのだ。


「あーー、さっぱりわかんねぇ」


 ここまで頭を捻って考えたのは本当に久しぶりである。いっそのこと榊に聞く、なんてのも考えはしたが、成功のイメージが余りにも上手く出来なかった。こうなったら、ノートに俺の発言でも書いて考えた方が良いかもしれない。俺はベッドから立ち上がり、適当にチラシの裏に自分の発言を書いてみる。


『……安心しろ榊。俺には最終手段として、……、くっ言いたくねぇが……綴世先生と結婚すると いう手段が存在する!』


 書いたところで状況が改善するとは思えないが、何もしないよりはましなのだ。俺は、チラシの裏に書いた文章を重たくなってきた瞼を擦り何度も何度も読み返す。


「我ながら、失礼で、酷い文章だ……」


 自分の発言に軽く引いたあと、頭を捻る。確かに、教師を見下したかのような屑の所業ではあるが、こんなことで榊が俺に失望するはずがない。中学時代は、事件があったこともあるが、今よりも荒れていたし、これ以上に酷い発言だって数多く残しているはずである。あの頃のことは黒歴史、暗黒の時代と呼びかえても差し支えはないが、そんなことがあったからこそ、彼女が何に傷ついているのかが分からない。


「この台詞から考えられるのは、帰宅部顧問である綴世先生への不敬とかか?でも榊が今さらそんなことを気にするか?」


 失礼ながら榊はそんなことを気にするような美少女ではない。俺とあいつは二人で中学時代を乗りきったと言っても過言ではないのだ。そこら辺の幼馴染みとは絆の固さが違うのだ。だとするのならば、俺の台詞にはその絆を揺らがせるような言葉が含まれていたのかもしれない。再び目を通す。気が付けば、窓の外は明るくなっていて、暗い部屋が薄暗いレベルまで明るくなっていた。微かに見える時計の針を、目を凝らして確認すると、午前3時を指している。その針を見た瞬間に押さえつけていた眠気が一気に爆発し、俺は近づく机を最後に瞼を閉じた。




「……知ってる本棚だわー」


 目を覚ました俺の視界に一番に入ってきたのは勉強机の几帳面にも整理された机の本棚だった。右端の方にいわゆるライトノベルと称されるものが固められており、残りのスペースを、二年の教科書と、予備に買いだめし過ぎた未使用、未開封のノートが納められている。それから窓の外を見ると、明るく日が照っている。時計に視線を送ると既に九時で授業はもう始まっているようだ。……あ。


「俺の無遅刻無欠席記録が……」


 高校生活二年目にして終わってしまったのはちょっとショックだったが、俺の心に衝撃を与えたのは、他のことだった。俺が、今までこんな性格ながらも無遅刻無欠席を続けられて来たのは、言わずもがな俺が寝過ごしていたとしても起こしてくれる気の利いた幼馴染みが居たからで、それは昨日の朝まで一度(・・)途切れることなく(・・・・・・・・)行われていた。それが今日、なかったということは、榊は一人で学校に向かったということで、そのことが俺を深く傷付けた。まぁ、俺が傷付いた所で誰も損をしないのは重々承知なんだけど。榊もこれぐらい傷付いたのかな等と、俺は勝手に推測し、ため息を吐く。俺の心の傷と、榊の心の傷なんて、比べるべくもなく、榊の心の傷の方が大きいに決まっている。他人が自分につけた傷と、自分が他人につけた傷の大きさなど本来なら比べる必要もないのだ。良識ある人間ならば、確実に傷をつけた罪悪感に囚われるのだから。まぁ、彼女を傷付けた奴等は今でものうのうと笑って、罪悪感など表面上でしか感じずに生きているのだろうけれど。……さて。


「遅いけど……行かないよりはましか」


 俺は、学校に行く準備を遅まきながらも始め、今日ある授業を再び確認し、弁当に自然解凍の冷凍食品を詰められるだけ詰め込み、マンションを出て、学校へと走り出した――結果着いたのは三時間目の終わりだったけれど、その教室に榊は居なかった。

第二十一話

シリアスもどきを書くと、文章量と文章力が減ってしまいます……。

サブタイトルも思い付かず、正直泣きそうになりました。

話の作りが苦手なので、次回、次次回には仲直りすると思います。すれ違いを期待してる方には、申し訳ないです!

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