俺と幼馴染みの亀裂
テストとは、本来そのテスト範囲がどれ程理解できているかを調べるために、行われるものである。つまり、理解度を調べるためだけのものとして扱い、それを元に成績を決定する、ただそれだけの物であるはずなのだ。本来は。
だがしかし、一度我が身を振り替えって考えてもらいたい。諸君らは、テストというものを、その本来の目的を意識して受けたことがどれだけあったのかを。同じクラス、あるいは同じクラブの人とテストの点数で競いあった記憶はないだろうか。――そう、皆様も理解して頂けたように、高校生にとって、テストとはすなわち、他者との比較における自らの頭のよさを指し示す指標となるのだ。また、教師にとってもそれはある程度同義で、テストの点がよい生徒は良い生徒。悪い点をとった生徒は問題児とみなす。流石に言い過ぎかもしれないが、極端な話そう言うことだろう。人が人である以上は、誰かを差別し、誰かを劣等と見なし、誰かを優等と称える。その宿命じみたものからは逃れられない。その人の柵からは誰も逃れられない。要するに、俺が言いたいのは。
「テスト面倒くさい……」
「前、普段から予習・復習してたら何の問題もないみたいなニュアンスのこと言ってなかったっけ?」
「あぁ、確かに問題はない。だが、だからと言って、出来るとは限らない」
「また訳の分かりづらい言い回しを……。大体、神座勉強できるじゃん」
「自分よりもできるやつに言われるのってイラッて来るな」
帰宅部部室にて。
楔と諏佐原は用事があったらしく、先に帰りやがった。尤も、一部始終を見ている俺からすれば、明らかに諏佐原が連れて帰ったように見えたが。ま、まぁ、気のせいだろう。帰宅部の良心である楔が幼馴染みだけに毒舌を吐くなんてあるはずがない。きっと、疲れているからだ。結局、ゴールデンウィークの課題泣き付かれたらしからな。幼馴染みの頭の出来がお花畑だとあんな感じになっちゃうのか……。俺には一生関係ないけどね!俺の幼馴染みは、俺より早くできて、なんでもできて、何なら課題手伝おうか?って聞いてくれる優しい幼馴染みだからね!あ、あれ?目から汗がでててきて、視界が滲んでるや。どうしたんだろ……。
「俺は優秀な幼馴染みを持って嬉しいよ」
「え?ほんとうに?エヘヘ」
おい、今のどこに喜ぶ要素があった。今のは皮肉だったのに。何故理解できない。俺の優秀な幼馴染みはどこに行った。俺はお前をそんな風に育てた覚えどころかそもそも育てた記憶がねぇわ。
「今ので喜ぶとか……。お前の将来が心配だ」
「えー?私より神座の方が心配だよ」
全く検討違いな幼馴染みは置いといて、俺は二週間後に迫ったテストの勉強をする。一年生コンビは、まだ来ていないので、榊と二人きりである。残念ながら、二人きりでも俺には巡る巡るラブロマンスは万にひとつも起こりうるはずがないが。だって、榊の方が強いしね。不足の事態の対処も頭が早く回転する分、榊の方が上手い。つまり、俺に起きてもあっさりと処理されるため、起きたことがなかったことになると言うことだ。なにそれ、何処の超常現象だよ。
「はぁ?なに言ってんだよ。俺は家事ができる、勉強もまぁまぁできる。つまりモテる要素はそこそこある」
「そんな、中途半端に濁った瞳の男子を女子が求めているとでも?」
「大事なのは、外見より中身だ、中身」
「その台詞は外見に自信のない人がいう台詞だよ?」
美少女が言うその台詞には、絶対の正しさがあり、俺はその言葉に詰まって何も言えなくなる。俺が榊に口で勝つのは、百年ほど早かったのかもしれない。確かに、イケメンがその台詞を言ってるの聞いたことないわ。モテないやつらが言ってるのを見たことはあるが。え?幸崎?俺、あいつとそう言う話することないし。大体、あいつは見てくれが良いから、言った瞬間男子どもに撲殺されるだろうから興味はない。撲殺されていないと言うことは、言ってないってことだ。やべぇ、超完璧な理論。
「はぁ……、私としてはそこで反論してほしかったなー」
「……安心しろ榊。俺には最終手段として、……、くっ言いたくねぇが……綴世先生と結婚するという手段が存在する!」
本当に最終手段だけど、しかしながら、俺を含むほぼ全ての男子生徒にはそういう手段も残されている。いや、まぁ失礼なのは分かっているけど。それに性格はともかくとして、外見は美女にしか見えない先生ではある。見てくれは悪くないというかむしろ整っている。あれ?俺も外見で判断してる。ま、人間自分に都合の悪い発言なんて二分もありゃ忘れるだろう。でなけりゃ、失言なんて生まれるはずもない――とはいえ、あれは後先考えずに発言する昔の自分が悪いとも考えられるが。
「……」
「あれ? どうした榊」
明後日の方向を向いていた俺が、榊の方を向くと何故か微かに肩を震わせながら、俯いている榊がそこにいた。先程までののほほんとした雰囲気というか、軽い空気は何処へ行ったのか、何かに怯えているかのようなそんな印象を覚える。彼女がこんな状態になるのは、俺の覚えている限りでは中学校以来で、恐らく、流れ的に俺の台詞の何処かに問題があって、それが榊のあのときの記憶を呼び起こしてしまったということだろうか。つまりそれは、彼女が未だにあのときの出来事を引きずっていると言うことだ。俺がそうすればいいか、迷っていると――。
「こんにちはーっす榊先輩!簪先輩」
「こんにちはです。榊先輩、簪先輩」
シリアスを吹き飛ばしてくれる、狙ったようなタイミングで部室に入ってくる古幡後輩と、並譜さん。俺がそちらに気をとられ、一瞬振り向いたて、再び榊を見ると、そこには笑顔の榊がいた。なんというか、陳腐な言い方になってしまうが、それは榊に長年付き添って来た俺だから分かる張り付けた笑顔で、何処と無く痛々しいものだ。きっと、俺には分からない、才女にしか分からない痛みが胸を貫いているというのに、どうしてそんな風に笑うことが出来るのか。
「あれー?どうしたんすか?簪先輩。ジーっと榊先輩見つめて。榊先輩の顔には何もついてないですよ」
「あ、あぁそうだな。いや、ちょっとボーッとしててさ。あるだろ、そういう時」
「そういうもんすか……?」
俺は古幡後輩の追及をかわし、榊について考えていた。俺には彼女の痛みが分からなくて、俺に原因があるはずなのに気が付けなくて、それで榊が傷ついている。俺は、榊を傷つける奴を、全力で叩き潰す。なら――俺は、一体どうすれば良いんだ?俺には何も分からず、ただただ何も分からない自分を外に出さないまま、責め続けることしか出来なかった。
急転直下シリアス。
テストの話を書こうと思ったのにどうして少し重くなった……。




