俺と幸崎は対話する
最後にコートの立ったのは、今年の一月、確か一年生の二度目の球技大会だっただろうか。おおよそ二ヶ月ぶりにコートに立つことになる。その球技大会だって、見えていたが、積極的に参加しようとは思わなかった。しかしながら、今回は幼馴染みの榊が俺の試合を見ている。だから、彼女の期待に応えるために俺は、ボールをキープする。
「ちっ!簪を止めろ!」
「……おせぇよ」
俺は馬鹿にするように呟きながら、味方にパスを捌く。ボールタッチの時間は出来るだけ短くすることを意識する。昔とった杵柄という奴だろうか、コートの状況が隅々まで理解できる。何処に敵がいるのか、味方が何処にパスを出して欲しいのか、それを理解しながら、俺はゲームメイクを行う。伊達に、中学時代、他校に名を轟かせていただけはあるようだ。自分ではこれが凄いのか分からないけど。俺は、パスを捌きながら、コートの中盤を支配する。取りあえず一点をとらなくては話にならない。その為には、幸崎をディフェンスに参加させないようにすればいい。同じチームの奴等も認めたくはないだろうが、相手のチームの支柱は幸崎だからな。そして、エースだ。ディフェンスから、オフェンスまで全てをこなせるオールラウンダー。要するに天才の一種。それを相手取るためには、それに相手をさせないことが大事なのだ。実際一番簡単なのはエースをへし折ることだが、まぁそれは無理そうなので却下ということで。
「桔梗!」
相手のチームのエースは幸崎。対して、こちらのチームのエースは桔梗だ。フィジカルが強く、当たりもよい。俺みたいに小手先だけのテクニックではなく、単純なパワー勝負、強行突破という選択肢を選べるのが強みであり、細かい動きも上手い。だから俺は、桔梗に安心してパスを出せるのだ。
「巻かせとけ、簪!」
「桔梗、ここから先は行かせない!」
彼の前に立ちはだかるサッカー部部長、幸崎光輝。さっきまで右サイドにいたはずなのに、いつの間にか左サイドの桔梗の前に居た。やっぱり、部長は運動量からして違うようだ。動きにきれがある。桔梗も彼の隙のないディフェンスに攻めあぐねいているようである。俺は、誰にも悟られぬようにひっそりと行動を開始する。
「くっそ!抜けきれねぇ……――なんてな、簪!」
「な、どうして簪が!?」
「パス出したら、動き出す。これ、サッカーの基本だろ?」
俺は、彼の背に本日二度目の憎まれ口を叩き、ゴールをこじ開け先制点を奪い取った。
――――
サッカーは、一対一で終了し、先生に挨拶をしたあと、教室に着替えに戻る。あれだけ大口叩いて同点で終了とかマジで赤面ものだ。一点とったあと、油断したのか、幸崎に返されてしまった。サッカー部部長は伊達ではなかった。
「やっぱ、簪は凄いな……サッカー部に戻ってこないか?」
「はぁ?」
帰っている途中、サッカー部部長様である、イケメンモテハーレム野郎の幸崎に、意味不明な発言をされた。俺は、一時期、といっても本当に一瞬の高一の四月から五月半ばぐらいまでサッカー部だった。そして、俺はサッカー部を止めて、帰宅部を作った。こんなにも短い期間でサッカー部を止めたのは、何も練習について行けなかった等という、努力をしないやつが一番最初に吐く弱音のような理由ではないのだ。その当時のことをこいつも少なからず知っているだろうに、それでもこいつは俺にサッカー部に入れと言うのだろうか。
「断る。何故、俺がサッカーなんていう面倒くさい競技をやらなければならないんだ。俺は毎日を怠惰に暮らしたいんだよ」
「……それは嘘だ。今日のサッカーをやってたときのお前はとても楽しそうだった」
「そんなわけないだろ。俺はサッカー嫌いなんだよ。コートに立ったときのあの回りの視線。中盤を支配するための集中。どれもが嫌いで、やる気が削がれる」
「でも!それでもお前はイキイキしてたじゃないか!」
……。
こいつの行動は訳が分からない。訳も分からず俺と敵対したり、あからさまな思い込みで、俺にサッカーをもう一度やらせようとする。俺はもう、やりたくないと言っているのに。
真摯なのは認めよう。心の底から言ってるとは信じられる。
だが、それがどうした。
俺は、もうサッカーをやりたくない。俺だけが被害を被るのは別に構わない。けど、サッカー部に入部していたことで、榊にまで迷惑がかかった。それは、俺が俺の中で最も嫌う行為であり、それを防ぐためならば、どんなに好きなものだって、俺は我慢できる。そして、榊が迷惑を被ったのは俺だけでなく、幸崎にも責任の一端がないとは言えないからだ。
「幸崎。多くの人に周りを囲まれてるお前に何が分かる」
こいつの周りには主に女子限定だがそれでも多くの人間がいると思う。全世界のモテない男子どもの敵である彼は、言葉で数多の女性を攻略してきたのだろう。けれど、俺は男であり、俺には榊という存在がいる。それゆえに、俺は彼とは絶対に反りが合わない。彼の言葉は俺の心には響かず、虚しく空回るだけだ。
「分かる訳ないよな?お前はいつも人から与えられてばかりなんだから。お前は今までに自分で何を手に入れた?」
口にしてはっきりと分かったが、やっぱり俺と幸崎は鏡写しのような存在なのだ。周りの女子に与えられている彼と、周りに信頼できる人しかいない俺。相対し、対立する。俺の価値観と彼の価値観は、一生一致することはない。そもそも、価値観が一致することなんて、双子でもあり得ないだろうが。幸崎は、顎に手を当て俺の言葉に考えるような仕草をとる。
「……確かに、俺にはお前の気持ちは理解できない。けど、俺はお前がいれば、大会で優勝だってできる。だから頼む!もう一度サッカー部に入ってくれ」
「断る。俺には俺の居場所がある」
そこには、俺の信用できる人間しかいないのだから。幸崎、お前のハーレムの拠点が教室ならば、俺は部室が拠点なんだ。だから、俺はその居心地の良い場所から離れるつもりはない――等と言たって、どうせお前には言うだけ無駄だから言わないけど。
「じゃあな、幸崎。次の授業に遅れるから急いだ方が良いんじゃねぇか?」
俺はそれだけ言って、すたこらさっさと教室に逃走した。同じ教室である以上、彼から逃げることは不可能に近い。しかしながら、あんまり彼と敵対すると、女子に苛められそうで怖い。逃げたのは、あの場に居たらチャイムが鳴るまで言いそうで怖かったからだ。もう既に、手遅れなきがしないこともないが、それでもあの場で話続けるよりかは、被害も少なくなるだろう。まぁ、俺だけでなく、榊にまで被害が出た場合は、親の権力でもなんでも使って、潰す。俺はそう考えながら、制服に着替えるのだった。まる。
第十九話。
神座とテンポ合わせられる桔梗さんマジすげぇ!とか思いながら書きました。
彼も充分ハイスペック。
それと、今までの話に出てきている旧幡くんの名前を古幡くんに変えました。
というより、初めて出てきていこう、ずっと古幡になっていたからです。申し訳ございませんでした。




