鋭すぎでしょ……
翌朝。
朝食は昨日と変わらず、穏やかな時間が流れていた。
エレノアは王妃教育へ向かう準備を整え、静かに席を立つ。
「それでは、行ってまいります。」
「ええ。行ってらっしゃい。」
アンナが優しく微笑む。
その笑顔に見送られながら、エレノアは食堂を後にした。
(今日も綺麗だなぁ……。)
思わず見惚れそうになる。
……いけない。
私も席を立たなくちゃ。
朝食を終え、席を立とうとした、その時だった。
「セシリア。」
アンナが穏やかな声で私を呼んだ。
「はい、お母様。」
「少し時間はあるかしら。」
「え?」
「あなたと二人で話したいことがあるの。」
……!
(え、怖い怖い怖い。)
(アンナと二人……?)
(嫌な予感しかしないんですけどー。)
「……はい。お母様。」
悟られないよう柔らかく微笑んで頷いた。
◇
応接室には、すでに紅茶と焼き菓子が用意されていた。
侍女が静かに紅茶を注ぎ終えると、一礼して部屋を出ていく。
部屋には、私とアンナだけが残った。
アンナは優雅な所作でティーカップを手に取る。
「昨日は楽しかった?」
私は思わず瞬きをした。
「え?」
「エレノアのお部屋へ行ったのでしょう?」
「……はい。」
やっぱり知ってる。
侍女さんが報告したんだ。
「刺繍を見ていただきました。」
「そう。」
アンナは穏やかに微笑む。
「姉妹が仲良くしている姿を見るのは、とても嬉しいわ。」
「ありがとうございます。」
そう返事をしながらも、気は抜けなかった。
「セシリア。」
「はい。」
「急にお姉様と仲良くしたくなったの?」
どくん、と心臓が跳ねる。
(探られてる……。)
やさしい笑顔は崩さないまま…
でも、その瞳はまっすぐ私を見つめていた。
「昨日、お姉様に刺繍を教えていただいて……。」
私はゆっくりと言葉を選ぶ。
「とても優しくしていただいたんです。」
「それで、もっとお話ししてみたいと思って。」
アンナは黙ったまま私を見つめる。
一秒。
二秒。
三秒。
沈黙に耐え切れず、心臓の音だけがやけに大きく聞こえる。
やがてアンナは、ふっと微笑んだ。
「そう。」
「それなら安心したわ。」
張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。
「エレノアは優しい子だから。」
「これからも仲良くしてあげてね。」
「はい。」
返事をしながらも、胸の鼓動はなかなか落ち着かなかった。
◇
自室へ戻るなり、私はベッドへ倒れ込んだ。
「はぁぁぁぁぁ……。」
大きく息を吐く。
(怖かった……。)
(アンナ、鋭すぎでしょ……。)
昨日たった一日の出来事。
それだけで私の変化に気付いた。
(完全に警戒されてるよね……。)
(危なかったぁ……。)
私は枕へ顔を埋めた。
知っているからといって、何でも変えられるわけじゃない。
私が怪しまれれば、エレノアを守ることすらできなくなる。
(まずはアンナに怪しまれないこと。)
(焦っちゃ駄目。)
(一つずつ……。)
私は深呼吸を一つして、ゆっくりと顔を上げた。
エレノアは、まだ何も知らない。
これから少しずつ自由を奪われていくことも。
その笑顔が曇っていくことも。
「絶対に……。」
私は小さく拳を握る。
「エレノアだけは、守る。」
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