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過去の濁流は加古の清流とともに  作者: 藤田大腸


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8/21

歓迎会兼期末テスト打ち上げその2 初めてのハンバーガー

「とーりん、コーラの味はどない?」


 汐里が聞いた。


「うん、炭酸が舌にビリっときてびっくりした……」

「もしかして炭酸も初めて?」

「うん」


 誰からともなく、「やっぱりお嬢様やな~」と声がした。


「ほな、次ハンバーガーいってみよか」


 桃李は肉の分厚さが特徴の「超肉厚ビーフバーガー」を手に取る。


「確かこうやるんだったな」


 包み紙を丁寧にあけて、包み紙越しに両手でハンバーガーを掴んだ。その次の所作を、誰もが自分のハンバーガーに手をつけようともせずにじっと見守っている。


「そんなに見ないでよ……」

「主役が一番先に食べんと、なあ?」


 翠が汐里に同意を求める。汐里はうなずいて「ガツンといったって」と煽った。


「じゃあ、いただきます」


 一口かじった。果たしてどういう感想が出てくるか、汐里は固唾を呑んで待った。


「すごい、なにこれ、美味しい!」

「出たっ、『なにこれ』が!」


 最初に汐里とかつめしを食べたときもそうだったが、桃李は初めて食べるものが美味しいと「なにこれ」が口から出てくるクセがある。ハンバーガーも桃李のお気に入りの一つに加わったようだ。


「次、ポテトいこ!」

「フライドポテトぐらいはさすがに食べたことがあるよ」


 桃李は笑った。


 みんなも食事を始めたが、汐里は歓談しつつも果穂に視線を向ける。


(あかん、全然しゃべってへん。もー……)


 もどかしかった。たまらず、向かい側にいる翠にそっと耳打ちした。


「米村さんにスマホのメッセージで話のネタを送ったろか?」

「いや、実はもう手を打っとる」


 翠は隣にいた日笠真希(ひがさまき)という生徒の肩をちょんちょんと叩く。軽音楽部でボーカルとギターを担当しており、横はポピュラー音楽からクラシック音楽まで、縦は最近の曲から両親・祖父母世代の曲までと広く深い音楽の知識を持っている。


 真希は一つ咳払いをして、ポニーテールを揺らしながら立ち上がると、大きめの声で言った。


「なあなあとーりん、いきなりやけどここでクイズ出してええ?」

「クイズ?」

「転校してきてから加古川をどこまで知っとるか試したい」

「いいよ。でも意地悪な問題はダメだよ」

「まあとーりんやったら楽勝のやつやし。じゃあいくで」


 問題.加古川市はあるゲームが盛んな地域です。それは何のゲームでしょう?


 A.囲碁 B.将棋 C.チェス D.麻雀


「Bだね。加古川市ゆかりの棋士が多いことから『棋士のまち』と呼ばれている。でしょ?」

「正解! さすがとーりん、完璧な答えすぎるわあ」


 このクイズが果穂の会話を促すことにどう繋がるのか。果穂のことを知らない人であれば全くわからないであろう。汐里は知っているので、先のことがある程度読めていた。


「じゃあ次の問題いきまーす。この中で将棋が一番強い子は誰でしょう?」

「うん……?」


 桃李が首をかしげた。さすがに悩んでいる。


「日笠さんは軽音楽部だから違うよね。翠は卓球部で汐里は料理同好会だったっけ?」

「そう、料理同好会やで」


 料理同好会は週に一度ないし二度程度しか活動しない比較的ゆるい部活なので、汐里はよく帰宅部と勘違いされていた。


「じゃあ残り四人のうち誰かということか」


 桃李は一同を見回す。視線の方向が果穂のところに向いたところで、真希がわざとらしく咳払いした。


「えと、もしかして米村さん?」

「正解正解!」


 満面の笑みで拍手する真希と、緊張してこわばっている果穂の表情が対照的である。翠は「力技やけど、これで米村さんは話せなアカンことになる」と、ニヤリとした。果穂からすれば迷惑千万だろうが、汐里は心を鬼にして静観することにした。


「米村さん、将棋部だっけ?」

「あ、あ……一応、はい……」

「一応ってレベルちゃうよ。来月の全国大会に出るんやから」

「え……?」


 果穂は恥ずかしそうにうつむいたが、将棋部での実績に嘘偽りはない。彼女は春に行われた全国大会の県予選、個人戦の部で準優勝を決めて全国大会出場への切符を手にしていた。加印高校将棋部初の快挙を達成しているが、そのことを誇るわけでもないし誰かに話すこともない。凄いのだからもっと自信を持てばいいのにな、と汐里はいつも思っていた。


「うちの高校、部活で全国行くことって滅多に無いからな。米村は本当はすごい子なんよ。なあ?」

「え、いやでも、準優勝だし……」

「自慢してええレベルやん」


 真希が呆れ気味に笑う。謙虚ではなく卑屈っぽく聞こえてしまうのは、やはり自己肯定感が低めだからだろうか。


 桃李が果穂の目を見つめて言った。


「将棋はいつから続けてるの?」

「あ、えっと……小学校に入ってからで……」

「どれぐらい強いの?」

「一応、四段……です。アマチュアですけど……」

「四段ってどのぐらい?」

「……」


 果穂は顔を赤くして固まってしまった。汐里がすぐ助け舟を出す。


「野球で言うたら高校野球のエース投手で甲子園行けるレベルちゃうかな、知らんけど」

「私は野球のことは全然知らないからよくわからないけど、強いんだな。米村さんの意外な一面が知れて良かったよ」

「米村さん、褒められとるで!」

「あ、う……」


 翠が「CPU使用率100%応答なし、になってもうとる~」と言うと、一斉に笑い声が起きた。


 桃李に果穂の強烈な印象を植え付けることには成功した。あとは果穂からも話しかけられるようになるだけである。


(しかしこんな性格でも将棋がめちゃくちゃ強いってのは、ようわからんなあ)


 際立った才能も無ければ致命的な欠点も無い、汐里が抱いた感想である。


「よーし、メシの後は運動や。ボウリング行くでえ」


 本館から道路を挟んだ西隣にミーツテラスという建物があり、その中にボウリング場が入っている。


「二つのレーン使うからあらかじめチーム分けするわ。『グッパッパ』で決めよ。あ、とーりんは『グッパッパ』わかる?」

「グーかパーを出すんだろう。私の周りだと『グーパージャン』だったけど」

「さすがに知っとったか。これ地域で全然呼び方違うんよな。ウチの周りは『グッパッパ』やったけど」

「私んとこは『グッパでグッパッパ』やった」


 と、汐里が言った。他の生徒に聞いても全員バラバラの答えが返ってきたが、ひとまず今回は『グッパッパ』の掛け声に決めた。


「せーの、グッパッパ!」


 一度で決まった。桃李と同じくパーを出したのは果穂、真希、そして汐里である。


「おー、とーりんと一緒やなあ」


 汐里はわざとらしく、果穂に向けて言った。


「あの、ボウリング、初めてなんやけど……」

「ルールは単純よ。球転がしてピン倒して一番多くスコアを稼いだもん勝ちや」


 桃李も果穂に言う。


「実は私もボウリングをしたことが無いんだ。初心者どうし、よろしくね」

「わわ……は、はい!」


 汐里は真希と顔を見合わせて苦笑いした。

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