歓迎会の提案
「汐里、ジブンはやっぱ人がええわぁ」
翠にニヤニヤされて、汐里は少し気味悪がった。
「な、何や急に……」
「ウチが見た限りでは今のところ、とーりんと一番仲いいのは汐里や。その立場を利用してウチやったら『二人で遊びに行かへん?』ってみんな差し置いて抜け駆けしとるなあ。それをみんなで歓迎会しようってんだからほんま人がええわぁ。あ、皮肉とちゃうからな」
「私一人じゃ歓迎『会』にならへんやん。それに気後れしてかあんまりとーりんにしゃべりかけへん子もおるし、そういう子にも機会を与えられるんちゃうかなと思うて」
「汐里、ほんまにええ子やわあ」
自分より頭一個分以上小柄な友人に、頭を撫でられた。
「じゃあこの学級委員が……と言いたいところやけど。その前に乗り切らなアカンイベントがあるよな」
「何?」
「期末テスト」
「うあっ」
汐里は変な声を出した。桃李の転校という突発イベントに気を取られて、大事な一学期末テストまで残り二週間しか無いことに気づいたのだった。
「やばい、全然勉強してへん……」
「テストぐらいどないでもなるって。その後のことを考えよ。テスト終わった日に打ち上げも兼ねて歓迎会やる、ってのはどや?」
「なるほど、打ち上げかあ。それめっちゃええ考えやな」
「ほな決まりや」
「場所はどうしよ?」
「とーりんやったらどこ行っても感激するんちゃう? あの熱量は正直引くぐらいやけど……」
今朝、登校直後に桃李が訪れたニッケパークタウンと寺家町商店街の画像をみんなに見せてきて、どれだけ素晴らしい場所なのか、延々と熱弁を振るっていた。
「寺家町商店街の画像、これでもかって撮ってたよなあ。全部つなぎ合わせたらGoogleストリートビューになりそうなぐらいに」
「わははは、ホンマになあ」
「で、翠ちゃんが『あんなもん古いだけで何も無いやん』って一言意地悪を言ったあとが凄かったなあ」
桃李は東京にあるレトロな商店街と比較してどこが違うのか、どこが優れているのかを理路整然とした論調で反論してきたものだから、さすがの翠も謝るしかなかった。下手に一言再反論するとさらに五つか六つ再再反論されそうだったからである。
「あの子が凄いところって、ただ単に行っただけやなくて後で行ったところを調べて知識にしとるところなんよな。私らでも知らんこと知っとるし」
「趣味でそんぐらい力入れるの、ウチらには絶対に無理やな」
「話し戻すけど、場所どうする?」
「そやなあ……やっぱりここはニッケかなあ」
「もう一度行くん?」
「大勢で遊びに行くとまた違った面が見えてくるやろ。ゴッチも言うとったやろ。一度学んだらそれでおしまい違う、何度も学び直していろんな角度から物事を見る、それが本当の学びやって」
ゴッチとは翠がつけた後藤教諭のあだ名である。
「遊ぶ所としてのニッケを見せるってことか」
「そうそう。もっと気に入ること間違いなしやわ。とりあえず、まずとーりんの都合聞こか」
汐里は翠と一緒に、桃李に話を持ちかけた。
「か、歓迎会? 私の?」
困ったような、驚いたような、どっちとも取れる表情を見せてきた。
「あ、別に無理にとは言わんけど、期末テストの打ち上げも兼ねてみんなでわちゃわちゃやるのも有りかなーって」
「いや、こういうお誘いは初めてだから……」
「初めて? 前の学校だと引く手あまたやったんちゃうの」
「遊ぼうにも校則で寄り道禁止だったし、そのほら、プライベートで遊ぼうにも人間関係的な難しさというか何というか、あっちが成り立ったらこっちが成り立たない……というか」
「まあだいたいわかるわ」
と、翠がうなずくと、汐里は「何がわかるん?」と。
「とーりんは前の学校でもだいぶ人気やったやろうから、一緒に遊びたいと思うとる子はごまんとおったはずやん。じゃあとーりんが誰かと遊んだら他の子はどう思う? そらもう嫉妬の炎がブワーッよ」
翠は両手を使って炎が燃え盛る様子のジェスチャーを見せた。
「それやったらみんなで遊んだらええやん」
「それやと『わたくし新開さんと遊びましたのよ』って自慢できんやん。お嬢様学校って生徒間でマウント合戦してそうなイメージあるし、とーりんもステータスぐらいしか思ってない奴おったんちゃう? 知らんけど」
「翠ちゃん、そらあんまりな言い方やで」
いくら翠が関西人的な保険のかけ方をしようとも、桃李にとって愉快でない表現だろう。しかし桃李は、
「翠の言ってること完全には否定できないかな。実際、下心があって私に近づいてくる子がほとんどだったから」
「あらら、マジやったんか。大変やったんやな……」
「でも遊び相手が全くおらんってことなかったんちゃう」
「うん。ちゃんと相手はちゃんと選んでいたよ。誠実な子もいたからね。だけどさっき翠が言ったみたいに嫉妬する子もいるから、隠れてコソコソとだったけど」
「これじゃ遊ぶというか、密会やな」
「翠ちゃん、言い方」
汐里からの二度目の注意。
誰々が自分を差し置いて誰々と遊んで悲しい、酷いといったことは汐里や翠の周りでも無くはなかったが、お嬢様学校だともっとえげつない泥仕合になっていそうである。
「ちなみに何して遊んだん?」
汐里が聞いた。
「お茶会とか、クラシック鑑賞とか、美術館巡りとか」
「や、やっぱりお嬢様なんやな……」
カラオケやボウリングといった庶民の趣味を嗜んだことは一度も無さそうである。しかし桃李には自分たちに積極的に溶け込もうとしている姿勢があるから、大丈夫だろうと汐里は判断した。
「けど、ここには庶民しかおらんし、嫉妬の炎でブワーッするような子もおらへん。みんな本音で話しあえるし。難しいこと抜きで楽しもうよ」
桃李の表情が、少し和らいだ。
「そこまで言ってくれるなんて……じゃあお言葉に甘えさせてもらいます」
「よし、決まりな。じゃあ、学級委員から声かけしてもらうから」
「任しとけー」
意気込む汐里と翠に、桃李は言った。
「まずは期末テストを乗り切らないとね」
「テンション下げること言わんといてー……」
汐里は天を仰いだのだった。




