表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/46

第26話【テラ対策編】投げ込まれた小石――ワインに誓う陰謀、パンに誓う再戦

第26話【テラ対策編】投げ込まれた小石――ワインに誓う陰謀、パンに誓う再戦



「壊すことしか能のない破壊兵器が……!」


政府庁舎の最奥にあるネプチューン大臣の執務室。

ネプチューンは、机の上に広げられた数枚の資料を眺め、不愉快そうにチッ!と舌を鳴らした。

資料には、勇者テラの戦績――というよりは、彼女が破壊した街の修繕費と、殴り倒された悪者たちの医療費のリストが延々と並んでいる。


「……野良犬め。飼い主の顔を立てるどころか、噛みつくことしか知らんな!」


ネプチューンの背後には、政府のお抱え魔導師である〝偽筆の魔術師〟が控えていた。

机の上には、セレネが以前、道中から送ってきた一通の定期報告書がある。

その末尾には、彼女が個人的に大切にしているであろう一文。


〝スピカ司教様に、私は元気だとお伝えください〟


という書き置きが添えられていた。


「ふん、健気なことだ。だが、その想いが仇となるとは夢にも思うまい」


ネプチューンが合図すると、魔導師が怪しく光る羽根ペンを出現させた。

魔導師は、セレネが大切にしている〝シモン司教〟が過去に書いた公文書を並べ、その筆跡に宿る〝魔力の癖〟を解析し始める。


「……完了しました。大臣。私の〝模写魔法レプリカ・トレース〟に抜かりはありません。本人ですら見間違える、完璧な偽造です」


「よろしい。文面はこうだ。〝セレネ、君が仕える勇者にこの聖遺物を渡しなさい。彼女を守る盾となるだろう――〟。……くく、彼女なら、尊敬する師の言葉を疑うはずがない」


ネプチューンは、傍らに置かれた黒い小箱を指先で叩いた。

中には、政府の魔導技師たちが作り上げた呪具――〝日蝕の石〟が収められている。


「司教の名でこの石を届けさせろ。セレネは、テラの身を案じるあまり、自らの手でその首輪をはめることになる」


魔導師が魔法を込めた手紙を小箱に封じる。その手紙からは、シモン司教の温かな慈愛の魔力が偽装されて漂っていた。


「……勇者という名の〝狂犬〟に、我ら飼い主が〝首輪〟を授ける。これほど美しい構図があるか?」


「……しかし大臣。もしテラが呪いを跳ね除けたら?」


「その時は、セレネという〝共犯者〟に絶望を与えればいい。自分が勇者を殺しかけたという事実は、あの真面目な女の心を折るには十分だ」


窓のない部屋に、ネプチューンの濁った笑い声が響く。


「……さあ、伝書鳥を放て。荒野で待つ、哀れな羊たちのもとへ」


数日後、荒野の焚き火のそばで、セレネがその小箱を〝恩師からの奇跡〟だと信じて涙ぐむ姿を想像し、彼は最高級のワインを飲み干した。



※※※



「……魔王様。報告いたします」


魔王城の謁見の間。

アレスはボロボロになった黒の騎士服で跪き、沈痛な面持ちで頭を垂れていた。


「勇者テラと接触、交戦いたしました。……ですが、私の修行不足ゆえ、奴を仕留めるには至りませんでした」


『……魔王様。私からも報告を』


アレスの腰で、魔剣サタンブレイドが低く震えるような声を漏らす。


『光る君……いえ、聖剣ガイアセイバー……あれは、これまでの勇者が振るっていたような、澄まし顔の〝正義の道具〟ではありませんでした。私の刃の芯に、熱く、剥き出しの意志を叩き込んできた……』


「……ほう。聖剣に対してそこまでの〝反応〟を見せたか」


『正直、あれほどの圧力を受けたのは、私が生まれて以来、初めてのことです』


玉座に深く腰掛けた魔王は、美しい顔に薄い笑みを浮かべた。

その瞳はアレスではなく、もっと遠い何かを見つめている。


「……勇者テラか。アレス、お前は彼女に〝光〟を見たか?それとも、滅ぼすべき〝悪〟を見たか?」


「……分かりません。ただ、あいつが剣を振るう時、周囲の空気が、まるで何かの鎖から解き放たれるように震えていました。あんなものは、救世主でも破壊者でもない。ただの……どうしようもない〝不純物〟です」


「……〝不純物〟か。くくく、面白い。この清濁あわせ持った調和の世界に、ようやく投げ込まれた〝小石〟というわけだ」


魔王はゆっくりと立ち上がり、アレスの元へとコツコツと歩み寄る。


「……だからこそ、聖剣も魔剣もお前も、その不純な響きに当てられて狂い始めている」


その足音はアレスの背筋に冷たい緊張を走らせた。


「アレス。お前が感じたその異質な響きこそが、この世界に足りなかったものだ。お前の気が済むまで、彼女とぶつかり合うがいい。その怒りも、その執着も、すべてをあいつに叩き込め」


「はっ……!期待に応えてみせます。私のあんパン……この深淵の味を奴の魂に刻み込み、二度と逆らえぬよう分からせてやります!」


『(キャー!私もまた光る君に叩かれるのね!楽しみですわー!)』


アレスは、魔王の言葉を〝全力で再戦せよ〟という激励として受け取り、殺気とパンの香ばしい匂いを身に纏いながら退室していった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ