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第27話【テラVSアレス編】泣くなセレネ!地平線の彼方へ飛んでけ闇(あん)パン男!

第27話【テラVSアレス編】泣くなセレネ!地平線の彼方へ飛んでけあんパン男!



「これなら……。これがあれば、テラ様を……」


魔王領へと続く荒野。

夜のキャンプファイアの傍らで、セレネは大切そうに小さな小箱を抱えていた。

中に入っていたのは、透き通るような蒼い石があしらわれた、美しい銀のブローチだ。


「……綺麗。スピカ司教、私のことを、覚えていてくださったのですね」


セレネの脳裏に、幼い頃の記憶が蘇る。孤児院で、泣き虫だった自分の頭を優しく撫でてくれた、温かな手のひら。

長い年月を物語るその手は、まるで傷ついた小鳥をそっと包み込むような優しさに溢れていた。


〝セレネ、恐れることはありません。この星々が見守る世界に、無駄な命など一つもないのです。いつかあなたが誰かを守りたいと願う時、その真心こそが最大の魔法になりますよ。〟


眼鏡の奥で慈愛に満ちた目を細め、そう語りかけてくれたスピカ司教。

彼女にとって司教は、信仰そのもの以上に信頼できる〝家族〟だった。

政府の伝書鳥が届けた手紙には、その司教の震える文字でこう記されていた。


〝セレネ、君が仕える勇者にこの聖遺物を渡しなさい。彼女を守る盾となるだろう――〟


セレネは、テラの破天荒な戦い方をいつも心配していた。

聖剣をバットのように振り回し、防御など一切考えない戦法。

いつか取り返しのつかない傷を負うのではないか……。


「テラ様、ちょっといいですか?」


「あ?なんだよ、説教なら寝てから聞くぜ」


酒瓶をラッパ飲みしていたテラが、面倒くさそうに顔を上げた。


「違います。これ……お守りです。私の大切な人が、テラ様のためにって」


セレネはテラの無骨な革ベストの胸元に、丁寧にブローチを留めた。

テラは一瞬、気恥ずかしそうにしたが、セレネの真剣な眼差しを見て、フッと不敵に笑った。


「へっ、似合わねえな。けど……お前がそこまで言うなら、付けておいてやるよ」



※※※



翌日、魔王城近郊の断崖。

二人の前に立ちはだかったのは、漆黒のオーラを身に纏った闇の勇者、アレスだった。


「テラ!今日こそ引導を渡してやる!あんパンの……ではなく!魔王様から授かったこのサタンブレイドの錆にしてくれるわ!」


アレスが腰の魔剣を抜くと、待ってましたとばかりに刀身が激しく震え出す。


『あああ!光る君!今日もその凛々しい輝きで、私を激しく打ち据えてくださるのね!?』


『紫の上!待ちわびたぞ!今日こそ君の闇を私の光でこじ開けようではないか!』


「うるせえパン屋!お前のナマクラもろとも、場外まで吹っ飛ばしてやる!」


テラが聖剣ガイアセイバーを構え、地面を蹴った。いつもなら電光石火の一撃。だが――


「(……?体が、重い……?)」


テラの視界が急に霞み始めた。

頭の芯がボーッとする。

戦いへの高揚感が急速に冷め、まるで深い眠りに誘われるような、強い〝脱力感〟が脳内を支配していく。


「どうしたテラ!動きが鈍いぞ!」


アレスの黒い斬撃が、テラの肩を浅く切り裂く。


「っ……!ガイア、どうなってやがる!」


『テラ、しっかりしろ!お前の魔力が急速に〝鎮静化〟されてる!まるで猛獣が牙を抜かれた小犬にでもさせられて……力が……!』


その時、政府の伝書鳥が禍々しい青色の光を放った。空中に、ネプチューン大臣の嘲笑うようなホログラムが浮かび上がる。


『はっはっは!素晴らしい効き目だ。それは聖遺物などではない。対象の闘争心と魔力を強制的に鎮静する呪具〝日蝕の石〟だ!』


「なっ……大臣!?」


『セレネ、君の〝真面目さ〟には感謝するよ。司教の手紙も私が偽造させたものだ。君が渡せば、あの警戒心の強い野良犬テラも疑わずに身につけるだろうと思ってね!』


「そんな……私が、テラ様を……?スピカ様の言葉だと思っていたのに……!」


『くくく……はははは!本来なら黙って見届けるべきだったが、もう我慢ならん!』


ホログラムの中でネプチューンは、顔を醜く歪めて狂喜の声を上げた。


『報告書を読むたびに私の胃を荒らしてくれたお前たちの、その絶望に染まった面が見たくてたまらなかったのだよ!日頃の鬱憤を晴らすには、最高の見せ物だ!』


セレネの足がガクガクと震え、手にした記録ノートが地面に落ちた。

かつて司教が言った〝誰かを守りたいと願う真心〟。それが今、ネプチューンによって〝誰かを殺すための刃〟に書き換えられてしまった。


『さあ狂犬よ、信頼していた小娘に裏切られた絶望の中で、無様にやられるがいい!』


「何だが知らないが、調子が悪いようだな!終わりだ、テラ!」


アレスがサタンブレイドを振り上げる。

テラは膝をつき、力が入らない腕で必死にガイアを支えていた。


「逃げて……テラ様、逃げて!!私のせいで……私のせいで!!」


セレネの泣き叫ぶ声が戦場に響く。

その声を聞いた瞬間。

テラの瞳に消えかかっていた〝火〟が再び灯った。


「……おい、セレネ」


テラが低く、地を這うような声で言った。


「シケた顔すんな。お前が笑ってねぇと、私の剣に力が入らねぇだろ!」


テラは震える手で、胸元のブローチを掴んだ。呪いの光がテラの指を焼き、皮膚が焦げる匂いが漂う。

しかし、テラはそれを無理やり引きちぎることなく、逆にグイッと胸に押し付けた。


「大臣……。お前、一番やっちゃいけねえことをしたな」


テラの全身から、白金色の魔力が溢れ出す。呪いの〝鎮静〟を、圧倒的な〝怒り〟が塗り替えていく。


「女の子の〝まごころ〟を、踏みにじった罪は重いぜ!」


――パキィィィン!!


呪いの石がテラの魔力の圧力に耐えきれず粉々に砕け散った。大気が震えるほどのプレッシャーがアレスを襲う。


「な、なんだこの魔力は!?」


「呪いだの何だの小難しいことは知らねえが……このブローチ代、きっちり返させてやるよ!!」


テラは聖剣ガイアセイバーを、これ以上ないほど深く、長く振りかぶった。


『ああ、テラ!お前の怒り、最高だ!さあ、紫の上に私の全力を見せつけてやろう!』


『く、来るわ、凄まじいのが!!!』


「テラ・クラァァァッシュ!!」


――ズドォォォォォォンッ!!


放たれた一撃は、アレスの魔剣を衝撃で黙らせ、そのまま魔王城の尖塔を三つほどなぎ倒して、地平線の彼方まで衝撃波を届かせた。


「ぐはあああああああッ!!次は、パンの耳まで完食させてやるからなーーーッ!!」


アレスは星になって消えていった。




そして――。

ボロボロになったテラの前に、セレネが涙を流しながら立ち尽くしていた。


「すみません……本当に、すみませんでした……」


テラは、焦げた指でセレネの鼻先をピンと弾いた。


「痛っ!?」


「謝る暇があったら、次の町で一番高い酒を奢れ。……あと、お守りは次はもっと可愛いやつにしろよ。あんな石っころじゃ、私の魅力に耐えきれねえんだわ」


テラはいつものように笑い飛ばし、夕陽に向かって歩き出す。

セレネは一瞬呆然とした後、慌てて落ちたノートを拾い上げ、その背中を追いかけた。


「……はい!世界で一番可愛いお守り、探しておきます!」


その2人の後ろ姿を、砕けたブローチの破片が〝スピカ司教の眼差し〟のように優しく照らしていた。







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