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第25話【テラVSアレス編】勇者vs闇勇者!パン粉舞う戦場で引き裂かれる恋、砕け散るオーブン

第25話【テラVSアレス編】勇者vs闇勇者!パン粉舞う戦場で引き裂かれる恋、砕け散るオーブン



「よし……!今日も最高の焼き上がりだ。あのパンの味を認めてくれた〝運命の聖母〟様、また来てくれないかなぁ……」


その時、魔王領の境界近く、漆黒のキッチンワゴン〝サタン・ベーカリー〟の前に、砂塵を巻き上げて爆走する馬車が急停止した。

降りてきたのは、青い髪をなびかせた勇者テラである。

アレスは慌ててワゴンから顔を出した。


「あ!あの時の、パンの価値を分かってくれた聖母のようなお姉さん!また買いに来てくれたんですか!?」


アレスの瞳は輝いている。

目の前にいるのが、自分から勇者の座を奪った相手であることも知らず、運命の再会に胸を躍らせて、握りしめたトングを小さく震わせる。


「あの子たちが、あのパンじゃないと嫌だってきかねえんだ」


「今まさに新作の〝あんドーナツ〟が揚がったところです。サービスで〝魔界ナッツ〟も増量しますね!」


アレスが嬉々として、魔剣サタンブレイドで生地を切り分けようとした、その時だった。テラの背負った袋から、今まで聞いたこともないような甘ったるい嬌声が響いた。


『……ああ!この、鼻腔をくすぐるような危険なスパイスの魔力!間違いない、私の魂の片割れ、〝紫の上〟がそこにいるのか!?』


『……ッ!?この、網膜を焼くような白銀の輝き!まさか、愛しの〝光る君〟!?嗚呼、こんなパン粉まみれの姿で会いたくないわ!』


アレスの手の中で、魔剣が激しく身悶えし、熱を帯びる。


「……サタン?なんでそんなにバイブレーションしてるの?揚げ物機と共鳴してるの?」


テラもまた、背後の聖剣がかつてないほどデレデレとした魔力を放っていることに気づき、顔をしかめた。


「……おいガイア。お前、いつからそんな節操のない剣になったんだ」


「……記録:〝聖剣、パン屋の刃物に対して公開プロポーズを開始。極めて公序良俗に反する挙動〟……です」


セレネが冷静にペンを走らせる中、アレスはハッと目を見開いた。

その〝聖剣〟という言葉。そしてガイアセイバーの姿。パズルのピースが、アレスの脳内で最悪の形に組み合わさった。


「……青い髪に、聖剣。そして、人の話を聞かずに暴力を振るうその威圧感……」


アレスの顔から血の気が引く。


「思い出した……思い出したぞ!あんた、やっぱりあの時、僕をゴムボールみたいに弾き飛ばした女じゃないかぁぁぁ!!」


「あ?……あぁ、そういやそんなこともあったな。あの時の男だったのか。懐かしいじゃねえか」


テラが不敵に笑い、アレスは魔剣を抜き放つ。


「騙したな!僕の純粋なパン職人魂を!この恨み、あんパンの恨み……思い知れぇぇ!!喰らぇぇぇ!あんクロワッサン!!」


アレスが吠え、サタンブレイドを一閃。黒い魔力がパンの焦げた匂いを伴ってテラを襲う。


「ハッ、笑わせんな!」


テラは一歩も引かず、ガイアセイバーで迎え撃った。


――ガキィィィィィィィン!!


衝撃波が周囲のキッチンワゴンを揺らし、デネブたちが悲鳴を上げて吹き飛ぶ。


「ぬおおお!耐えろ俺の腹斜筋!踏ん張れ広背筋!屋台が飛ばされるぞぉぉぉ!!」


「あ、悪魔だ、あれは!関わったら利益どころか、命という名の元本が割れるぅぅぅ!」


剣と剣が噛み合い、火花が散る。しかし、そこには通常の死闘とは異なる異様な空気が流れていた。


『あああ、光る君!その強引な攻め、最高よ!もっと強く、私を叩いて!』


『紫の上!君のその禍々しい反発力、まさに私の理想だ!私の鞘になれぇぇぇ!!』


「こいつら、戦いながらイチャついてんじゃねえよ!気持ち悪いな!」


テラが強引に剣を押し戻し、アレスの懐に膝蹴りを叩き込む。


「ぐはっ……!さすがは暴力勇者……だが、今の僕は一味違うぞ!」


アレスは空中で反転。魔剣を地面に突き立て、広範囲の闇を爆発させた。


「喰らえ!深淵断罪アビス・ブレイク!!」


「ならこっちは、閃光だ!!テラ・クラァァァッシュ!!」


――ズドォォォォォォンッッッ!!!


テラが力を一箇所に集中させ、聖剣をバットのように振り抜く。二人の力が正面から衝突し、荒野に巨大なクレーターが造られる。

爆煙の中、テラは肩を切り裂かれ、アレスは口元から血を流しながらも、互いに次の踏み込みを狙う。


『待っていたぞ、紫の上!さあ、私のこの白金の輝きで、君の闇を焼き尽くしてあげよう!』


『ああ、光る君!その強引な光、眩しすぎるわ!鞘なんて脱ぎ捨てて、私の中に飛び込んできて!!』


――ガキィィィィィィン!!


二人が振り下ろした一撃が正面からぶつかり合う。

だが、衝撃波が周囲をなぎ倒す一方で、剣と剣が接した瞬間に発せられたのは、火花ではなくピンク色のプラズマだった。


「な、なんだ!?剣が離れない!?」


「僕の腕が勝手に……!?まるで、見えない力で引き寄せられてるみたいだ!」


ガイアセイバーとサタンブレイドが、磁石のように互いの刀身を吸着させ、離れようとしない。

テラとアレスは、剣を間に挟んだまま、〝押し相撲〟のような超至近距離で見つめ合うような格好で荒野を転げ回った。


「ひっ、お姉さん、顔が近い!綺麗だけど怖い!」


「離せ、このパン屋!近いんだよ、鼻にパン粉がつくだろ!」


「僕だって嫌だ!お姉さん、握力が強すぎて僕の肋骨がミシミシ言ってるよ!」


アレスが再び魔剣を構えようとしたその時。背後のキッチンワゴンから、アルタイルの泣き声が響いた。


「アレス様ぁ!窯が……パンを焼く窯が、衝撃で壊れちゃいましたぁぁぁ!」


アレスの動きが、ピタリと止まった。


「……なっ。僕の……僕の宝物のオーブンが!?」


「おいパン屋、まだやるか?!」


テラが聖剣を構え直すが、アレスはガックリと膝をつき、魔剣を鞘に収めてしまった。


「……やめだ。やめだ!窯が壊れたらパンが焼けない。パンが焼けないなら、僕はただのゴムボールに戻ってしまう……。今日は、これ以上戦う意味がない……」


アレスは涙を流しながら、壊れたオーブンを抱きしめた。


「……あぁ、今月の利益が……鉄屑に……」


テラは拍子抜けしたように聖剣を下ろした。


「……ちっ。しらけさせやがって。いいか、次は必ずおかわりを売ってもらうからな。その時まで、もっと頑丈な窯を用意しとけ!」


テラは聖剣を乱暴に馬車へ投げ込む。


『待ってくれ!まだ愛の言葉を……紫の上ぇぇぇ!』


『光る君、行かないで!私の刀身を冷やさないでぇぇ!』


引き裂かれる恋人(剣)たちの絶叫が響く中、テラはセレネに馬車を出発させて、再び砂埃を上げて去っていった。







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