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食文化を知ろう

 「起きなさい、レイ!今日は私が街を案内すると言ったはずでしょう?」

 翌朝、俺はラフワールの声で目を覚ます。

 「騒がしいな…こっちはこんな牢獄みたいな場所で寝ていたから疲れがとれていないんだよ!」

 そう、昨夜案内された場所はどう見ても牢獄だった。

 「仕方ないでしょう。貴方はまだ暫定救世主なんですから。それより、素っ裸で寝ていないで、さっさと出かける準備をしなさい。洗面や歯磨きなんかもあるでしょうから、少しだけ時間をあげるわ。遅くなるなら、首をはねるからね。」

 ラフワールは目の笑っていない笑顔を向ける。

 「分かった!急いで支度する!」

 俺は十分で支度を済ませてラフワールの所へ向かう。

 「あら、案外早く済んだのね。」

 「これでも、かなりギリギリだったけどな。それで、今日は街を案内してくれるんだろう?」

 「ええ、そうよ。サーティアスを見れば、きっと貴方もこの国の素晴らしさが分かるはずよ。さ、お話しはここまでにして早く行きましょう。私も暇では無いの。国家予算の確認に憲法の見直し、犯罪検挙率の向上案、やらないといけないことは沢山あるの。」

 「へえ~大変なんだな。」

 「あら、もしかして政治に興味が無いのかしら?」

 「正直、今生きていられればどうだっていい。」

 「そう、とにかく、今日は業務として貴方の案内を行うから、よろしくね。」

 ラフワールは俺の手を引っ張り、一緒に車の後部座席に座ると、車は走り出した。

 「それで、まずは何処に連れて行ってくれるんだ?」

 「そうね、まずは貴方でも興味のありそうな食料品街なんてどうかしら?」

 「そうだな。まだ食事を取っていないから嬉しい限りだ。」

 車は走り出し、食品街にたどり着く。

 「さ、着いたわよ。ここには世界各国のありとあらゆる料理を揃えてあるわ。まずは朝食となると、マデシフトのファストタイムなんかがちょうどいいわ。」

 「マデシフト?」

 「マデシフト修道国。クレシェ教を過剰に推し進め、拒否するものを邪教徒って毛嫌いする、科学を否定している国よ。朝食やティータイムの文化はいいだけに残念な場所ね。でも、この国にそんな宗教の強制は無いから安心して頂戴。さ、入りましょう。」

 俺はラフワールに連れられて喫茶店のような店舗に入る。

 「いらっしゃいませ。」

 マスターはラフワールを見ても平然としている。国民の意識はそれなりにしっかりしているな。

 「あら、もしかして驚いているのかしら?」

 「そりゃあな。このサーティアスはラフワールが選んだ人だけで作られているんだろう?」

 「そうよ。だからこそ、どんな客人にも変わらない対応を要求し続けているのよ。マスター、ファストタイムセットを二つ。飲み物はコーヒーを二つで。」

 ラフワールは俺の意見を聞かずに注文を入れる。

 「レイ、ここのメニューは飲み物以外一種類しかないわよ。」

 ラフワールは座りながら言う。俺、コーヒーは苦手なんだよなぁ。まあ、この世界のコーヒーと俺達の世界のコーヒーが同じとは限らないから、それに期待しよう。そう思いながら俺はラフワールの隣に座る。

 「あら、私の隣に素直に座るなんて、肝が据わっているのね。」

 「変に離れて疑われないようにするためだ。」

 「あら、そう?レイ、朝食が来たわよ。受け取りなさい。」

 「あいよ。」

 ラフワールに言われて俺は届いた朝食を受け取る。メニューはジャーマンポテトみたいな炒め物にオニオンリングの組み合わせだった。

 「見た目は案外普通だな。」

 「当然でしょう?どんなものを想像していたのよ。」

 「イースティアでの食事は薬っぽい味だったからな。」

 「そうね。あそこは元々は製薬会社の多い地帯だったからね。」

 俺はラフワールの話しを聞きながら食べ始める。この体に悪そうな味付け、日本に住んでいた頃を思い出す。そう、コーヒーも含めて。

 「……やっぱり、コーヒーはこの世界でもコーヒーか…」

 出されたコーヒーは俺の飲めないブラックコーヒーであった。

 「あら、コーヒーは苦手かしら?」

 「ああ、砂糖とミルクがほしい。」

 「仕方ないわね。マスター、ハニーシュガーを頂戴。」

 ラフワールはマスターに頼み、液状の糖を受け取り、俺に渡す。

 「ありがとう。」

 俺は迷わずに溢れんばかりの糖類を入れる。

 「それは蜂の巣で少量しか採れない貴重なものよ。」

 「こっちではハニーシュガーって呼んでいるのか。俺達の世界では蜂蜜って呼んでいた。」

 「蜂蜜ねぇ…蜜ってどういう意味かしら?」

 「蜜っていうのは、液体状になっていて粘性の高い糖類って感じに考えてもらいたい。もちろん、必ず全部が蜜で表現されるわけではないけど。」

 「なるほど、とてもいい響きね、私の国からその呼び方を発信してみようかしら。」

 「やめておけ。文化、特に言語を捻じ曲げるのは良くない。俺の世界ではその所為でいろんな国が滅茶苦茶酷いことになっている。国によっては文化を完全否定されている所だってある。」

 「なるほどね。やっぱり救世主の話っていうのは参考になるわね。それにしても、余所の言語に文句を言うなんて、可笑しな人もいるのね。」

 「仕方ないだろ。そういう奴らって、正義を盾にしているんだ。正義に対して間違っているなんて言えば、袋叩きにされるのがオチだ。」

 「正義ねぇ…馬鹿じゃないの?正義や綺麗事では生きていくことなんて出来ないのに。」

 「それは紛れもない事実だ。事実だが、俺の住んでいた国ではそうもいかなくてな、正義の心を利用して刃を向ける奴がいるし、それを煽動する奴もいる。」

 「レイ、貴方は見たところこの世界に来る前は普通の一般人だったから分からないと思うけど、国民の尻拭いをするのは何時も政府だって事、忘れないでちょうだいね。」

 ラフワールはコーヒーを飲み終えると立ち上がる。

 「さ、次の場所へ案内するわ。行くわよ。」

 俺もラフワールに言われて立ち上がり、ラフワールが会計を済ませると喫茶店を出て車に乗った。

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