分断都市
無事にサングラスを買えた俺達は食事処に来ていた。
「ところで、レイが博物館に売ったあの金は本当にあれだけの価値があるのか?」
「ラヴェーラ、何当たり前のことを聞いているんだ?そんなにするはず無いだろ。金額自体の価値はレニーと殆ど変わらない。四人でちょっと豪華な夕食を食べたらすぐに消えるよ。」
「貴様、博物館を騙したのか!」
ラヴェーラは立ち上がる。
「話しを最後まで聞け。金額自体に価値が無くても、それがこの世界に存在している事が重要なんだ。俺の世界の金はこの世界にはあの1セットしかないんだ。それだけで金で計れない価値があるんだ。問題ないだろ。」
「うぐっ、それは…」
俺の屁理屈にラヴェーラは対応できず、そのまま座る。
「それで、この遮光眼鏡の件で聞けなかったけど、この国ってどうなっているの?」
俺はフルールにこの国の事を尋ねる。
「はい、この国は昔はサンレイド公国と呼ばれ、科学技術も発展していましたが、今から10年近く前にとても重要な科学実験を行った時に実験は失敗。中央部の都市を中心にサンレイド公国は三つに分断されてしまい、今はそれぞれ西のウェステリア、南のサーティアス、そして私達の住む東のイースティアとなってしまい、お互いの領地を奪い合う戦争が起きています。」
俺はこの世界の蕎麦に該当する麺類を啜りながら聞いている。
「それで、その三つの国はそんなに喧嘩っ早いのか?」
「イースティアは率先して争う気はなくて、むしろみんなが仲良くなれるように貿易をしようとしているんですけど…」
「如何せんウェステリアはプライドがたかすぎるし、サーティアスに関してはもはや戦闘狂の色情狂だからな…」
俺の質問にフルールは答えようとするが言葉に詰まり、ラヴェーラがバトンタッチする。
「それで、それぞれの国はどんな感じなんだ?」
「ウェステリアの国を治めているのは王家の末端に属していた三兄弟の次男が亡き長男の跡を継いだこともあってか、まるで暴政とでも呼ぶべき政治を行ってとても良い環境とは言えないな。」
「それでも、国民は逃げることなくその王様に従っているんだろ?もし本当に悪逆非道の王なら、俺だったら死ぬこと覚悟で出て行くな。それで、サーティアスはどんな感じなんだ?」
「ある意味、ウェステリアより悪辣だ。サーティアスの王は幼少期から世界を支配する等ということを言っていた女で、自分の色眼鏡に適う者だけ生きていればいいというどうしようもない奴が覇王と名乗って支配している。尤も、自分に忠誠を誓う者だけを民にしているから結束力は一人前だな。」
「なるほど、覇王ねぇ…まるで三国志みたいだな。」
「サンゴクシ?なんだそれは?」
「俺がいた世界にある史実を織り交ぜた物語だ。内容を掻い摘まんで話すと、結束力の強い覇王と、武勲を掲げる王の一族、それから王の末裔とされている平和主義の男性が三つの国を纏め、平和を目指す感じの話だ。」
俺はラヴェーラの質問に答える。俺自体、三国志はゲームとかでちょこっと出てくる程度の知識しかないから何処まで正しいか分からないけど、大体は合っているだろう。
「確かに、私達がそこら辺の若輩と変わらないことを除けば、状況は似ているな。それで、その物語は最後はどうなるんだ?」
「確か、一応王の末裔が国を束ねて平和が訪れるけど、息子の代で国が破綻して覇王の息子達が国を治めるだかなんだかみたいな、そんな感じだったはず。俺もそこまで詳しい訳じゃないし、どちらかというと、読んでいないから知らない部類だし。」
「なるほどな。どうせ旅は長くなる。レイのいた世界の話は旅の途中で聞かせてもらうぞ。」
「そこまで信用してくれて助かる。それで、イースティアではこの味付けは一般的な味付けなのか?」
俺はこの独特な味付けで食欲を減らされていた。
「そうですけど、口に合わないのですか?」
俺の質問にフルールが答えてくれる。
「俺が住んでいた世界には無い味付けで、舌がびっくりしているんだ。」
この味を例えるなら、組み合わせの悪い薬膳と香辛料を無理矢理混ぜたような感じだ。
「食事までそんな我が儘を言えるとは、レイの世界は余程裕福で恵まれた環境だったんだな。」
ラヴェーラは嫌みたらしく言ってくる。
「世界全体が、というわけでは無い。俺の住んでいた国が特別恵まれていただけだ。他国の資源を狙う侵略国家、他国からの寄付金をアテにして自分達で国の発展を行おうとしない乞食国家、公務員すら真面目に働かず国家機能が麻痺した怠け者国家だって幾らでもある。」
俺は自分の事を棚に上げてラヴェーラに話す。
「それで、救世主様はそういった問題を解決しようとはしていたのですか?」
フルールは期待の眼差しを向けてくる。
「いや…それが…」
流石に言葉が詰まる。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
ベルもキョトンとした表情で俺を見る。流石にこんな純粋な子供達を騙せない。
「みんなの期待を裏切る形になるけれど、俺は国の金を食い潰している側だった…自分さえよければそれでいい、そう思って国の用意している国民の生活保護費用の受給を受けて仕事もしないで、一日中遊んでばっかりで、家族からも見捨てられたような奴だ。こんな奴が救世主だなんて、笑い話だよな…」
俺は良心の呵責に耐えきれず、事実を話す。
「確かに、救いようのない男だな。」
ラヴェーラは呆れている。これは、首が跳ぶかな。
「だが、貴様がどうしようもない男なのは解っていた。それでも、レイは私達の世界を救うのに必要な存在だ。今更逃げるなんて言わせないぞ。」
ラヴェーラの言葉を聞いて俺は一安心する。すると、これまた妙なタイミングで俺に新しいスキルが付与された。流石に妖視単例の時みたいなミスはもうしない。予めスキルの内容を確認する。
『THE食壱方
効果:自身が調理した料理の見た目、味付けを住んでいた世界の料理と同質のものに変換する。』
またもや使い勝手の悪いスキルの存在に頭を悩ませる。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
ベルが俺に聞いてくる。
「また変なスキルが手に入って、困っているんだ。」
「レイのことだ、どうせ下らないか品の無いものだろう。」
俺がベルに話すと、ラヴェーラは冷ややかな視線を向ける。
「流石に今回は違う。俺が作る料理が俺の住んでいた世界の料理になるスキルだ。」
「なんだ、まともではないか。何をそんなに悩んでいる。」
「俺、料理できないからあっても使い道が無いんだ。」
「なるほど、じっこの非才ってことか。」
「なんだ、その『じっこの非才』って?」
「持っていても意味のない才能や物という意味だ。」
ラヴェーラはこの世界の諺を教えてくれる。
「俺の世界では宝の持ち腐れって言っていた。」
「なるほど、なかなかいい表現だな。」
ラヴェーラは始めて俺に笑顔を見せた。




