無一文からの脱却、それとサングラス
「おい、この荷物めっちゃ重いんだけど、中に何が入っているんだ?」
街へ行く為に何も無い荒れた道を歩くが、如何せん三人分にしてはあまりにも荷物が重い。流石に気になって三人に聞く。
「めっちゃ、とはどういう意味だ?聞き慣れない単語だが、なにか特別な意味でもあるのか?」
ラヴェーラは俺の言葉に疑問を感じて質問してくる。
「ああ、とてもとかあり得ないくらい、とかみたいな意味で、俺がいた世界の若者言葉ってやつだ。それで、どうして荷物がこんなに重いんだ?替えの衣類や生活用品だけならそんなに重くはならないだろう?」
俺はラヴェーラの質問に答え、話を元に戻す。
「なんだ?レイのいた世界では、出歩くのに砥石すら持ち歩かないのか?いざ刃こぼれしたら身を守れないだろ。」
「俺の世界はそんな物騒じゃねぇよ!とりあえず、荷物が重い理由は砥石とかが理由でいいんだな?」
「そうだな。調理器具なんかも複数入っているから、それも理由だろう。」
「そうか。長旅だって言っていたな。なら、そういう物も入っていて当たり前か。済まなかった。」
この世界にはこの世界のあり方がある。特にフルール達の国は内外問わずの争いが絶えないらしい。そうなると、平和ぼけした俺の価値観が通用しないのは当たり前か。そんなことを考えていると、どうやら街に着いたらしい。
「ラヴェーラちゃん、ベルちゃん、それに救世主様、久しぶりの街だね!」
フルールははしゃぐ。
「それで、この世界の通貨ってどうなっているんだ?俺、自分の世界の通貨しか持っていないんだけど。」
俺はポケットの中に入れていた財布から日本円を見せる。
「見たことのない文字だな。少なくとも、その通貨では買い物も出来ないな。」
ラヴェーラは日本語の書体を使っている国が無いことを俺に話し、俺はあることを思いつく。
「なあ、買い物の前に聞きたいけど、この世界に古物取扱い商とか、特定文化財の収集家なんかはいないのか?」
「コブツトリアツカイショウというのは分からないが、文化財収集の方なら博物館に行くといいだろう。それがどうした?」
「なに、いいことをおもいついたのさ。」
俺はその真意を伏せつつフルール達に博物館に案内してもらう。
「本日は、イースティア都立博物館に御来館いただき、誠にありがとうございます。」
博物館に着いた俺達はガイドの案内を受けて、特殊文化財引き取り場に来ていた。
「早速だけど、こいつを買い取らないか?異世界の通貨だ。」
俺は各貨幣を一枚ずつ見せる。
「ふむ、異世界ですか。確かにこの星に存在しない言語体系をしているようですが、果たして事実でしょうか?」
買い取り担当の男は一万円札を手に取り顕微鏡のような機械にセットして、何かを確認し始める。
「成る程、これはとても価値のあるものですね。特殊な光を当てることで暗号が確認でき、そのほかにも見事な透かし彫り。更にはこの人物画にも記号が確認できます。これほどのものを造幣所で容易く増産していたとは、中々に興味深い。」
男は次に小銭を見始める。
「それにこの小銭も全て異なる金属、中には合金まで使われているものもありますね。これほど製鉄技術の発展していた国は我らの国以外では聞いたこともありません。確かに、異世界の通貨として認識してもよいでしょう。それで、こちらを是非とも引き取らせていただきたいのですが、これで如何でしょうか?」
男は電卓で5200万という数字を見せた。
「なあラヴェーラ、この金額ってどれくらいの価値だ?それから、この単位ってなんだ?」
金額の単位が解らない以上、簡単に返事は出せない。ジンバブエドルみたいに数字だけ大きくても価値が無いと無駄だからな。
「それの読み方はレニーと言います。金額としてはそうですね、普通の家を一軒買える程度の金額ですね。大体家一軒が一般の人の年収の18年分程です。」
「説明ありがとう。」
金額的には日本円と殆ど変わらないくらいか。だが、これは叩けばもっと出してくれるな。
「へぇ~、ここにあるこの貨幣、俺の故郷で造幣されているものが1セットまるまるある上に、この1セットしかこの世界に存在していないんだよ?それなのに、たかだか家一軒程度の金額でしか買い取る気がないんだ?それなら別の国で売っちゃおうかなぁ~。残念だなぁ。せっかく歴史的に価値のあるものを揃えているのに、異世界の貴重な文化財を入手するチャンスを捨てちゃうなんて。」
俺は敢えてオーバーリアクション気味に言う。
「…畏まりました。それではこの金額の4、いや5倍出しましょう!」
男は焦り声で言う。
「まあ、それなら俺としてもこの博物館に是非とも売りたいな。」
俺は速攻で取引を交わし、2億6000千万レニーがチャージされた、この星で何処でも利用出来る電子マネーカードを渡された。
「おっけー。ありがとさん。」
俺達は何食わぬ顔で博物館から出て行く。
「さて、まずはサングラス…じゃなくて、遮光眼鏡を買うか。」
俺は当初の目的を達成する為に動く。
「お兄ちゃん、さっきから視線をいろんな所に逸らしているけどどうしたの?」
ベルは何気なく聞いてくる。
「あのな、このスキルの致命的な欠陥の所為だ。」
「欠陥?」
「見る対象が女性って大雑把な所為で、赤ん坊から死にかけの婆さんまで効果の範囲に含まれているんだよ!」
そう、揺り籠から墓場まで、正にこの言葉があてはまるのだ。ある意味では地獄でしかない。
「確かに、それは嫌だな。」
「ラヴェーラ、解ってくれるのか?」
俺は始めてラヴェーラと意見が一致したと思い期待する。
「いや、レイの動きが完全に怪しい人にしか見えない。その上子供の裸まで見ているなんて、放置するわけにはいかない、そう思っただけだ。」
俺の抱いていた期待は一瞬で崩れる。
「酷いことを言うな!第一、俺にそういう趣味は無い!それと遮光眼鏡!」
「はいはい、遮光眼鏡ならマケットでいくらでも扱っている。好きなものを買え。」
なるほど、この星ではスーパーマーケットをマケットって言うのか。これくらい言語が似ていれば助かるんだけどな。とにかく、俺は丁度いい遮光眼鏡を購入し、外に出る。勿論、スキルの効果が適用されなくなり、目の前のフルール達はしっかりと服を着ていた。
「よかった、これで一安心できる。」
「私も、お前に肌を見られていないと思うと安心できた。」
「いちいち突っかかってくるな。そんな肋骨の浮き出た体に興味なんてねぇよ。」
「貴様、この刃の錆になりたいのか?」
「ソレは勘弁!」
よかった。これでなんとか親睦は深められそうだ。




