医療過誤の先に
俺達は町から離れた寂れたカジノ場に車で向かっていた。
「おい、何処に向かっているんだ?宿からどんどん離れているようだが。」
「話していなかったな。理由はこれだ。」
俺はポケットから一枚の紙切れを出してラヴェーラに渡す。
「なんだ、これは?」
「ああ、さっきの男が去り際に渡してきた。俺も、話くらいは聞いても損にはならないと思ってな。俺はスキルが使い物にならない。ならせめて、話くらいは公平に聞いて判断するくらいはしてもいいだろ?」
「そうだな。好きにしろ。」
「そうさせてもらう。」
俺はあのチンピラみたいな男に指定された場所に向けて車を走らせ、無事にカジノ場に到着して入場する。
「おぅ、随分遅い到着じゃん。」
入場すると、既にチンピラみたいな男は座って待っていた。
「あれからあの学生に色々言われて、時間がかかったんだ。それで、この紙に要件は書いてあったが、まずは名前くらいは教えてくれないか?」
「なんだ?もしかして救世主さんのスキルに関係あるの?」
「そうじゃなくて、これから話そうって言うのに名前を知らないのはどうだって話。」
「あれ?もしかして俺、自己紹介まだだった?」
「そうじゃなければ、わざわざ名前を教えろなんて言わないだろ?」
「そうか、それもそうだな。俺はゼンリン、五年前まで記者をしていた身だ。」
「それで、今は?」
「んぁ?今はこっちでの活動専門。」
ゼンリンはそう言ってインテリジェンスフォンを見せてくる。ブロガーか何かか?
「それで、こいつに書いてあったことについてだが。」
俺はさっきのメモを出す。
「バッ!出すな出すな。」
ゼンリンはメモをポケットに隠す。
「悪い。それで、この国で起きた大規模医療過誤って何だ?」
「早速本題か。救世主さんはせっかちだねぇ。ま、その方が話が早くて助かるけど。そうだな、あの行政局長ん所に行ったなら、十年前に新型医療設備の誤作動が起きたことは聞いているだろ?」
「確か、制作者に精神的負担が積もり続けた結果、失敗に終わって計画が頓挫したって話だろ?」
「そう、精神的負担が原因って事になっているが、あいつはそんな奴じゃない。あの自信過剰のあいつがそんな風に思い詰めるはずが無い。」
「あいつ?」
「その時の機材の制作者はダイス。俺の古くからの知り合いだ。」
ゼンリンは俺に一枚の写真を見せる。なんかドヤ顔していてむかつくな。
「十年前は大手医療機器会社、ロストミレニアムの社長兼専属医療学者だった。そして…」
ゼンリンは別の写真を見せてくる。そこには派手な服装をしつつ、笑顔のダイスと、同じく笑顔でダイスと握手するナガレがいた。
「それが今から七年前、国民総賭博師法制定時に提携企業のダラーサウザンドの社長と握手している今の行政局長さんだ。」
「これが、証拠だって言うのか?だったら、あまりにも証拠が薄くないか?」
「これだけならな。それから二年間かけてダラーサウザンドとの企業癒着を調べ上げた。結果は真っ黒。しかも、賭博場の利益は国家で買い取った後にダラーサウザンドに回されて、あの時の医療機器の再製造費になっていることを見つけて記事にした。そうしたら翌日には俺のいた会社は破産宣告。俺にはナガレ局長とミラージュ社長の二人から個人的な呼び出しを受けた。」
「ん?あれだけ言っておいてロストミレニアムの社長と別人だったのか?」
「あれ、言っていなかった?あいつ、今はミラージュって名前の別人として生きているの。経歴不明の凄腕社長だってさ。そんな奴を普通は提携会社に選ばないだろ!」
ゼンリンは俺の疑問に笑いながら答える。それもそうだ。普通なら何処の誰とも分からない男が運営している会社を捜査するならともかく、政府が見逃すはずが無い。
「んで、呼び出された俺は二人からあることを条件に生かしておいてもらえる事になった。」
「条件?」
「それは、不定期に不特定の賭博場に現れ、俺に勝てたら返還金を本来の倍以上にする特別な敵役として、国家の平和に従事することだ。」
「成る程、レアキャラ扱いか。」
「れあきゃら?なんだそれ?」
「ゲームで出てくる珍しい敵で、倒すと他の敵よりいいものが貰えるって感じの。」
「ああ、救世主さんの世界ではそう言うんだ。こっちではレリーフって言われている。」
「そうだったな。悪い悪い。で、お前はレリーフ扱いを受けても生き残りたかったのか。」
「そうだ。生きていれば、真実にたどり着ける。あの日、俺の弟が巻き込まれたあの事故の真実に。」
これ、もしかして結構ヤバい案件?
「大体の筋は分かった。とりあえず、今日は帰らせてもらう。ここの国民がどう思っているか、いろいろ聞いてから、また話は聞いてやる。ラヴェーラ、今日は帰るぞ。」
俺達は早々にカジノ場から出て行った。




