予想外の来客
「…入るわよ。」
部屋に入ってきたのはバンだった。
「意外な来客だな。何の用だ?」
「一応、礼を言おうと思って…」
「礼?何のことについてだ?俺には見当もつかないが。」
「グラッド、私の過去のことを使って会議で優位に立とうとしていたって聞いたわ。」
「間違ってはいないな。」
「その時にラフワール様と一緒にそれを止めたって、ラフワール様から聞いたわ。だから、お礼くらい、言わないとって…」
「そうか。」
今までバンは俯きながらたどたどしく喋っていたが、いきなり前を向く。
「別に、あんたが私のことを庇ってくれたことなんてどうでもいいわ!私はただ、ラフワール様の援護をして有り難うって言いたかっただけよ!そう、他に他意なんて無いんだから!」
「はいはい、そうですか。それで、そんなことを言うためだけに、わざわざここまで来たのか?だったら、随分暇な奴だな。」
「そんなわけないでしょ!一応、ラフワール様から何かお礼をしてきなさいって言われているのよ!だから、私に出来る範囲なら何かお礼してあげるって話。これはラフワール様からするように言われた事だから、あんたに好意があるとか勘違いしないでちょうだい!」
「別にそんなこと思っていないっての。それに、俺はラフワールやバンの味方をしたかったわけじゃない。グラッドが関係ないことで話し合いの場を滅茶苦茶にしようとしていたのが気に食わなかっただけで、それが偶然にもラフワールと同意見だったってだけのことだ。」
「それでも、ラフワール様の意見に賛同したことは確かな事実よ。私がする礼はラフワール様からの礼と同義と受け取ってもらっていいわ。そういうこと。」
「だったら最初からラフワールの遣いで来たって言えばいいだけだろ。回りくどいな。それで、結局はラフワールからの礼って事だろ?だったら、会食後に二人きりで話す時間がほしいくらいだな。」
「ラフワール様と話しですって!?何かやましいことをするんじゃないでしょうね!」
「当たり前だ!俺は明日の夕方にはウェステリアに向かうことになっているんだ。それまでに今後サンレイドで発足する連合政府の調整について、ラフワールと最後の話がしたいんだ。バンだって、あの王様に政策を好き勝手弄られるのは嫌だろう?だから、上手くラフワールが主導で国家を運用できる方法について、話しがしたいんだ。」
「そういうことなら、ラフワール様は礼を抜きでするはずよ。」
「そうは言っても、俺自身特にあれをしてもらいたいとか、これがほしいとか無いからな。サンレイドを統一して少し様子見したら、次の国に行かないといけないからな。そんなに荷物を持てないし、移動手段も限られているからな。」
「ふーん…それなら、あんたに自動車を与えることが礼って事でいいかしら?それなら、国を移動するのも楽でしょう?」
「いやいや、俺免許持っていないから!」
「免許?あんたの世界では自動車一つに免許なんて必要なの?」
「ああ、俺の世界では色々あってな。免許制にしないといけない理由がいくつもあった。先天性の脳疾患を持つ人が運転中に事故を起こした際の責任能力の問題が一つ。それを利用して意図的に事故を起こす奴に対しての対策。特殊な重機の運転による怪我の対策もあるし、速度違反者を取り締まる為にも必要だった。だから、ラフワールがあんな速度を出していた時は驚いたよ。」
「意図的に事故を起こすって、それで人が死んだらどうするのよ!」
「だ~か~ら、そういう奴はそもそも将来がある子供を殺すために事故を起こすんだよ。一時酷かったぞ。連日連夜脳疾患を持つって診断書を持っている奴が次々に学生の帰り道に自動車で突撃するって事故が報道されて、騒がれていたよ。」
「それ、事故じゃなくて計画殺人でしょ?」
「はっはっは、俺の世界じゃな、障害者って言葉が免罪符みたいに扱われて、残念な事故って扱いにされるんだよ。その所為で一部の奴は障害者に対して差別的な発言をする奴もいる。本当に悪い奴は障害者じゃなくて、障害者って弱者の名前を利用して悪事を働く屑だっていうのにな。」
「随分腐っているのね。」
「そうだな。腐りきった世界の出身だから、この世界のいざこざにも何とも思えないのかもな。」
「…この話はこれくらいで終わらせましょう。気分が悪いわ。それじゃあ、あんたの旅に向いていそうな自動車を一台、手配しておくわ。じゃあね。」
「おう、ありがとよ。」
バンはそのまま出て行ってしまう。まあ、人間がどうしようもないのは何処の世界も同じだって解ってくれただろう。そうこうしていると、そろそろ会食の時間になるから、俺は身支度を調えてラフワールの用意してくれた客間に向かった。
「それでは改めて、今日は遙々とサーティアスに来てくれて感謝するわ、救世主レイ。この食事は来訪してくれたことに対する細やかな感謝の印よ。遠慮せずに頂いてくれると嬉しいわ。」
そこには、落ち着いたネイビーブルーのドレスを着たラフワールがいた。




