ロンリー覇王様
「まったく、遅いじゃない。私もそんなに国を空けていられないのよ?」
早朝、既にラフワールがイースティアの国境壁の前で待っていた。
「仕方ないだろう。久しぶりにフルール達の相手をしてやっていたんだ。」
「ふぅん…女の子達の相手、夜遅くまで、怠そうな体…貴方もなかなかやるわねぇ。」
ラフワールはニヤニヤしながら俺を見る。
「べっ、別にそういうんじゃねぇよ!ベルのおしゃべりは一度火がついたら止まらないし、ラヴェーラは相変わらず堅苦しいことしか言わないし、フルールは頭ん中がお花畑で手を焼いてたんだ。」
そう、あれからベルは俺が拉致られてからのことをずっと話していて、それから俺のいた世界の童話に興味を持って聞いてきたし、ラヴェーラは俺が取るべき救世主の立ち居振る舞いをずっと押しつけてくるし、フルールのメルヘンチックな話題にうなずき続けないといけなくて大変だった。
「そう。ならそういうことにしておくわ。それより早く乗りなさい。時間が押しているわ。」
散々言いたい放題言ってそれかよ。そう思いつつも、俺はラフワールの用意した車に乗る。
「さ、振り切るから体をぶつけないでちょうだいね。」
今日は護衛や付き添いの類は居ないらしく、ラフワールは運転席に座り、フルスピードで車を走らせる。メーターを見る限り、時速は180キロくらいは出ている。流石にシートベルトがあっても恐いから、俺は扉にしがみつく。
「ふふふっ、そんなに恐いかしら?」
「充分恐えよ!俺の世界ではこの速度の半分出せる場所だって限られた区間だけだったんだ!事故とか恐くないのか!」
「大丈夫よ。通るための道は予め瓦礫の除去をしておいたもの。それに、この速度なら2時間で着くわ。貴方は明日の夜にはウェステリアに行くのでしょう?それなら、なるべく早くサーティアスに着いて、話をする必要があるわ。」
「だったら、ここで話すことも出来るんじゃないのか?」
「あら、女の子と二人きりでお話がしたいなんて、なかなかね。」
「俺だって、学生の頃は普通に女子と会話していたし、それくらいはなんとも思っていないだけだ。それで、ラフワールはフルールとの一騎打ちに敗れたんだったよな。」
「ええ、そうよ。滑稽でしょう?あれだけ覇王として国を束ねるって豪語していた人が、一国の結束にあっさりと負けたのよ。そう考えると、私の力なんて、私の覇道なんて所詮その程度だったのよね。」
ラフワールの声のトーンが落ちる。やっぱり、無理していつもの雰囲気を出していただけか。
「俺はそうは思わないな。ラフワールは強いし、国民が忠誠を誓えるくらい信頼されているんだろう。もし本当に覇道が途絶えるほどなら、フルールとの戦いに負けた時点で覇王の座から引きずり下ろされているんじゃないのか。それに、フルール達が勝てたのはラヴェーラ達の協力があったからだろ?」
「そうよ。それでも覇王たる者、一国を相手に一人で勝てなければ意味が無いのよ。」
「それは違うんじゃないかな。」
「どういう意味よ!」
「どれだけ強くなっても、一人じゃ戦えないし、その力は何処にも届かない。フルール達イースティアはそれに気付いていたから勝てたんじゃないのか?ラヴェーラも言っていたんだろ?自分達はフルールの武器だって。」
「ええ。」
「正直、サンレイドを纏めるなら、政府はサーティアスの政治家とウェステリアの政治家に任せたいんだ。イースティアのやり方は問題だらけだし、ウェステリアの王政政治も名前ばかりで実態は臣下に無理をさせているだけだ。それなら、ラフワールの行動力と発言力で外交を対策する方がサンレイドの為になると思っている。それに、今更あの王様が政治を行うなんて言ったら国内は大騒動になるだろう。」
「それ、本当に上手くいくのかしら?」
「上手くいくかいかないかじゃない。やらないといけないんだ。こんなでも、女神に頼まれて救世主をやっているんだから、最低限の仕事はしないといけないだろ?」
「そうね。こんなのでも、一応は救世主としての自覚はあったのね。」
「こんなのって、じゃあ俺のことをどんな風に思っていたんだよ!」
「そうね、頭ではなくて下の頭で動くエテウスって所かしら。」
エテウスって、猿のことじゃねえか!誰が下半身で動く猿だよ!
「おいおい、それじゃあまるで思春期の男子学生みたいじゃないか。」
「まるでとか、みたいとかでは無いわ。だって本当にそう思っているのだもの。」
「失礼な奴だな。」
「あら、最初に女の裸が見られるスキルを求めておいて、下半身で物事を考えていないって言えるのかしら?」
やばい。流石にそれを言われると言い返しようがない。こんなことになるなら、フルールの胸を見たいなんて思わなければ良かった。
「後悔、先に立たずと言ったところか…」
「何かしら、その言葉?」
「俺の世界の諺…言い回しの一つで、後悔は後でするものだから後悔であって、やることの前に思いつくものではないって意味。」
「そうなのね。急に立たないって言うからてっきり不全なのかと思ったわ。」
「人にエテウスだの何だの言っておきながら、ラフワールも大概だろ。」
「そうよ、悪い?」
ラフワールは弁解する気を見せるどころか、開き直る。この強さが、覇王として国民から信頼されている証なのかもしれない。結局、道中はラフワールの独壇場となり、俺は話を合わせるしか出来なかった。




