前世 その五 後編 改稿
加筆しました。
児童虐待の描写があります。
決勝当日、母親からのリクエストで愛の歌を歌った。
愛なんて知らない。私が知っているのはバラバラになった家族。なのに、なんで歌わなきゃなんないんだろう。そんな気持ちで歌ってた。
審査員たちからも高い評価は貰ったが、結果は二位で終わった。審査員からの言葉で「厳しい事を言うようだけど、あなたの歌には人を愛するって言う心がないのよねぇ」
当たり前だ。だって、私は愛なんて知らない。
その後、舞台裏で私は母親に拳で殴られた。
「何でちゃんと歌えないの!」
何度も何度も殴られた。
「私に恥をかかせてくれたわね!なんて子なの!」
殴られて体ごとぶっ飛んだ小さな私の体。
床に転がった私の体に容赦なく脚でどかどかと蹴りを入れる母親を見ていた人がいた。
「な、何してるんだ!!」
その人はこの番組のアシスタント。彼は慌てて私を母親から引き離すと番組プロデューサーを呼んでくれた。
殴られて口の中は切れてたし、動く度にあばらが軋んでいたけど多分折れてないと思う。
一応大事を取って病院に連れて行かれた。
診察を受ける時に周りの反応を見れば、案の定みんな固まっていた。
そりゃそうだろうな…。
私の体、特に背中には白い所がないってほどにミミズ腫れが走ってたから。
母親は私を叩く時にはいつも自分が児童虐待で捕まらないようにと気をつけていた。どのくらいかって言うと小学生になると体育で水着に着替えるけど、水着でも見えないようなところだったから。
そこまで気をつけるくらいなら叩くなって言うんだ。
それから医師の判断で私は暫く入院と言う事で母親と離された。
この入院の間にも仕事のオファーがいくつか来ていた。だが、いつもなら金の匂いを嗅ぎわけてしゃしゃり出てくるあの人は私が退院しても私の前に現れる事はなかった。
捨てられたか。
マジにそう思った。
後日私が知らされたのは、あの決勝の日に母親がやった私への暴力で、あの人は児童虐待の現行犯として捕まったのだと。
周りは私の事を心配している風貌だったけど、あれは違う。私の反応を見て楽しんでいるような目だったから。
警察はあの母親の元夫を探したが、彼らはすでに海外へと引っ越してしまっていたため、連絡は取れなかった。
本当に海外に行っていたのかさえも、疑問だと思う。
そんな時……。
「ねえ、君、君はどうしたい? 施設に行くかい? それとも僕の養女になるかい?」
「え?」
何もかもを失った私に手を差し伸べてくれたのは、後に私の養父であり事務所社長の柴門寺さん。
この時、私はこの人なら信じられると感じ、迷わずこの人の手をとった。
その人を見上げた時、思わず声が出た。
「あ、あなたは?」
天を覆うくらいに背が高くて、私と話す時にはちゃんと私の目線まで降りてくれる優しい人。その人の顔にはとても親しみを感じた、少したれ目で左に泣きほくろ。
「僕?僕はね君のお義父さんになるんだ。君の名前を考えてあげよう」
「え?なまえって、おなまえちゃんとあるよー。あたしのなまえはねー」
ー君が生まれ変われる名前をあげるよ。
そう言われて社長に付けてもらった私の名前は「サイ」
「サイ、今日もガンガン決めて行ってくれよ!」
「はぁい!」
元気に拳を突き出して、行って来るよと笑顔で応えれば、社長も笑ってくれる。
ちょっとたれ目の色っぽい泣きぼくろで結構良い年したおじさんだけど、社長が若い頃何でもダブルミリオンヒットさせたのは今でも伝説にまでなっているとか。(私は知らないけど)
社長曰く『自分で言うのもなんだが、僕ってね結構有名な歌手だったんだよ〜』。
社長に引き取られたあの日から、早くも十年の年月が経った。
料理は前の人生で嫌と言うほど身につけていたから、そんじょそこらの女よりも上手と自負してる。
そんな私のささやかな幸せに黒い影が忍び寄っていた。
「サイ、友達は選んだ方がいい。君の今の友達は君の事を利用しているだけだよ。もしそうじゃないと思うんなら、待ち合わせ時間よりも早く行ってみれば良い。もちろん変装して。そうしたらサイが言う親友って子達の本当の姿が見えるよ」
金と言うものは人の人生を狂わせる。
昔なじみの友人とは今でも仲が良かったが、あることを切っ掛けに疎遠になった。
いつもと同じ待ち合わせの場所で友人達と遊ぶ事になっていたが、この日は仕事が早く終わっていつもよりも半時間ほど早く待ち合わせの場所に着いた。
この日はドラマの収録でそのまま来ちまったからか、私がすぐ側にいる事にまだ二人は気がつかない様子、なら脅かしてやろうかなんてちょっといたずら心が芽生えていた。
『サイって、単純よね。私らがあんな子の友人な訳ないじゃん。有名人の知り合いがいるって言えば、合コンとかでモテルし、話題性にも富むから一緒にいてやっているだけなのに。何よこの雑誌の記事。「私の親友は昔から私の事を良く分かってくれています」有名人じゃなかったら、あんな子私達の友達なんてありえないわよ。ウザイし。生意気。まあ、食事とか旅行とか毎回おごってくれるからその辺は楽だけどね』
え…。
『おごってくれるって、それってさー私達がただ単にその時たまたまお金がなかったり、財布を忘れてたりしてたからじゃん。でも普通気づくよね。』
財布を忘れたって言ってたのはウソだったの?
『あ…もうサイが来る時間よね。早く行くとこ決めとかないと。今日もあの子が出してくれるんだから、家族じゃ絶対に行けないとこにしないとね。財布はばっちし忘れて来たし。今日もおごってもらうんだから』
なにこれ…。
『なにそれ〜あんたサイを利用しているだけじゃん』
利用って、私はATMなんかじゃないわ。
『それしか、あの子の良いとこってないんだからしょうがないでしょ』
!!
それを聞いた私は立ち上がると彼女達の前に現れた。
『『サ、サイ…は、早かったのね』』
お義父さんが言っていた事は本当だった。私は上辺ばかり見てて何にも見てなかった。
怒りと悲しみでキツく握りしめた拳がさっきからプルプルと震えて来る。
鼓動も百メートルを全力疾走したみたいに早くなってる。
胸が痛い。
「わ私、あんた達と友達でも何でもないから。今まで私から借りてたお金はきちんと弁護士を通して親御さんに伝えておくよ。じゃあね」
『『ま、待ちなさいよ!!』』
今回のドラマでは男装での役だったからか、友人達は目の前に立つサイに目を奪われた。
「あんた達、親友の顔をしておいて人を利用してたんだ。なら、もう十分利用したよね。じゃあ、さよなら」と手を振れば彼女達は金切り声をあげてきた。
『なんですって!!あんたを連れて行かないと、今日のクラブには入れないって言われてるんだからね!絶対一緒に来てもらうわよ!』
『客寄せパンダなんだから、来なさいよ!あんたに拒否権はないのよ!』
何好き勝手な事言ってくれちゃってんのよ。
頭イカれてるんじゃないの?
どうやら彼女達はクラブに私を連れてくから中に入れろと、クラブの主催者側と交渉していたらしい。なんだよ。これ、私が望んだのはこんな人生なんかじゃないのに。
『違約金とられちゃうのよ!親友を助けると思って』
いきなり拝まれたけど、そんなの私には関係ない。それにそもそもそのクラブってとこが私の事務所を通して、仕事を申し込めば良い話だ。
「嫌よ。それはビジネスよね。だったら、私はただ働きになるって寸法で、お金は全てあなた達二人が手にするってことでしょ?だったら、事務所を通してちょうだい」
二人からは悲鳴のような声があがった。
その後、ドスの利いた声で私を罵るところを周りの人が携帯でとっていた。
私もその会話を自分の携帯で録音していたから、もし今後二人が何かいちゃもんを付けて来たらなら、出る所まで出てやるとそう思った。
お金と言うものは人の人生を狂わせる。
そうだね。お義父さん、あなたの言う通りだったよ。
「お帰り」
「ただいま」
いつものように明るく笑顔で『ただいま』って言えたのに。お義父さんは全てを分かってた。
「よく頑張ったな。お義父さんは本当にサイを誇りに思っているよ」
泣きそうな私を両手を広げて包むように抱きしめてくれる、私の義父さん。
義父さんだけが私を一番理解してくれてた。
涙をこらえて、何度も頷いた。
「義父さんが言ってた通りだった」
「そうかい。辛かったよな、哀しかったな。でもよく頑張ったぞサイ」
「うぅううううう…」
私はこの優しい胸の中でしか泣けなくなった。
あれから彼女達からの文句の電話が嵐のように来るようになった。なんでも合コンや勤め先で私の親友だと言って回っていたらしく、今度紹介すると言って全く紹介出来ずウソツキ呼ばわりされているとかそれも全て私のせいだと言っていた。
私をクラブに連れて行くはずだったあの日、やはり彼女達は私に仕事を刺せようとしていたことや、クラブがイベントとして大々的に宣伝していたことをキャンセルさせる事になって、二人はクラブ側から違約金を請求されていると言う事も事務所の調べで判明した。
お義父さんは、弁護士を使ってあの親友だった二人に《もう二度とサイに近づかない》と言う誓書をかかせた。
もちろんクラブ側は私にも違約金を請求して来たけど、事務所社長であるお義父さんが全て対応してくれて、反対にクラブ側から慰謝料をとった。
携帯も新しく買い替え、ドラマの仕事へと向かった。
『カーット!!良かったよサイちゃん』
「ありがとうございます。お疲れさまです」
カットの声で一息ついた時、見物人達の中に私の元親友達の姿がいた。
笑顔でスルーするなか、彼女達は私に向かって売女だの、毒婦だのとあることないことを叫び、警備員に押さえられた。
ドラマは予定通り放送され、視聴率もまずまずだった。なのに彼女達の私への中傷だけが一人歩きをし、私はこのドラマ終了後は芸能界から干されてしまった。
その後、あの二人の元親友だと言う彼女達は、事務所の弁護士から名誉毀損で起訴された。
今まで自分から生を投げ出した事などなかったが、今私はビルの屋上に立っている。
家族は私のせいでバラバラとなり、母親からあんたが私達の生活を壊したとまで言われた。
母親は精神的に参り、私の顔を見るだけで四肢に震えが来ると言う。母方の祖父からはもう二度と母親の前に顔を出すなとまで言われてしまった。
私だって会いたくないわ。
何がいけなかったんだろう。
ただ、私は家族の幸せを考えて、少しでも生活を潤わせたかっただけなのに。
でも私には飛び降りる勇気などなかった。
なら、惨めでもいいから這い上がってやる。そう決意した私は事務所社長にどんな仕事でもやるから仕事を下さいと土下座した。
社長もまさか私がここまでやるとは思っていなかったらしく、暫し呆然と見てた。
社長から初心に戻れと言われ、新人の付き人として働く事になった。
それで私自身、自分が今までどれだけ傍若無人に振る舞っていたかを知り、今までの自分の行いを恥じた。
私の今後に頭を悩ませていた社長から、男としてだったら売れると言われ、男装する事になった。前の人生では男だったから普通にそれは可能だった。
社長の読みは当たった。私の人気は飛ぶ鳥を落とすかの勢いになり、この事務所の稼ぎ頭となった。
ようやく自分の居場所を見つけた私は、それこそ寝る間も惜しむほど仕事に没頭した。ドラマ、映画、CM、バラエティーにサイン会などどんどん仕事を詰めて行った。周りからは自制した方が良いとも言われてたけど、私は「この仕事が好きだから」の一言で周りを黙らせた。
そんな無茶な量の仕事に体は到底着いて行かず、ある日私は仕事の最中に倒れてしまった。
気がついたら、病院の中。
神妙な面持ちの社長から自分が病魔に冒されている事を告げられる。
「何だよ。そんな冗談、義父さんでも許さないよ」
「本当だ。後半年と言われてる」
私の病気は病状が進み過ぎて、医者から手の施し用がないと言われた。
社長からはすまないと言われたが私はそれでも良かった。
この人の役に立てたのだから。
「気にしないでください。私の稼いだお金は私のように病気で苦しむ人達やその家族への支援に使ってください」
社長に出来るだけ自分と同じ病気の人に希望を与えたいからと自ら、広告塔になることを決意し、頻繁にTVに出るようになった。今まで疎遠だった家族が、私の病気を境期に戻って来てくれた。
それがTVの企画だった事は、私だけが知らなかった。
「サイナ…あんたこんなに細くなって…」
嘗て私や父、兄を叩いていた巨大な母親の恐ろしい手は、その面影もないほどに小さくなっていた。
「兄さん…」「お父さん…」「お母さん」
家族が私のために泣いてくれてた。それだけで私は彼らを許そうと思った。
だけど、私はまた彼らに裏切られた。
家族が私のところに来たのがお金目当てだったと言う事を知った時は哀しかった。
と同時に、やっぱりねと思った。
自分たちに私の遺産が来る事はないと言うことを知った両親や兄は無情にも私の死を見届ける事なく病室を後にした。
私の死を見届けてくれたのは、たれ目で色っぽい泣きぼくろが見えたあの人だった。
ああやっぱり自分の最後をみとってくれるのは社長なんだと気づいた。今度生まれ変われるなら、平凡でも良い、人に愛して愛されたいと願った。
そして願うならば、私を私だけを愛してくれるたれ目で色っぽい泣きぼくろがあるあの人と結ばれますように。
そして、今回六度目の転生である。




