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六度目の正直  作者: さいころころり
4/7

前世 その四

 四度目の転生では前の時に願った通り、今回は男として生をうけた。

しかも、自由を愛する船乗り!!海が俺を呼んでるぜ!!

くぅ〜この言葉一度言ってみたかったんだよな。

「おい、バカ息子。何やってんだぁ?男のくせに鏡なんかと話やがって。頭大丈夫か?」

ぐしゃぐしゃと折角セットした髪も親父の大きな手で、雀の巣になっちまったじゃねーかよ。

「あ−!!折角セットしたのに何すんだよこのくそ親父!」

仕返しに親父のシャツに新しく買ったコロンを振ってやった。親父は気づいてないみたいだな。鼻歌まで歌ってやがる。知ってんだぜ、親父が乗ってる船が港に戻って来る度に、親父が女と部屋にしけこむ事ぐらい。

これで親父は酒場の女とヨロシク出来ないな。ふふふふ。

 

 俺の名はサイ。名字はない。何て言ったって俺たちは一般庶民だかんな。この世界で名字があるのはお貴族様か、王族くらいだろうよ。

俺の名が女みたいな名前ってことは分かってるよ。


「なあ、親父。なんで俺にサイって女みてーな名前をつけたんだよ。お陰で隣のティミーおばさんから女だってずっと思われてたんだからな!」

「ありゃ〜知っちまったか」

なーにが知っちまったか〜だよ。我が親父ながら呆れて物も言えねえ。ティミーおばさんの早とちりはいつものことだけどよ。昨日のあれはないだろう、あれは…。

昨日なんて最悪だったんだからな。親父の船が二ヶ月ぶりに港に帰って来たって聞いたから、急いで親父を迎えに行こうってしてた時にティミーおばさんから見合い話と女の子の必需品だからとかなんとか言われて、生理用品とか貰った時にはぶっ倒れるかって思ったよ。

「ティミーおばさん…。あの…僕、実は男なんですけど」

「え?」

おーい。その後に、何で俺の股間を触るんだよ。

普通は胸だろうが!

「あ、あら〜ごめんなさいね。サイちゃんって名前だし、顔も可愛いし髪も長いからつい女の子だって思ってたわ〜。でも…なんでサイってつけたんだろうね。サイってね…」


そう、サイって言うのは、西方の国の言葉で月の船と言う意味で女を象徴するんだって隣の家のおばさんに聞いた時は、俺の人生詰んだ。お先真っ暗ってマジに思ったね。なーんで女の名前を息子の俺に付けるんだよ。くそ親父!!


 昔、親父になんでこんな女みたいな名前を俺に付けたんだと文句を言った事が遭った。普通この名前は女に付けるらしいが、親父が生まれた俺を手にした時、頭の中で声が聞こえたんだ。天からの啓示が来たんだと。「その子は『サイ』と名付けなさい」それで「コイツの名はサイに決めた」とさ。


それは天の啓示なんかじゃねー。思いつきって言うんだよ!

いいよなー自分は女なんて選り取りみどりだからよ。


 そう、俺の親父は今も昔も女にモテる。本人そっちのけで、女達がキャットファイトすることはいつものことだ。

そのせいでお袋は親父との喧嘩が絶えず、お袋はある日俺と親父を置いて出て行っちまった。

本当はお袋は俺を連れて行きたかったらしいんだが、親父がそれを拒んだって言うのが真実だ。


その後は、もう…勘弁して暮れって感じだ。何にしろ男だけしか居ねーし。

やっぱ家の事をするのは、暇な俺の仕事になった。当然だよな。

女ホイホイなんだから、世話をしてくれる女を引っ掛けてくれれば良いものを。

みんな蜂みたいな体の女ばかりだから、そう言うのに限ってベッドは暖めるけど、家の中を明るくするようなやつなんているわけないのさ。

全く、女を見る目ねーよな。

 船乗りと言えば、結構強面で入道雲みたいにデカクてゴツイ奴らばかり想像されちまうが、親父は違った。男のくせに細面の顔でたれ目とくりゃ、女が寄って来る。んで泣きぼくろがあるとちろりと流し目を送っただけで、女はすぐに親父の虜になっちまう。だから、お袋に捨てられるんだよ。

まあ、親父がモテルのは顔だけじゃねえ、体もすごいんだ。

どうって…細い割には筋肉がついていて、重たい荷物も軽々と持ち上げる。

俺の小さな頃からの目標は親父を超える事だ。

この街の子供なら、一度は船乗りに憧れる。もちろん俺の親父も船乗りだ。俺も親父と同じ船乗りになって、一緒に世界中の海と世界中の港を渡り歩くのが夢なんだ。

それにこの国の成人は十三才。後一ヶ月で俺は成人を迎える!これで親父にも楽をさせれるぜ。


「よう!坊主!オメーもそろそろ大人の仲間入りだな。親父と一緒に俺の船に乗るか?」

「船長!!サイはまだ…」

俺は親父の声を遮ると喜び勇んで船長の申し出を受けた。

「よ、よろしく、お、お、お、お願いします!」

「オメーおが多いぞ」

緊張して滑舌悪すぎるダロって突っ込んで来たこの髭モジャ親父こと、ディーン船長は親父とは違った意味の男前だった。

俺の親父は憂い顔でたれ目の涙ボクロで巷の女共の心臓(ハート)を鷲掴みしていたけど、船長の場合は一言で言って熊だ。

がはははははと豪快に笑う船長を親父が難しい顔で見てたなんて、まだくちばしの青いひよっこだった俺は親父がどんな思いでいたかなんて知りもしなかった。

ある日、俺たちが乗る船が航海中、海賊船に出くわしちまった。

「サイ!お前は隠れてろ!」

日頃は滅多に俺のことなど構わない親父が必死の形相で俺に向かって怒鳴って来た。

俺は知らなかったんだ。まさか俺たちの船があの船長が海賊から逃げるための囮として使われていたなんてな。 

だからか…この船にはヤツはいない…て言うか、最初から船長(あの熊)は乗って来なかった。

おかしいとは思っていたんだ。何で商船なのに二つの船に荷を分けてるんだって。

しかも、積み荷を解いてみて見れば、ガラクタ物ばかり。

謀られたと思った時には遅かった。

親父の『あの糞野郎…』


「親父!俺も戦う!」

「サイ!オメーは引っ込んでろ!」

「俺は大丈夫だ!」


 今までの転生の記憶もあるからか、迷わず剣を取ると戦った。

空気までもがビリビリと俺たちの皮膚に突き刺さる。

双刀使いがいるなんて聞いてないぞと言う海賊達の声に、俺は血飛沫を浴びながらもニヤリと微笑んでいた。

ーこいつは死神だ…。

誰かが言った。俺は雄叫びをあげながらもどんどん敵を斬って行く。

肉を裂き、骨を砕く音を剣を通じて感じた。

『ああ…あの時と同じだ…』

俺は心の中で狂喜乱舞していた。血が騒ぐ…。

気がついたら俺と親父以外、船の乗組員は全員海賊に殺されてた。もちろん海賊達の死体もその辺に転がっている。


「親父、背中は任せたぜ」

「サイ…無茶すんなよな」


口角を片方だけ器用にあげる親父に応えるように、俺も右の眉を少しあげた。

金属音が鳴り響くなか、俺と親父は戦い続けた。

ぐぇぇえ。

ひきがえるを潰したような悲鳴があがる。これで何人斬ったのか、それすらも分からない。腕を斬られただけでも大の男でも転げ回るほどの痛みだと言うのに、こいつらは余程頑丈に出来てるのか、血だらけになってでも向かって来る。


「きりがねーな」


俺が握っていた二本の刀も血まみれで刃こぼれが酷い。

これじゃあ、もう斬れないな。足下には赤い花びらが散らばるように鮮血が所かしこにある。まだ親父も戦っている。なら、俺は死んだ仲間の体に突き刺さっていた剣を抜き取ると走り出した。

足下の血溜まりに足を取られ、体制を崩した。今がチャンスとばかりに斬り込んで来る海賊達。その前に立ちはだかったのは、いつもけんかばかりしていた親父だった。


「親父!!」

「サ…イ…。おめーは生、き…ろ…」


目の前で親父を串刺しにされ、俺は戦意を喪失した。カランカランと俺の両の手から剣が落ちると床に小さな赤い飛沫を飛ばして転がった。もう動かない親父の元へと床に這いつくばるように行けば、後ろから前から革靴で蹴られた。

それでも俺は眼を半分に開いたままのたれ目親父に縋り付き、涙した。親父の瞼を落とした。

俺の涙は親父の泣きボクロへと落ちた。


「おいスミス、終わったのか?」

「へい、ギル船長終わりやしたぜ」


 ギル船長と呼ばれた男が船長室から出てきた。物語とかによくある羽の生えた帽子は被ってなかったが、一人だけ身なりは良い。


「どれだけ失った?」

「生き残ったのは、十人。怪我して使い物にならないのを入れると十八人っす」


 広い甲板の上にはどこもかしこも血の海で脚の踏み場が無い。ところどころにぼろぞうきんのように動かなくなった海賊達の亡骸と親父の仲間の亡骸が転がっている。


「…三十人失ったか…そいつは?」


 親父の亡骸に縋り付いていた俺を引きはがしたやつらは、仲間の恨みだと言って俺をぼこぼこに蹴り上げた。


海賊から仲間になるかそれとも殺されたいかと言われ、俺は海賊になる事にした。ここで殺されては俺を護ってくれた親父のためにも、そう思って俺は生き恥をさらす事にした。

その後は酷かった。死体を切り刻む役をさせられ、それをサメがうようよいる海域にばらまけと言われ、一人でそれをやった。親父の体を刻んだ時はもうすでに俺は人として終わっていると感じた。それが海賊になるための儀式だと後で知らされ、俺は今に至る。


「面舵一杯!」

「「「「「「面舵一杯〜!!」」」」」」


 俺の叫び声に船員たちが声を揃えてく。キャプテンはしらふのときは面倒良い男だが、一旦酒が入ると使い物にならない。


「船長、もう酒は止めろよ。体に触る」

「うっせー。俺に指図すんな!女みたいな名前のくせに、女みたいな事言うな」

「また、女に振られたんっすか」

「うっせー」


酒を止めるように再三俺はキャプテンに進言していたが、聞き入れられる事はなかった。

そんな時、ギルがどこからか上手い情報を仕入れて来た。それは俺たちの海域に商船が来る情報を手に入れた。


 あまりにも旨すぎる話だ。俺は胡散臭いと睨んだ。だって考えても見ろよ。

なんで、海賊のギルに商船しかも、王家御用達の荷物を運んだ船のルートをおしえるんだ?

これは何か裏があるに違いない。


「ギル!それは絶対罠だ」

「何でそう言いきれる」

「じゃあ、あんたは考えた事あるのかよ。王家御用達の商品を乗せた商船のルートをわざわざ襲ってくださいとばかりに、海賊に教えるバカがどこにいるんだ!悪い事は言わね、その船には決して手を出すな」


なのに…なんだよこれ。

あれほど忠告したのに、俺が船を降りて港で物質を調達している間に俺と俺の意見を聞いた仲間達を置いてキャプテンは船を出しちまった。


 その三日後、俺たちは王都にある処刑場でキャプテン達の最後を見届ける事になる。

俺たちはキャプテン達の仇を取るため、仲間を集めた。

比較的小さな商船を遅い、船や荷物を奪い力を付けて行った。

そうして俺たちの名は色々な国々の王侯貴族達に恐れられるようになった。


 ある夜、俺たちは漁船を襲った。

これは見かけは漁船だが、本当は商船として使われてたことはすぐにピンと来た。何で分かったか? そりゃあ分かるさ。

あのいけ好かない熊野郎が考える事などお見通しだ。


 俺の仲間達はこの漁船の前に通って行った商船を狙おうと俺を説得してたが、


『騙されるな。あれはダミーだ』


俺の一言で決まった。

大砲ドンドンぶっ放して、船の進行を無理矢理変えると銛銃を何本も放ち、相手の船を停めてやった。

慌てた船員達が武器を片手に蜘蛛の子を散らしたみたいに、わらわらと出てくるわ出てくるわ。

その数も半端じゃねーだろうって突っ込みたくなるくらいの人数で、俺は仲間の顔を見てニヤリと黒い笑みを浮かべた。

大型漁船って言う見かけの割に、一歩船内に足を踏み入れるとどこぞの貴族の船かと言うくらいに装飾が至る所に飾ってある。それらを俺たちはごっそり盗んでやったがな。

仲間達と手分けして奴らをなぎ倒し、俺は奥にある船長室へと向かった。


偉そうにデカイだけで場所を取る執務用の机がでーんと置いてあるだけで、他に人影はない。

そう人影はな。

だけど、俺には見えたんだ。しっかりとな。

机影に隠れて丸くなって震えてる熊の(ケツ)が。

ケッ。俺たち親子はこんなチンケなヤツにこき使われてたのかよ。

そう思ったら、胸くそ悪くなって来た。


「おい。熊さんよー。そこで何縮こまってんだよ。デケーケツが見えてんだよ」


剣をグサリと熊の体すれすれに刺してやれば、赤い絨毯の上に勢い良く水しぶきの音がすると辺り一面濡れて来た。

おいおい…小便かよ。汚ーな。

熊の髪を引っ張り上げ、俺の顔を拝ませてやった。


「!!」

「俺の事憶えてるか?」


 ヤツは目を見張らんばかりに俺の顔を凝視して「命だけは…。昔の仲間だろう…お前たち親子を雇ってやってたよしみなんだし」とまでバカみたいに御託を並べてきやがった。

もうこれ以上コイツのいい加減な御託なんて聞いちゃいらんねーよ。

俺が後ろを向いた瞬間、ヤツは隠し持っていたナイフを俺に向けて来た。


「ばーか」


俺は迷う事なく懐から銃を取り出すとヤツに引き金を引いた。


「ぎゃぁあぁぁあああ!!」


吹き飛ばされ形を失った左耳付近から大量の血を流していた熊を見て俺は笑った。


「俺の親父はな、死の間際までかっこ良かったぜ。敵に縋り付くなんてことはしなかったな」


その夜、俺は自分の気が済むまでヤツをいたぶってやった。

俺に男と寝るような趣味はねえからな。

仲間がヤツの体を船長室から引きずり出した時には、ヤツの両耳はなく、四肢は普通じゃ考えられない方向にねじ曲げられていた。

俺の顔を見たアイツは恐怖で縮こまる中、声を絞り出した。


「サイ…た、助けてくれ!!死にたくないんだ!!何でもするから、言う事を聞くから!助けてくれ!!」


俺の仲間が俺の指示を待っている。顎でしゃくるとアイツは背中を押され、甲板の先に出された板の上に追いやられた。

真下を見れば、白やくすんだ青い物体がうねるように波間をぐるぐると回っている。


「やだ…死にたくな…」

「海に捨てろ」


俺の言葉と共にヤツの体はサメが蠢く海の中へと捨てられた。

俺の復讐は終わった。


復讐は終わったものの、俺たちは仕事に追われてた。

海軍との追いかけっこだ。

この夜も五月蝿い海軍を撒いて来た。


「静かだな…」


霧が深い夜は親父と一緒に戦ったあの日を思い出す。

あの時と同じように乗る船は違っても、音もなくこれからも果てしなく続く血濡れの島へと俺たちを導くように進んでく。


「おい、あまりにも静かな夜だ。気を引き締めて行け」


それまで静寂だった空気がドゴォンと言う、海なのに地鳴りの音が響いて来た。立て続けに聞こえる地鳴りの音に津波なのか、それとも伝説のクラーケンが来襲して来たかとみな一斉に剣を抜いた。

船が左右に大きく揺れ、船のすぐ真横で大きな水柱を見た時、大砲による砲撃だと気がついた。

だが、霧が濃くて一体どこから敵が俺たちの船の位置を知る事が出来るのか、謎だ。

霧が晴れたと同時に俺たちの船は海軍の軍艦に囲まれていた。船尾から赤い液体が垂れ流しされているのを見つけた。この船にそのような積み荷を入れた覚えもない。

どうやら俺たちの仲間の中に海軍のネズミが紛れ込んでいたようだ。

ちらりとクルー達の顔を見れば、一人だけ俺の顔を凝視しない男がいた。先の港で新しく入ったクルーだった。

彼は俺たちを罠に嵌め、その功績で爵位を与えられるはずだったらしい。だが俺たちの船に乗り込んで来た海軍たちによって、真っ先にヤツは死んだ。

そいつの最後の言葉を聞いた時、俺は知った。


ー親父の敵。 


こいつはあの熊の倅だったのかと。俺たちの仲間に入って、情報を全て海軍に流してたのか。

笑いしか出て来ない。


今、俺たち海賊はこの処刑台の上に並べられている。

周りには上品な衣服に身を包んだ上流階級のお嬢ちゃんやお坊ちゃん達が食い入るような眼差しで俺を見てる。


「嬉しいね〜。そんなに見つめられると。俺に惚れるなよ」


軽くウィンクして投げキッスをしてみれば、冗談なのにマジで顔を朝焼けみたく赤く染める女達が次々と卒倒してく。

その横で違う意味で赤ら顔の男達が早く処刑をしろと処刑人にせっついている。

あーうるせ。

目の前にあるのはおなじみの縛り首用の縄。

味毛ねーな。

それを鼻で笑うと、後ろにいた処刑場の男にせっつかれ、俺はそれを首に通した。

足下の板が一斉に落ち、俺たち海賊は王都の声援の中で死んで行った。


 今度もし生まれ変われるなら…もっと平和に上手く生きたい…そうだな今度は女が良いな…普通に恋をして…そう願った。


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