前世 その参
転生も三度目になるともう慣れた物だ。一体今度はどんな人生を送るんだろうかって、そんな風に楽しめるようになったしね。でももう少しマシな所に生まれ落ちたかったわ。
え?何でって…それはさ〜私の三度目の人生はサーカスの踊り子だった。
名前はこの時もサイ。名字はない。
今回は前世での男のサイが愛していたアリアと同じうねるような黒髪に緑の目をした女として生をうけた。
余程、あの時の男の方のサイはあの女に心底ほれてたらしい。
それで結婚を申し込んだ時に殺されるってアリかよって突っ込みたくなるよ。
まあ、死ぬほどほれてた女に殺されりゃあ、男冥利に尽きるんだろうけどね。
今、自分が女だからなのかな、分かるんだよね…あの女が前世の自分に恋してなかったことくらい。
全く前世の自分ってどんだけ女見る目ないんだか。
ま〜だから死んだんだけどさ。
今回のサイは女として生をうけた。余程前世の自分はあの女に未練があったのか、今回のサイは見事な黒髪と珍しい金色の双眸を持っている。
生まれ落ちたところは小さな領地を持っている男爵家だったらしい。
そう、だったらしいって言うのがミソ。
だって、覚えてないんだもん。しょうがないじゃん。
あたいが生まれてすぐに、サイたちが住んでいる国に隣の国の王が戦争を仕掛けて来た。もし、この国が大国だったら良かったんだけどさ。
風が吹けば飛ぶよな小国だったから、あっという間に焼け野原。
領地も屋敷も焼け落ちて、サイの母親は幼いサイを抱きかかえて、知人や親戚の家を泊まって渡ったそうだ。
そんな時に世界の楽園に連れて行ってくれる馬車に乗れるって知人から聞いた母親は、すぐに立ち上がった。
何年か後に当時の事を聞いた時は思わず母親に『あんた何考えてんのよ』って突っ込んだけどね。
噂ではそのパラダイスってとこに入れば、食べる物にも着るものにも困らなくなるとか。
女って弱いよね。
母親がサイを連れて知人を頼ってそのパラダイス行きの馬車に乗りこんだ。
馬車の中には女子供で犇めいていたそうだ。
そうだとサイが言うのは、この時サイは三才でそんなことは覚えてない。
でもさ〜ここでコレはおかしい!って思うよ母。
だけど、母親はこれで幸せになれるって思ったんだって。
で、到着した所が奴隷即売所。
あのパラダイス行きの馬車は人身売買の組織の物だったんだ。
母親とサイはここでサーカス団の団長に買われて行った。
綺麗だった母親は団長の妾として買われたけど。
まだガキだったサイは芸を仕込まれる事になった。
団長のことだ、サイの母親を見てサイも成長すれば彼女のように美人になるのだろうと思ったんだろう。
その団長の目論みはモロに外れた。
サイは父親似だったらしく、顔も背丈も本当に普通の女だった。ただサイにとって誇れるのは、人様よりちょっとだけ手先が器用ってことだけ。
毎日血の滲むような練習をさせられた。
失敗したら鞭で打たれてたから、本当に血が滲んだんだ。
それで曲芸やナイフ投げが得意にはなったけど、何も最初から出来た訳ではないんだよ。
当然最初は下手っぴだったし、上手く的に当てれない時もあった。
あの時はキツかったな〜。調子に乗って投げたナイフが団長の帽子とカツラを貫いちまったもんだから、団長からは殴られ、飯抜きにされた。
あの日は空腹でグーグー五月蝿い腹の虫を押さえるために、寝たふりをしてたけど。
サイと同じようにサーカス団に買い取られて来た少年で名前をレイモンと言う。
どうやら、年は同じくらいらしい。
そのレイモンに内緒だよってパンを貰ったこともあった。でもあいつは優しいから本当は自分の分なのに、「俺はお腹いっぱいだから」なんてやせ我慢してたっけ。
でもそう言ってたレイモンのお腹から大きな音が聞こえて、二人で大笑いしたあの夜。
「レイモン。半分こして食べよう」
お世辞にも柔らかいなんて言えない石みたいに固いパンを手でちぎって二人で食べたっけ。
そんな子供時代を過ごしたサイにも、漸くステージに上がれるようになった。
まだ花形スターとまではいかないけど。
ちょっとした踊り子なんだ。
ナイフ投げは後少ししたらって言われて、ぶーーって頬を膨らませたサイだった。
だけどそんな小さな幸せも、親方の息子のライガからちょっかいを受けるようになってから一変した。
踊り子は全部で十人いる。当然踊りが合わなかったら、仕置きされるのは目に見えてる。サイは他の踊り子仲間から執拗な嫌がらせにあった。
「ちょっとライガに目贔屓にされてるからって良い気になるんじゃないよ」
「あんたの母親が団長の女になったってだけで、あんたはおまけなの。お ま け」
自分の踊り子の衣装が隠されているのはいつものこと。
靴にガラスの破片が入れられたり、踊りを変更されたのにサイにだけそのことを伝えてなかったりと嫌がらせは多岐に及んだ。
そんな時、ライガから新しい演目をやるからと言われ、サイは喜んだ。
やっとあの五月蝿い集団から解放されるって。
新しい演目はライガが考えたマジックショーで、サイはそのアシスタント。
サイの仕事は箱の中に入って、頭と手足を出してライガがのこぎりで箱をまっぷたつにする時に悲鳴をあげる。でも箱の中に入ってるサイは切られる事もない。
始めは成功して脚光を浴びていたサイ達。
だけど、そんなの他のメンバーだって面白くない。
「あの男とのショーに出るのは止めろ」
通し稽古の最中に衣装室でピエロに扮したレイモンに捕まった。まだ本番じゃないからか、いつものピエロのメイクはしていないから、レイモンのたれ目が色っぽく見える。
「な、なんだよ。お前には関係ないだろ」
「関係なくない!」
「え?」
いきなりレイモンに抱きしめられ、サイは目を見開いた。
「お前を失うのが怖いんだよ。毎回、毎回お前はアイツに二つにされちまう。例えあれが奇術だとしてもだ。ついでにと言わんばかりにお前がノリに乗って悲鳴まであげちまうから、見ているこっちもたまったもんじゃないんだ。悪い事は言わない。アイツとのコンビは解消しろ。俺と一緒にこのサーカス団から抜けよう。でないといつか本当にあいつに殺されちまうぞ」
サイを抱きしめるレイモンの腕が震えてる。
だけどサイは照れ隠しなのか、レイモンの言葉を聞くどころか、鼻で笑った。
「なぁに焼きもちやいてんのよ。レイモンのくせに。あたいはね、ステージの上で輝いていたいのよ。ペテン師と呼ばれようが、死のうが構わない」
心にもない事を言ったバカなサイ。
あの時もし、サイがレイモンの言葉を真剣に聞いていたのなら、こんな事にはならなかっただろう。
レイモンのばーか。
サイはレイモンに焼きもちをやいていたんだ。何でも卒なくこなすレイモン。普通なサイと天才肌のレイモンとでは天と地ほどに実力が違う。
レイモンと喧嘩して暫くたったある日、事件は起きた。
いつものようにステージの上にある箱に入れられたサイは仕掛け通り、箱の上部分にだけ体をねじ曲げていれるはずだった。
この日に用意された箱には仕掛けがなく、箱は見かけよりも中身は小さくて、居kら細いサイの体でもいつもみたいにできなかった。
そんなこととは知らないライガがいつものようにのこぎりを大げさに振り回し、いつも入れる箇所に、のこぎりを当てて来た。
「い、嫌ぁ!! やめて!!」
だけどライガも誰も気がつかない。
のこぎりが近づく瞬間までサイは大声で叫んだ。
「嫌ぁぁぁ!!殺される!!出して!!」
でも観客もライガもあたいの声が迫真に迫る演技だと思っていた。
次の瞬間、あたいの体はまっぷたつにされた。
いつもなら傷一つないサイの体を抱きかかえて、みんなから割れんばかりの拍手を貰っていた男は、ぐらんぐらんにだらし無く垂れた血だらけのサイの体を抱きしめて泣き叫んだ。
遠のく意識の中で、サイは願った。もし、今度生まれ変われるなら、やっぱり男がいいと。
もうマジックには関わりたくない、




