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六度目の正直  作者: さいころころり
2/7

前世 その弐 加筆

 『****の敵!!』

「サイ!!しっかりしろ!! このアマ!!よくも、俺のサイを」


何だよこれ…。ぬるぬるするよ…、どうしておめー達の顔が強張ってんだよ。え…?な、何でだよ…俺の胸にナイフが刺さってんじゃねーかよ。

血がとまらね…。



 二度目の人生は男に転生。名をサイ=ランドルフと言う。

どうやら、前世では女だったから早死したんだから、今度は男として生を受けたようだ。

 サイ=ランドルフは革命軍の指導者として兵を進めた男だ。愚王の悪政で苦しめられて来た庶民の声を聞いた俺は、剣を取り王政をみんなに問うた。今まで残虐な貴族達に苦しめられて来た民達の怒りの矛先は、民の苦しみも顧みず、ただ大臣達の声だけを聞く小心者の王といつもパーティばかりを開く我が儘な王妃へと向かった。お陰で俺たち庶民は重税に長い事苦しめられた。

国民は明日食べるものさえないと言うのに、王妃は「食べる物がないのなら、虹芋を食べればいい」そう笑いながら言った王妃の言葉から革命運動(レジスタンス活動)に火がついた。

当時虹芋は栄養価が高く、薬として出回っていた。しかもこの虹芋、王族しか口にする事は出来ない代物で一般市民がそれを食することなど、夢のまた夢と言う時代。それほど虹芋は高価な食べ物だった。ったくどこの悪女だよ。

その上、王妃が毎晩賭け事に興じる姿が新聞を賑わせると、それまで虐げられていた国民達に王政を排除(すなわち)革命が勃発した。


「遊ぶだけの王妃はいらない」

「王妃は俺たちを殺す気だ」

「そんな女こそ魔女だ」

「魔女は火あぶりにしろ!」

「いや、手ぬるい。断頭台に立たせろ!魔女の一族皆全員!」


 サイにも家族が居た。

父親は先の戦争で兵隊として連れて行かれ、戦死した。母親は教会で医者の手伝いをしていた。

たまたま教会に冷やかしに来ていた王族の一人(王弟)に運悪く母親は見初められた。そして俺の命と引き換えに母親は半ば無理矢理男に連れて行かれた。連れ攫われた母親は王弟の側妃として迎えられたが、何ぶん母親は庶民だ。そして王弟の寵妃となったことで、後宮で王弟の正妃と他の側室達からの壮絶な苛めを受け自害した。

そう伝えられたが、母親は王家(奴ら)に殺されたんだ。

その事をサイが知ったのは、折しも彼が母親を護るために騎士団に入隊し、めきめきと頭角を現したころだ。

当時母の侍女をしていたと言う女性に声をかけて母の状況を聞いてみたからだ。

母の食事には毒や虫が盛られ、高価な服や貴重品など全て当時の女官長や他の側妃がくすねていたと言う。

自分の家族を身勝手な王族達に奪われたサイの悲しみは大きく、この国から王政を廃止しようと決意させた。


「この国は腐ってやがる。あの王と王妃、それを取り巻く貴族達がいるからだ。クズを根絶やししない事には、この国に未来は無い」

「サイ、お前正気か?」

ただ事じゃねーな、落ち着けよと杯をサイに持たせた。

コイツの名はレイモン=ハインリッヒ。俺の幼なじみでそして上官でもある。

「ああ。正気だ。俺は軍を離れようと考えてる。この国は腐ってる」

「ならば、国の中から変えようとは思わないのか?」


確かに俺たち騎士団達の中にも、今の国政に対して大いに不満を持つ人間が大勢いる。

俺とレイモンは彼らと連携をとり、ティアラ事件(国宝級のティアラを王妃が議会や王に内緒で換金した事件)と後に呼ばれるこの事件を切っ掛けに、諜報部隊がこの事実を司法に突きつけた。それまでの国の財政を圧迫させてきたのは王侯貴族達だと世間に知らしめる事になった。これを機に俺たちレジスタンスは王侯貴族達を捕まえると次々に処刑した。

 このことからサイ=ランドルフと言えば、鬼神、死神と言う別名がついていた。それはひとたび敵だと見なすと女子供関係なく断頭台へと送る血も涙もない死神。

そんな彼のやり方に周りからは鬼神と恐れられた。


 鬼神と呼ばれる彼にも、たった一人だけ心を許せる女性がいた。彼女の名はアリア。美しくうねるような長い黒髪を持つ女性だった。


「サイ!大丈夫なの?ちゃんと夜は眠れているの? 結婚前に私を未亡人にしちゃったら、一生許さないんだからね」

「アリア。俺は君を残してなんかいかないよ。絶対にこの国に蔓延るダニ共を残らず全て断頭台に送るまではな。アリア、俺の女神よどうか俺と結婚してくれまいか」

「……」

ゆっくりと頷いたアリアに俺は狂喜乱舞した。


 アリアと婚約した次の日、レイモンから呼び出しを食らった。

ここはいつも二人が杯を交わす店。


「おい、サイ。聞いたぞ、あのアリアと婚約したそうだな。悪い事は言わない、あの女は止めた方が良い。あの女は口約束とはいえ、将来の約束までした男がいたと聞いたぞ。おい、サイよお前、あの女を今のうちに切らないとそのうちに寝首をかかれるぞ」

レイモンの心配をよそに、この時の俺は馬鹿だった。

まさに恋は盲目。

「そうなったら、本望さ」

彼女になら刺されてもいい。殺されても良い。そこまで本気でアリアの事を愛していたからだ。

「馬鹿野郎!」

がはははっと豪快に笑うサイに対してレイモンが冗談じゃないと怒ってきたが、俺は歯牙にもかけなかった。

「サイ!!」


 連日連夜、俺はレイモンとこの馴染みの店で酒を酌み交わしている。今夜はいつになく真剣なまなざしのレイモンに、俺はため息を吐いた。

レイモンの小言はいつものことだ。


「あの女との結婚は考え直せ。あの女はお前を殺すために近づいて来たんぞ」


だから、またかとうんざりした目でレイモンを見やれば、彼は金色の髪をかきあげて俺を見つめる。

ああ…色っぽいなお前のその目元の泣きぼくろ。しかもたれ目だし。


「お前な〜俺は男色じゃねーよ。だがな、俺はお前だけは失いたくはないんだ。今なら間に合う。あの女の事は忘れろ。分かったな!」


そう言いたい事だけ言うとレイモンは乱暴に酒代をテーブルの置いて出て行った。



 まさか俺が断頭台送りにした人物の中に、俺の婚約者の恋人が紛れていた事など俺は知る由もなかった。

いや、レイモンは知っていたんだよな。それでも俺たち革命軍の目的はこの国を食らい尽くしていた国王と王妃(ダニ共)と国王ならびに王妃の縁者は全て抹殺せよと言う事だったしな。

日が経つにつれ、断頭台にならぶ人間の数が増えて行った。

王族の血を引くもの、王妃の血を引くものを全て根絶やしにするまで。

俺たちレジスタンスの戦いはまだ続いていた。




 あれだけ忙しかった内戦も下火になり、俺は婚約者のアリアと二人でこれからの事を話し合っていた。

おめでたい俺は、彼女が何を思って俺に近づいていたのかさえ知らずにいた。

いや、知ってても心の奥底ではアリアは大丈夫だ。彼女は俺を裏切る事はないと信じていた。

俺は馬鹿だったから、疑うよりも先に俺は全身全霊で彼女を愛していた。まさに恋は盲目とはこのことだ。

革命後、初の宴で俺は彼女と式を挙げた。

みんなに祝福され俺たちは夫婦となった。その夜ーつまり初夜に俺はアリアに殺された。

抱きしめた彼女の左手には三日月の形をした剣が握られていた。

「?」

ぼろぼろと泣き出すアリア。ドクンドクンと俺の心臓の音と一緒に熱い物が溢れ出て来る。泣きじゃくりながら両手で剣を手にしたアリアが勢いを付けて再度俺の胸に飛び込んで来た。

ぐっは…!!

胸は熱く焦げ付くような痛みとドロリとした生暖かい物が溢れている。

今夜は初夜で俺たち二人に取って再興の夜になるはずだったのに…。

なんでだよ。

なんで、こんな痛い目に遭うんだよ。


俺の腕は彼女を抱きしめる事は出来ず、糸が切れた操り人形(マリオネット)のように寝台の上に崩れ落ちた。寝台の上のシーツがあっという間に赤いシミに染まって行った。

力なく倒れた俺の前に仁王立ちするのは、今まで俺が愛を囁き続けていた愛らしい彼女とは思えないほど、醜く歪んでいた彼女の顔。

『****の敵!』

この時俺は漸く真実を知った。レイモンが言っていた事は本当だった。

鋭く光るナイフには赤く染まる俺の血が。

それを見て、ああ…俺は刺されたんだと気がついた。


彼女が俺に近づいたのは、どうにかして自分の恋人が俺に捕まらないように革命軍の動きを彼らに伝える役目だったということを。

だが彼女の目論みは外れ、俺は知らなかったとはいえ彼女の恋人だった男を断頭台へと送った。

彼は国王の庶子であり彼が生きている限り、俺たちレジスタンスは彼を旗印に王政をあげられる訳には行かなかったからだ。

なぜなら、彼の処刑を最後にこの革命は終わったのだから。


もう平和だと思ったのに。

人として平和に生きれると思っていたのに。

意識が朦朧とする中で、俺を刺した婚約者は涙でぐちゃぐちゃになりながらも俺を罵倒していた。


『あんたのせいよ…あんたが彼を殺したのよ!!』


俺の事を心配して来てくれたレイモン達によって彼女は取り押さえられた。

アリアはその場で捕らえられ、斬り殺された。


「サイ!目を開けろ!サイ!!」


必死に俺を呼び起こすレイモンを見て、もうすぐ俺は死ぬんだと分かった。


「やっぱたれ目男は色っぽいな…笑ってくれよ。レイモン…」


俺はバカな事を口にして、彼を無理矢理笑顔を作らせた。

駆けつけた医師が必死の形相で俺を看ている。口では大丈夫だと言ってはいるものの、もうダメだと言うことは分かっていた。


「俺…お前のその泣きぼくろ…結構好きだったぜ…」


俺を抱きしめるレイモンに自分の剣を手渡すと俺は息を引き取った。

今度は平和な空の元に生まれたい。

男ではなく女として生まれたいと願った。

これが二度目の人生の最後に思った事だった。


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