前世 その壱 加筆
新作始めました〜。
最初っからちょっとヘビーな話が来ます。
私の名前はサイ=ミュラー。本当はもっと長ったらしい名前なんだけど。まあ、コレで良いよね?
私ってば今回は何でかとっても裕福な家に生まれたらしい。
まだ一度も家の外に出ていないから、分からないんだけどね。家って言っても、ただの家じゃなくって…つまり…城です。
父はジュリアス=ミュラー公爵と言って、この国の魔法師団第一所属=別名白薔薇の団長をしています。
そんな父の二名は氷のプリンス。なんでも父は氷を操る魔法を得意としていることから、この名が付いたのだそうだ。父曰く、火土光水と言う氷以外の別の所属魔法も全て操れるけど、氷魔法はなかでもダントツなんだとか。
それにしても、瘤付きのおじさんを捕まえてプリンスってなんでしょうね。
だけど、娘の私から見てもお父様はイケメンです。
母はライル=ミュラー元第一王女。この人ってば見かけはそりゃあ王女様っぽくしてるけど、剣を持たせたら人が変わるんだとか。騎士団第一所属=別名赤薔薇の元団長を勤めていました。若い頃の母の二名は戦場の赤い薔薇と言われてたとか。
嬉々として敵をめった切りしてたんで、本人もそうだけど周りは赤い薔薇を敷き詰めたように血の海だったから、この名がついたんだとか。
この国には王様もいるし、魔法使い、竜騎士もいます。
こんな簡単な説明しか出来ないのは、私がまだ二才児だから。
二年前、私はこのミュラー家の四番目の子供として生を受けました。
あの二人にとって初めての女の子です。そりゃあ、もう家族全員で猫可愛がりされています。 だけど着せ替え人形のように一日に何度も着替えさせられているから、こっちはもう…どうにでもしてちょうだいって感じで、まな板の上の鯉状態。
私の上にはジーク、ジョナサン、ジョルジュと言う三つ子の兄がいます。
三人ともすでに成人していて、それぞれ文官、魔法学校講師、医師として働いています。
そして今日が私のお披露目パーティだったのですが、宮殿の階段の一番上からこけちゃった私は、そのままコロコロと階段の上をローリングしまくり、そして一番下までノンストップ。とどめに大理石の床で思いっきり頭打っちゃいました。
もちろんギャン泣き。そりゃあ当たり前よね。
折角の王様とお妃様との謁見だったのに、私の両親は泣き過ぎて嘔吐く私を宥めながら簡単に挨拶をすませると、そのまま城に直行。
その夜から私は前世の記憶に魘されるようになった。
そこで分かったのは、私には前世の記憶があると言うこと。
王宮にあるやたらと長〜い階段の一番上から、格好良く降りようとしてつま付き一番下まで転倒。おまけに大理石の床でとどめと言わんばかりに思いっきり頭を打ってから分かった事は、私の転生はこれで初めてじゃないってこと。
私の名前はサイ。前回死んだ時に使っていた名前は更級采南って言う名前だった。
でも芸名はサイ。だから前回の時も私の名前はサイなのよ。
そう、面白い事に何度生まれ変わっても、私の名前は男だろうが女だろうが、『サイ』と名付けられた。
何で過去形かですって?
それは、この時の私も死んだからです。更級采南の時は病死だったけどね。
まあ、私の転生の歴史をさらっとですが紹介しましょう。
最初の人生では、私は貧しい木こりの夫婦の元に第六子として生を受けました。ところが、この夫婦が欲しかったのは働き手になる男の子だった。
もし彼らが金持ちだったら、育ててくれたかもしれないけど。現実は厳しかった。
『生まれた…女か…』
『女は働き手にならんから、いらん』
と言うことでこの時代はどこでも、貧しい家に生まれた女の子の場合は、生まれてすぐに口減らしの為にすぐに闇に葬られたのです。
もちろん私もそうなりました。
まだ目も開いていない状態の私でしたが、目は開けてなくても何となくですが見えているんですよ。
ここはどこなのか、誰が母親か。
こう薄い膜がかかったみたいに見えるんですよ。
この時の私の母親だと言う人は、女だと知って嬉しいと言うよりもこれから起こる事の恐怖と悲しみで泣いていました。
「ゔぇぐゔぇぐ…わだじのあがちゃん…」
まさに涙でぐちゃぐちゃに歪んだ顔でしたね。
にしても濁点多すぎて、聞いてるこっちもドン引きしちゃいました。
そんな母親からの最初で最後の言葉は、さよならよりも重い物でした。
『サイ…あなただけを育てられなくてごめんなさい』と言う小さな謝罪の声。
もし、彼女にもっと力があれば生まれたばかりの私を育てる事も出来たかもしれない。
まあ、何の力もない明日をも知れぬ貧乏木こりの妻だったからね。
この夫婦…ちょっと夫婦生活くらい自制しなさいよね。全く、やることだけやっといて、生まれたらポイかよ。
そりゃあ、ないんじゃない?
私の声なき声は彼らには聞こえない。
ああ、私は必要とされてなかったんだと感じた短い生涯だったなぁ。
今度生まれ変われるなら、自分の家族をこの手で護ってやれる事が出来たら…。今度は男として生まれたいとそう願った。
あの綺麗な母親の色っぽいたれ目と泣きほくろを見て、いつかまた逢えるといいねと心の何処かで願うと私の視界は真っ暗になった。
小さな命の火が消えた。




