第9話 私、初見えの前儀の会場に入場す
いよいよイベント会場へ、主人公入場。
部屋に連れ戻された後、私は儀式の時間までおとなしくしていた。
これ以上目立ちたくないし、父の評判を下げたくないからである。
決していざと言う時に、素早く動けるようにする為ではない。
ほどなく、メイドさんが私たちを呼びに来てくれた。
そのメイドさんは、貫禄満点のメイドさんではなく、最初に会った胸に緑のリボンをしたメイドさんである。
役割分担であろうか。
いけない。私はまだ混乱しているようである。
私と父は、メイドさんに導かれるままに歩みを進める。
招待状によると、本日行われる儀式は、初見えの前儀と好配の儀と2部構成になっているらしい。
第一部は初見えの前儀。これは本家跡取りの若君が自身の好配、つまりは許嫁を見つける機会、場という位置づけ。若君の許嫁の最終的な品定めの場らしい。
本家、上から目線だよね。仕方がないのか。
おそらく前もって許嫁になる乙女は選定されているのだろうが、最後に若君が当人に会って決めるという場なのだろう。生理的に無理な人間もいるからだろう。
前世の貴族社会であれば、親が決めた許嫁であれば、問答無用で決定されるところであるが、そこは若干マイルドなのだろう。不幸な夫婦生活を送る可能性が減らせて、何よりである。
さて、その第一部の初見えの前儀はどうやら館の中ではなく、裏庭で行われるらしい。
正面の庭とはまた違い、こういったガーデンパーティー等のイベントに対応できるように、作られているようだ。
「わあ!すごいね!父!」
おそらく本家のお偉い方々が挨拶するであろう、高さ数十センチの長方形の台座。その上に、金屏風が設えられている。
その舞台の前には、丸テーブルがいくつも並んでいる。それから少し離れたところには、おそらく料理が入った、ビュッフェ用の長方形の銀色の食器が配置されていた。
よい非常によい!へこんでいた気持ちが、むくむくと持ち直す!
まだ春ともいえる、木漏れ日が気持ちがいい季節である。
ガーデンパーティーには持ってこいである。若君には重要な許嫁決定の儀式であれど、私にとってはガーデンパーティー、おいしいものを食べる場であるのだ!
「どうぞ奥へ」
私たちは促されて、丸テーブルの中を進む。
まだ人がそれほどいない。
いるのは、使用人ばかりである。
「ああ、なるほど」
私は小さく呟いた。
入場も序列順と言う訳である。
まずは分家序列最下位、それも末流の末から。
そうすれば、上位の方々を、待たせる時間が少なくなる。
効率がいい。
日本の家制度と言おうか、主従関係と言おうか、上下関係序列が、かっちりと我が一族では浸透しているらしい。
予想通り、私と父が案内されたテーブルは、上座から一番遠いところにあった。
本家関係はもちろん最上位の位置、舞台の目の前にテーブルがあり、そこから分家序列1位の分家から我が分家序列最下位6位のテーブルが配されている。
「徹底しているね、父」
「そうだな。前もって調べた通りかな」
「本当、父が教えてくれた通りだ」
そう、なぜ序列順だとすぐにわかったのか。それはテーブルクロスの色をみれば一目瞭然なのである。
父が招待状が来てから、慌てて基本的な情報は調べてくれたのだ。
そうでないと、いらぬ不興を買うからだとか。
父、きっと1度、いや2度3度、失敗しているんだろうなあ。
失敗から学ぶことは、よいことである。
そして本家、分家の情報は有益である。
私も大いに参考にさせてもらった。
さて、その父が仕入れた情報によると、本家及び分家6家の家紋は統一でオダマキの花なのだそうだ。では本家と分家かどのように判別するかというと、それぞれの家は、独自の家色を定めているらしい。先にも少し触れた。家色とはそのまま家のイメージカラーである。そして家紋をその色に染めることにより、はっきりとどこの家の出身かわかるのだそうだ。
色分けか。そこまで序列をはっきりとさせたいのか。なかなかシビアな家系である。
まず本家、家色は深紫。
そして分家6家は。
序列一位の日陽家、家色は赤。
序列二位の水音家、家色は青。
序列三位の風祭家、家色は白。
序列四位の木羽家、家色は緑。
序列五位の土出家、家色は茶。
そして最後、序列最下位6位、灰咲家、家色は灰色である。
父曰く、この序列は、力の強い順らしい。
私は父にこの説明を受けた時に、力の定義を尋ねた。
しかし、父はあまり言いたくないのか、説明が面倒だったのか、力は力!以上!と、詳しくは教えてくれなかった。
力って、漠然としすぎてないか?父よ。
いくら5歳児に説明するにも、大雑把すぎるだろう。
それでも、推測するとすれば、だ。
現代社会の日本においてここ80年、戦争は起こっていないが、それより以前は陣地取り合戦よろしく、戦いがあった。そこで功績をあげたか、はたまたダイレクトに経済的に本家に貢献したか、だろう。
そこから考えれば、うちが貢献度が低いのは、納得である。
いや、逆に多大な恩恵を受けているのである。
今回の件でわかったのであるが、父母ともに、本家の関連の警備会社に勤めているらしいのである。
いわゆる縁故入社である。とはいえ、資本の身体や体術は一通り身につけていたからの入社だと、父は強調していた。
そこは信じている。大丈夫だ、父。
ここからもわかる通り、灰咲家分家筆頭の家でさえ、貢献度は低いとみた。父は本当に一兵卒としての貢献しかしてない。
序列最下位の灰咲家自体、そういった位置づけなのかもしれない。雑用係みたいな感じだろうか。もう少しましだと考えたい。
縁の下の力持ち。なくてはならない存在である。そうポジティブに考えておこう。
ちなみに私の日本の知識は、主にテレビやラジオといった文明の利器、近所の図書館、そして幼稚園からのものである。
私は今世なんと高度な文明の元に生まれたのか。
庶民が高度な文明の利器や、無料で図書館が利用できる!
素晴らしい!
前世の、そして今世の神々に感謝の祈りを捧げよう!
ちなみに前世の神の名は記憶にない。今世の神々も知識はほとんどない。
祈る気持ちが、大事である。
幼稚園の友、ねいちゃんからの情報も、重宝していることを、ここに明記しておく。
さて、自身で手に入れた知識、及び、父から即席で教わった知識を頭で復習しているうちに、続々と人が入場して来た。
テーブルクロスの色は違えども、食べるメニューは同じだ。
なぜならビュッフェ方式だからである!平等。嬉しい限り!
その為、テーブルの上には、中央に可愛らしいお花が飾ってあるだけである。
早く食べたいものである。
が、儀式の始まりを、待たねばならない。
待ち遠しいものである。
それにしても末席だからこそのこの位置、観察するにはとてもよい配置である。
一番後ろだから、全体がよく見える。
各分家より許嫁候補として、出席しているだろう女子は2人、多くて3人である。
本家筋のテーブルには、それらしい女子は見当たらない。
流石に血が近すぎるということだろう。
各分家で2、3人の候補者ならば、この館ならばそれぞれ個室に案内しても余裕だろう。
もう少し正確を期するならば、我が序列第6位の灰咲家の許嫁候補者は私だけである。なんでも灰咲家分家筆頭の家にも、条件にあったお嬢さんがいるらしいが、本日体調不良の為、欠席とのこと。親もそのお嬢様が心配だとの理由で欠席とのこと。
しかし、それが許されるのか?!
今、当主もいないのだから、許されたのだろうな。
お嬢様、当日突然の欠席か。大問題だろう!
本家に言わせれば、儀式に出席できないほど病弱な者に、端から本家の嫁が務まる筈がないと、欠席を許諾されたようである。
私たちが控え室でもうそろそろかなあって思っていた時に、緑のリボンのメイドさんが突然やってきて、そう父に告げた。淡々とした声であった。
感情を出さないようよく訓練されてる、と感心したものである。
余計なお世話かもしれないが、今後の本家との関係を考えると、フィジカルもしくはメンタルが弱いにせよ、這ってでも出席しといたほうが、今後過ごしやすいと思われる。
親もそこを言い聞かせなかったのか。一般家庭なら子供第一で正解なのだが、これだけきっちり上下関係がある家系に生まれてしまったからには、それは不正解だとわかっているだろうに。
どうせ、序列最下位の灰咲家から間違っても嫁は選ばれないのだから、もっと気軽に参加すればよかったのに。
もしかすると、そのお嬢様はプライドが高いとも考えられる。
選ばれるはずもない儀式に参加するのを厭うたのか。
分家序列最下位とはいっても、我ら分家の筆頭である家のお嬢様なのに。
序列最下位がいやならば、力をつけて覆してみせる気概が欲しい。
我らの筆頭なのだから。
その為、灰咲家からは許嫁候補は私1人である。
私たちのテーブルには、私と父、そしてもう1つ椅子がある。
「父、まだおいでになっていらっしゃらないですね?」
灰咲家が分家最下位とはいえ、灰咲家筆頭から誰も来ないというのは流石に憚かられると筆頭も思ったらしく、代理人が立てられたのである。
「急遽決まったから、遅れているのかもな」
それは考えられる。しかし、遅刻は悪印象である。
せめて、ギリギリでもいい。儀式が始まる前に到着して欲しいものである。
代理人の人も肩身が狭かろう。私たちもであるが。
「そういえば、父、他の分家の方々に、ご挨拶に行かなくてよかったの?それとも私がいない間に済ませたとか?」
「いや、俺は今後それほど深く親戚づきあいしようとは思わないから、挨拶はしに行かなかったよ。きっと向こうも気にしないよ。俺の家なんて、きっと頭の隅にもないよ」
「そう」
それはそれで悲しい。
が、父がそのような考えなら、私から何も言うことはない。
私だって親戚付き合いはご遠慮したいので、願ったり叶ったりである。
それにだ。父の言う通り元より、他の分家は、我らが分家など気にかけてはいないだろう。
なぜわかるか?
家色からもわかる。我が分家以外の5家は、家色に、はっきりとしたイメージがある。
けれど、わが分家は灰色、白と黒の中間色、肯定的に捉えるならば、協調、中立といったところか。否定的に捉えるならば曖昧、無個性などか。
つまりは昔から、序列最下位で不動なのだろう。
逆にどのような経緯で我が分家が作られたのか、興味が湧いた。
ぜひとも調べてみたいものであるが、家のルーツなど、まさに本家かもしくは灰咲家筆頭の書架でないと調べられないような気がする。せめて筆頭、儀式に参加してくれれば、頼み込む機会もあっただろうに。
それを思うと、先ほど私が図書室と踏んだ部屋に入れなかったのは、返す返すも悔しい限りである。
ふう。冷静にならねばな。
色々述べたが、我が分家など歯牙にもかけていない本家や分家など、こちらも気にしなくていいと、私は思う。
ましてや、私はまだ5才だ。
何もわからないと、ニコニコして、豪華な料理のご相伴にあずかればよいのである。
そうだよね、父よ。
きっと父もそう考えている筈であると、父を見上げると、儀式が始まる時間が迫ってきたからであろうか、再び緊張が戻ってきたようである。
顔がこわばっている。
とはいえ、普段緊張しているところなど見たことがなかった私には、とても新鮮な父の姿だ。
警備の仕事をしている父であれば、社会的地位の高い人物に遭遇することもあるであろうに。そういった方々の警護などはしないのであろうか?門番や建物警備等が主な仕事なのかもしれない。
そういったお仕事も重要ではあるが、要人警護などの仕事もこなしていくと仕事の幅も、そして給与のアップも望めるのではなかろうか。
父よ、ぜひとも励んでほしい。
ちょこりと椅子に座り、手持ち無沙汰で、思考を巡らせていたが、そんなことをつらつら考えているうちに、やっと全員が入場したらしい。
なぜわかったか?
それは私が待ち望んでいた、乾杯をする為の飲み物が、配られてきたからである。
父には最初ワインを供されたが、運転があるからと、私と同じオレンジジュースをもらっていた。
飲み物やグラスをみて、ふと思ったのである。
本家の跡取りの許嫁を決める儀式の1部である、初見えの前儀。
きっと古くから続いてきたであろう儀式なのに、随分と洋風にアレンジされてきているようだ。日本古来の杯や日本酒といったものを、使わないのであろうか。
もっと言うなら、このガーデンパーティーも、儀式というには砕けすぎている。
やはり、形骸化され、より簡素化されてしまっているのだろう。
だからこその日本酒でなくワイン、子供には水ではなくジュースが出されているのだろう。
これはますます肩肘張らずに、観察できそうである。
観察といえば!
まずは、このオレンジジュースである!
100パーセント果汁、それも絞りたてとみた。市販のパックジュースではない!
爽やかな香りが、それを物語っている。
これだけでも、来た甲斐があったというもの!
私は頬が緩むのを、とめられない。
「まだ飲んではだめだよ?」
私があまりに熱心にテーブルに置かれたグラスを見つめていたからだろう、父が軽く注意をしてくる。
「わかってる。でも、すごくよい香りだから、早く飲みたい」
私は父の注意にむっとすることなく、本音を漏らす。
だって、本当においしそうなのだ!
そんな私を、父は笑った。
「そうだな。よい香りがするものな」
私の本音の感想に、肩の力が少し抜けたようだ。
父よ、帰りの運転がなかったら、ワイン飲めたのにな。
ワインもきっと上等なものであっただろう。父よ、賞味できずに、残念であるな。
私とともに、フレッシュなジュースを、代わりに味わおう。
身体にはそれがよいと思う。
「ふふ」
と、私は父と笑い合った。
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