第8話 私、窮地に立つ
「行ってくるね!」
「ああ、気をつけるんだぞ」
私はソファに座る父に、手を振る。
さあ、これからが、本当の探検である。
私はそうっと扉をあけて、廊下を見る。
誰もいない。
私は、小さい身体をするりと扉から滑らせ、廊下へと出た。
この建物は3階建てだ。
そして、この建物の用途は、催しものをする時に使われると聞いた。
案内された部屋から推測するに、客が泊まる場合もあるだろう。
となれば、その客を退屈させない為の施設も、用意されているのではないか?
例えば、図書室とか!
かなり希望的観測だが、探してみる価値はあろう。
私たちが案内されたのは、1階の部屋だ。2階はもっと分家の序列が高い人が通されているだろう。3階はおそらく本家が使う階だ。
1階は催しを行う場や、それを施行するのに必要な部署の部屋が、多々あるだろう。
私たちが通された部屋はかなり端っこであった。その配置は推して知るべしだろう。
所詮は分家序列最下位の末流の家。悲しい扱いである。
その気持ちは、ひとまず置いておく。
ふむ。私は思考を巡らせる。
もしあるなら、図書室は2階だろうと私は推測した。この館において、図書室はそれほど重要な場ではないだろうからだ。客を迎える為の施設であるなら、あくまで客を退屈させない為のものとして、作られているのではないだろうか。であれば、きっとメインの客がいる2階にあるのではないか?
移動しながら考えをまとめていたが、その結論至る。
となると、この館の図書室には、たいした本はないのではないか、と不安になってくる。
いや、希望を捨ててはいけない。もしかしたら、私が調べたいこと、この体内にある魔力もどきについて、書かれているものが、あるかもしれない。ほんのささやかな手がかりでもいい。どうかあってくれ。
私はすがるような希望胸に、足を進めた。
とはいえ。
この予測はあくまで前世の記憶からの推測なので、外れる可能性はある。
が、外れたら外れたで、また探せばいいのである。
私が決してやってはいけないこと。
それはメイドさんをはじめ、ここの使用人の方々に見つかってはいけない、これ一択である。
その為、私はメイドさんたちに見つからないように、細心の注意をしながら、歩みを進めいている。
忘れがちになるが、今日は本家若君の重要なイベント、若君の許嫁を選ぶ、初見えの前儀と好配の儀が行われるのである。
メイドさんたちは、失敗はあってはならないと、神経をとがらせている筈だ。
そんなメイドさんたちに見つかってしまえば、問答無用で連れ戻されてしまうだろう。
私が図書室を見たいと言ったところで、即時却下されるだろう。
分家序列最上位の姫のわがままならば、一考してくれる可能性はあろうが、分家序列最下位の、それも末流の娘の言葉など、くそ忙しい最中、遙か遠くまで蹴飛ばされるだけに決まっている。
その為私は気配をできるだけ消して、移動をしている。
幸いにも私は誰にも見つかることなく、階段をあがり、2階へとやってくることができた。きょろりと見回しても、廊下には誰もいない。
私は慎重に一つ一つの扉を、吟味していった。
ほとんどが片開きの扉で、おそらく私たちと同様か、もしくは更に豪華な部屋が扉の向こうに広がっているとだろうと、想像できる。
私は2階の廊下を隅から隅まで見て回ったところで、一つだけ両開きの扉を見つけた。
「おお!」
図書室!図書室だろう!と、私は期待に胸を膨らませた。
私は背伸びをして、ドアノブをゆっくり回そうとした。
が。回らない!
「鍵が、かかっているのか!」
私は愕然とした。
そうか!いつもは、どうか知らないが、今日の招待客には0才から18才までの子供が招待されているのだ。
図書室に鍵をかけておかなければ、年端もいかぬ幼児に、いたずらされてしまう可能性がある。だからの鍵か!
「うう~~!」
私は諦めきれず、ドアノブを回そうと試みる。
が、ガチャガチャとした音が、むなしく響くばかり。
だめか。私は大いに肩を落とした。
と、そのとき。
「お嬢様?何をしてらっしゃいますか?」
「ひっ!」
私は扉を開けようと必死になるばかりに、背後の注意をおろそかにしていた。
バッと振り向いた先に立っていたのは、怖い顔をしたメイドさん。
私を部屋に案内してくれたメイドさんとは違う。
もう少し年期のいった、いや、貫禄のあるメイドさんである。胸のリボンは茶色である。めがねをくいっとあげるしぐさが怖い。今、メガネをあげる必要があるのか?
どうでもいい情報だ。
私は混乱しているのかもしれない。
そうだ。可愛く誤魔化せば、態度も和らごう!
「えっと!トイレに行こうとして、迷ってしまって」
「トイレは部屋についておるかと存じますが、灰咲大海さま?」
「ひう!」
身元も、ばれてる!
もしかしてメイド全員、招待客の顔と名前を覚えているのか!
徹底している。
はっ。私の来ている服は、灰色である。
そこから辿られたか?!
「えっと、パパが疲れて横になっている間、つまらなくなって、ちょっとお部屋の外に出たら、楽しくなってしまって」
無表情のメイドさんが怖い!そしてなぜまたメガネをくいっとあげる!
ここは、もう潔く謝るしかない!
「ごめんなさい」
私は頭を下げた。きっちり45度である。
謝るときはきちんと頭を下げる。幼稚園で教わっている。
「いけませんね。きっと、お父様は心配しておいでですよ。さ、お部屋に帰りましょう」
そう諭され、貫禄たっぷりのメイドさんが、私の手を取る。
「あの、このお部屋は、なんのお部屋ですか?」
最後に、もうひと粘り。私は負けない!
「そちらは、大人の方が利用するお部屋ですね。さ、参りましょう」
答えてはくれぬのかあ!メイドさん!興味を持たれるのを嫌ったのか!
いたずらしないから、教えてほしい!
「ごほんがおいてあったりしますか?」
なんの!私は粘りの総元締めと言われた男だ!もう一粘りだ!
「今日の儀式には、関係ないお部屋でございます」
きっぱり。絶対教えないとの圧が、倍増しになった。
「でも!」
「さ、行きましょう」
私はすがるようにメイドさんの横顔を見上げたが、そこには一切の質問は受け付けずと書いてあった。
探索失敗。情報皆無。
私の願いむなしく、父の待つ待機部屋へと、連れ戻されたのであった。
私の引き渡しに際し、貫禄たっぷりなメイドさんに、父がちくりと管理不行き届きであると、怒られていた。
父よ、すまぬ。
そしてがっかり、がっかりの2乗である。
せめて、あの部屋の用途を教えてほしかった!
改めて言おう!
ここのメイドさんは、隙がない!
背後からひっそりと近づくメイドさん、怖いかも。
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