第83話 私、聞き逃しに落胆する
やった!やりきった!
外出の許可をもぎ取ってやったのである!
私と晶露様、そしてロウも、翌日学園内でも、いや本家に帰宅してからも、私たちは浮かれていた。
晶露様は初めての遠出の外出。
私は能力の底上げができるかもしれない事への期待大の外出である。
「いつにしましょう。なるべくはやくにいきたいものですね」
珍しく晶露様が積極的である。
「おう!俺も早く行ってみたいぞ!」
ロウも晶露様の頭の上で、羽をばたつかせている。
「そうですね。でもしっかり下準備をしてからのほうがよろしいでしょう。見落としをして後で悔やむことはしたくないですから」
私たちは夕食を終え、ソファで就寝前のホットミルクを頂きながら、話をしていた。
「そうだな。下準備はしっかりとするがいい。時間はたくさんある」
と、そこに、若君が入ってきた。
若君、またノックなしである。
しかし、私は今最大限に機嫌が良い。
スルーするくらいの寛大さはあるのである。
「若君、昨日はありがとうございました。今日も若君にお会いできたこと嬉しい限りです」
「定型の挨拶は不要だ」
「かしこまりまして。それでは若君、今日は何かご用がございましたか?あ、晶露様と戯れにまいられましたか?」
「違う。そなたたちに伝えねばならぬことがあるから来たのだ」
若君、言い方を考えて欲しい!
晶露様が私の隣で肩を落としたよ。
違うにしても、クッション言葉をいれて欲しいのである!
7歳にそこまで望むのは心苦しいがな!
「さようでございましたか。それで晶露様と私にお話とはなんでしょうか?」
「昨日の外出の件だ」
「?何か問題がありましたか?まさか、許可取り消しですか!?」
一度喜ばせておいて、落とすのであるか!?
それはあまりにもひどい仕打ちである!
「違う。許可の取り消しはない」
「さようですか」
ふう。驚かせないで欲しいのである!
「昨日最後に行ったであろう。追って外出時期を知らせると」
「え?さようでございましたか?」
「そうだ」
私は聞き逃していたらしい。
「お前たちの外出時期であるが、大海、お前が小学部に上がってからだ」
「え?ええ?!」
若君の前であるが、私は一瞬理解できずに間抜けな声を出してしまった。
じわじわと若君の言葉が浸透し、理解が追いつく。
「ええ!?それは後、半年待てと言うことでありますか!」
私は思わず軍隊言葉が飛び出すほどに、動揺した。
「そうだ」
何を平然と告げるか!
「そんな!あまりに先ではありませんか!」
「だが、大海はまだ5歳、晶露にいたってはまだ3歳だろう。今はまだ早すぎる」
「し、しかし、若君は3歳で遠出をされたとお聞きしました!」
私は食い下がった。私はすぐに行きたいだ!
そんなに待てない!
「俺は俺、お前たちとは違うのだ」
なに?その理不尽な理屈は!
「これは当主からの決定事項である」
「!」
これはだめか。
私は何か策はないかと頭を回転させる。
若君は私を追い込むように言葉を繋ぐ。
「なんなら、もっと先にしてもよいが?」
「いえ!わかりました!承知しました!」
若君の思惑通りの返事をするのは憤懣やるかたないが、当主が決められたなら覆らないのだろう。
私は膝から崩れ落ちそうになる程の、深い失望を感じた。
ソファに座っていたから崩れなかっただけである。
隣の晶露様を見ると、先程よりも更に肩を落とされている。
ロウはまだわかっていない顔だ。
後で説明してやらねばなるまい。
私は深呼吸をする。
落ち着け。外出の許可はおりたままだ。
パワースポットには行けるのだ。
それでよしとしなければなるまい。
納得したくないが、時期についての条件、飲まねばなるまい。
しかし半年以上も先の話である。
昨日の最上の喜びを返せ!と、私は若君に言いたい!
それだけでは足りない!詰め寄って首をがくんがくん言わせてやりたい!
ぬか喜びさせるなと!
いや、私が聞き逃したのか。
詰めが甘かった。
「ではな。確かに伝えたぞ」
若君は我々の落胆などどこ吹く風なのか、さっさと出て行かれた。
若君、弟君に冷たすぎるぞ!
そういうところだぞ!
扉が閉まると、残されたのは私と晶露様とロウ、そして野衣さんだけである。
本家の松也さんは何か問題が発生した時だけに、ここに詰めるらしい。
それはおいておいてだ。
私は晶露様に向き直り、頭を下げた。
「申し訳ありません」
私の言葉に、晶露様が顔を上げた。
「私の詰めが甘かったようです。外出許可が下りた言葉を聞いて、他を聞き逃しました」
「そんな!ねえさまはせいいっぱいやってくれました!」
がっかりしてるのに、そこまで言えるなんて、聡明すぎるぞ!晶露様!
そんな晶露様を、いつまでも落ち込ませたままで、いさせるわけにいかなかろう!
私は自身を奮い立たせた。
「さあ、晶露様!遠出まで、時間はたっぷりあるようですからね!じっくり見落としなく計画を立てましょう!遠出のしおりを作らなければ!」
「遠出のしおり?それはどういうものでしょうか?」
「遠出のしおり、それはですね」
私は遠出のしおりについて、滔々と語った。
気合いを入れて話しまくる。
曰く、旅には絶対必要であること。
曰く、しおりは旅の道しるべであること。
曰く、しおりには絶対に従うこと。
等々。
私の話を聞いているうちに晶露様の目の輝きが戻って来た。
「さあ、大変ですよ。私たちはその遠出のしおりを、一から作らねばならないのですからね。覚悟はいいですか?」
「はい!」
「よろしいです!」
「では明日から始めましょう!」
「はい!」
「では今日はもう眠りましょう!明日に備えて!」
私は自分に言い聞かせるように、そう告げた。
ああ、でも半年先か。
ぐぬう。
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そして誤字報告ありがとうございました!助かりました!(2026/6/28)




