第72話 私、若君との距離感について語る
さて、最後になったが、若君との関わりについてもここで付け加えておく。
私の生活環境がこうも激変したのは、本家若君の許嫁候補の筆頭という立場になったからであるからな。
ここで若君との関わり合い方について言及しないのは、不十分であろう。
とは言いつつも、語ることはあまりに少ないのである。
なぜならば、私は幼年部、若君は小学部と所属が違う為、学ぶ校舎も違うのである。
その為、学校での接触は皆無である。
若君の様子について聞いたところによると、他の許嫁候補のお嬢様方は、学校行事や一族での集会などで交流を持たれているらしい。
今回の好配の儀で若君の許嫁が決定されなかった。
候補のみの選出であった。それはいつかはっきりと1人に絞られるということに他ならない。
私以外の、他の分家の許嫁候補のお嬢様方は、少しでも若君の心証をよくしておこうという、涙ぐましい努力を行っていらっしゃるようである。
許嫁選出、それは各分家の威信を背負っているともいえよう。
精神的負担はいかばかりか。
健闘をお祈り申しあげる。
私などは先に両親が考えている通り、いずれはフェードアウトするという意見に同意するものであることから、なんのプレッシャーも感じていないのである。
ただ、この現在の立ち位置でのメリットを最大限に享受すべく動くばかりである。
ついでではあるが、ここで1つ付け加えておこう。
我が灰咲家の本流のご当主、今は吉助さんがなられている。
年若い吉助さんが当主の座についた経緯は第1章を読み返して欲しい。
その吉助さんに、父から今回の経緯をご報告に屋敷に伺ったらしい。
するとすでに本家からは報告を受けていたようである。
しかし、父からも話を聞けたことは有益だったと、遠い目をしてお答えになったとのことである。
そして父にさりげなくかつ遠回りに本家に娘を嫁がせたいかきかれたらしい。
父は笑ってそれはありませんと断言し、かつ娘もまた同様だとはっきりと答えたとのこと。
すると吉助さんは大層ほっとした様子であったと父から聞いている。
吉助さん、ご心労おかけして申し訳ない。
しかし、安心して欲しい。
私は本家の嫁になる気は一ミリたりともないのである。
若君との関わりについて、少しずれてきてしまったかもしれない。
しかしそれは仕方がないことである。
若君は多忙、そしてこちらにまったく関心がないのである。
結果、若君との接点は今のところ、本家の廊下ですれ違うくらいかもしれない。
ちなみに若君の学園での様子を詳細に述べたが、私が直接見たわけではない。
ではどこから情報をと、諸君が気にするかもしれないので、一言付け足しておく。
ご苦労なことに、私以外の許嫁候補者様たちのご学友の方々が、私が所属する幼年部までわざわざご足労されて、親切に教えてくれた内容である。
学友の為の行動、マウントをとる為の行動であるのだろうが、それは無用である。
私は分家の最下位であり、いまさらマウントをとる必要もないと私は考える。
私の何かが脅威と思っているのかもしれぬが、無用な心配であると言いたい。
が、申し上げたところで、いらぬ勘ぐりをされそうなので、私は無言でやり過ごすのみである。
返事をせずとも、私が5歳という幼少である為か、機微がわからぬと判断して、許嫁候補様たちのご学友は言うだけ言って、気分よく帰っていくのを見送るのが、常である。
私はその背中を見送りつつ、情報提供痛み入りますとの労いの言葉を心中で呟き、感謝申し上げるばかりである。
幸いなのは、許嫁候補者様たちご本人は、私の元にはお越しになられないことであろう。
私が許嫁候補最年少であることも関係しているに違いない。
けれどそれ以上に、私に害意を向けるのは、プライドが許さないのではないだろうか。
今少し申し上げるなら、相手にするほどのものでもないと思っていらっしゃるのかもしれない。
好配の儀において、私の異能の小ささは、これまた候補のなかで最下位であったと断言できるからである。
無視してもいいくらいの存在であると、認識されておられるのかもしれない。
それはある種正解である。
この正解に、本家当主様、前当主様が早くお気づきになられることを祈るばかりである。
上記の理由により、私の幼年部での1年は割と平穏に過ごすことが可能であった。
その平穏を無駄にすることなく、私は異能について学び、考察を続ける毎日を送ったのであった。
以上、激変した好配の儀から今日の私の日常報告である。
説明回、やっと終わりマス




