第64話 私、晶露様を安心させる
「晶露様」
私は項垂れた晶露様の顔を両手で包み込んで、上を向かせる。
「晶露様が私の何をそんなに気に入ってくれたかはわかりませんが」
ロウのことで恩を感じてくれたのはわかる。
けれど、眠らぬ、食事を取らぬほどに慕ってくれるレベルかと思うと疑問が残る。
「ねえさまはわたしにやさしくしてくれました。へんなめでみませんでした!ロウとあわせてくれました!それからそれから!あたまをなでてくれました!それにそれに!」
「ああ。大丈夫です!晶露さまの気持ちは十分伝わりました」
また泣き出しそうな勢いで話す晶露様を、やんわり留める。
「晶露さまとお会いして、私の生活に大きな変化がこれから起こるのは確かです」
うそをついてもしょうがないからね。そこは認める。
「ごめんなさい」
晶露さまの瞳が悲しみにゆれる。
「謝らないでください。私は晶露様とお会いできて、こうして仲良くなれて嬉しかったのですから」
「でも、ぼくがねえさまとまいにちあいたいとわがままをいったせいで、ねえさまはいまのおうちから、ぼくのおうちのちかくにひっこししてこなければならないのでしょう?」
「そうですね」
「やっぱり」
「でも、それが必ずしもいやなことではありませんよ?新しいお家がどんなお家かも楽しみです。それに晶露様が通う学園もどのようなところか楽しみです」
ネイちゃんだけでなく、幼稚園の友との別れはつらいものがある。
しかし、私には前世の記憶がある。
死に別れでなければ、いつかまた会えると知っている。
ならば、変化を前向きに捉えるのが吉である。
私が通う学園は本家の生業に深く拘わりのある学園であると聞いているのである。
きっと普通とは違うところが多々あるだろう。
嘘偽りなく、楽しみである!
「晶露さま、どうかこの大海に、学園の幼年部のことを教えてくださいね?」
私の楽しそうな様子を見て、晶露様がおずおずと尋ねる。
「ねえさま、ぼくのわがままでのおひっこし、おこっていないのですか?」
「晶露さまには怒ってないですよ」
怒りの対象は晶露さまの周りの大人たちにである!
私に縋らなければならない程、晶露様の環境は寂しいものだったということだからだ!
それを知ってしまった以上、放っておくことはできまい。
そして私を望んでくれる以上、それに答えねばなるまい!
子どもは大切にしないといけないのである!
最初は晶露様を置いて帰ったではないかとの指摘はスルーである。
最後にはこうしてお傍にいることになったのであるからな!
「ほんとうですか?」
「はい。わくわくしておりますよ」
引っ越しして環境が変わるのは確かに大変だが、わくわくしているのも本当である。
新しい家、新しい学び舎、それももちろんだが、この本家には私の中にある魔力もどきの力の資料がある筈である!あ、この魔力もどき、気と呼ぶのであるか。
更に学園、幼年部はわからぬが、小学部に上がったら、異能についての本が置かれた図書室があるに違いない!
楽しみすぎる!
できれば幼年部にも書架があって欲しい!
それに、本家に来ていれば、もしかしたら、妖退治を早々に見れる機会があるかもしれないではないか!
とても楽しみなことである。
私のこのわくわく感が伝わったのか、晶露様が安心したように顔を緩める。
「よかった。ほんとうにおこっていないのですね。そしてたのしそうです」
「その楽しみの中には、晶露様と存分に遊べるのも含まれておりますよ」
私はそう言いながら、晶露様のおでこをちょこりとついた。
「うれしいです!」
晶露様はおでこを押さえながら、全開の笑顔を向けてくれた。
さあ!話も一段落した。ご飯を食べよう!
野衣さん、そのカートには、私の分もあるよね?
お子様には笑顔が一番デス。
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