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第62話 私、晶露様の目覚めに立ち会う

 若君よ。君もまだ7歳である。

 まだ聞きたいことは多々あるけれど、若君の健康も大事である。

 昨日の分も含めて、ゆっくりと眠って欲しい。

 晶露様のことは私に任せてくれてよい。 

 若君がいなくなると、晶露様の部屋には私と晶露様、ロウ、松也さん、そして野衣さんのみになった。

 のみではないか、結構な人数である。

 そのうち2人は寝ているから部屋は静かである。

 そう思ったところで、晶露様の目がゆっくりと開いた。

 ほんの一瞬ぼうっとしたが、次の瞬間には、はっと身体を強ばらせ、すばやく視線を動かす。

 その視線と私の視線がぶつかった。

「ねえさま?」

「はい」

「おおみねえさま?」

「はい。私はここにいますよ」

 私の顔を見上げながら、何度も確認する晶露様。

 そして、自分が私のお膝の上で、眠っていたことに安心した様子で、ほっと身体の力を抜いた。

「ほえ」

 それから、晶露様は大粒の涙を流して泣き出した。

「晶露様」

 私はポンポンと背中をたたいてやる。

<ツユ>

 ロウが心配そうに、私の頭から晶露さまのそれに飛び移る。

 いつの間に起きたのであるか。さっきまで寝ていたであろう?

 晶露様の気持ちの揺れを敏感に感じたのか?

 大丈夫である。今度の涙は不安や寂しさからではない。

 安心からの涙だ。すぐにとまる筈である。

 だから、責めるような目で私を見つめるな雛助。

 私に咎はないぞ。

 私は晶露様をあやしながら、部屋の隅にいたメイドの野衣さんに頼む。

「晶露様にホットミルクをお願いできますか」 

 野衣さんは頷くと、すっと部屋を出て行った。

 後に残るは心配そうにこちらを見つめる松也さんである。

 前当主から聞いた話では、晶露様は私が帰った後、食事もしていない筈である。

 自覚はまだないかもしれないが、お腹がすいている筈である。

 空腹に重たいものはいけない。

 最初はミルクがいいだろう。蜂蜜入りのだ!

 私の予想通り、弟君は、すぐに泣き止んだ。

「さあ、私にお顔を見せてください」

「ん」

 私はハンドタオルを取り出して、晶露様の涙を拭いてあげる。

 その際に、顔色を見る。

 うん。短時間だけど、しっかり眠ったことで、少し顔色はよくなっており、頬の赤さも戻っている。

 よしよし。

 その間、晶露様はとても嬉しそうにほしゃっと笑みを浮かべていた。

 はうあ!なんと可愛らしいのであるか!

 私は声を大にして言いたい。

 なぜこんな可愛い子をほったらかしにできるのであるか!

 本家の人たちは、子育てに対してはどうしようもないらしい。

 もっとこの子に愛情を注ぐのである!

 その愛情への欲求が私に向いているのを、ちゃんと自覚してほしいものである!

 言えないがな!

 他人の家庭について幼児がとやかくいうべきではない。その資格もない。

 ましてや本家の家庭事情である。

 だが、私の家にも多大なる影響がこうして出ているのだ!

 文句の1つも言いたい!

 言えないがな!

 言ったところで、鼻で笑われておわりだろう。

 重ねて不愉快である。

 しかし、前世での貴族の家で過ごしてきた身としては、若君や晶露様がされている対応がけっして珍しいものではなかったと記憶にあるだけに、理解もしてしまう。

 こういう時は、前世の記憶が邪魔だと思ってしまうな。

「晶露様、落ち着かれましたか?」

「はい」

「ではまずは、野衣さんが持ってきてくれたホットミルクを飲んでください」

 野衣さんすでに戻って来ており、テーブルの上に、ホットミルクを3つおいてくれた。

 ここポイントである。3つ。晶露様と私と、そしてロウの分であろう。ロウのは飲みやすいようにカップではなくおちょこだ。

 できるメイドさんはわかっているのである!

 そのうちの1つを晶露様の両手に渡す。

「熱いかもですから、気をつけてください」

 野衣さんが入れてくれるホットミルクはいつも幼児に適温だから、大丈夫だと思うが、念の為注意を促す。

「はい」

 晶露さま、こんなに素直ないい子なのに、放置とは信じがたい所業である!

 ロウが羨ましそうにミルクを見つめている。

<ロウも飲んでいいよ。小さいのね>

 私はエルフ語で声をかける。

 ロウもホットミルクで疲れを癒やすがいいよ。

<うむ。ありがたい>

 ロウは晶露様の様子に安心したのか、自分もテーブルに乗って飲み始める。

 よしよし。2人ともいい感じだね。

 私もいただこう。

 うむ美味である。

 ゆっくりとまったりと穏やかな時間が流れる。

 よいねえ。こういう時間て、子どもには大事なのである。

 そうして晶露さまが飲み終わった頃合い。

 私は晶露様のカップを取り上げて、テーブルに置いた。

「晶露様」

「どこか痛いところはないですか?喉とか大丈夫ですか?」

「はい。いたくないです」

「お腹はすいてますか?」

「すこし」

 よい傾向である。

「では軽くて消化の良いものを持ってきてもらいましょう」

 そこで、野衣さんに視線を送る。

「お願いできますか」

 野衣さんは頷いて、静かに部屋を出て行った。

 無駄口たたかず、すぐに行動。

 誠にできたメイドさんである。


野衣さん、できるメイドさんデス。

いつもお読みいただき、ありがとうございますv

もし少しでも続きが読みたいっと思っていただけましたら、☆をぽちりとお願いいたします!

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