第61話 私、本家お泊まり決定
ちょっと待って欲しい、それを言うなら、お願い全般で1日につき、1つまでではないか?
と、聡明である諸君は言うかも知れない。
それは正しい。
大人ならば、弁えてそうであろう。
しかし私は幼児である。幼児はある程度のわがままが許される筈である。
であるから、分野別の願いでいいのである。
私はそう心得ることにしているのである!
子どもであることを最大限に生かさないと、何かと制限が多い幼児は、やりたいことができないのである。
そのような次第で、明日以降機会があったならば、その時にまた少しお願いしようと思う。
「大海?」
はっ!若君が訝っておられる。頭を戻すのである。
「はい。ちゃんと聞こえております。私も少し疲れているのかもしれません」
そういうことにしておく。
「それでお話を詰めるとのことですが。何についてでありましょうか?私たちの間で話し合わねばならぬことがあったでしょうか?」
前当主さまがすべて話をされたのではないか?
まだ願いがあると言うのか?
願いすぎであるぞ!
私が我慢しているのであるのに!
「お前、いや大海を含めた家族の引っ越しが終わるまでの間の、大海の処遇についてだ」
「なるほど」
晶露様の為に引っ越しが決まったとはいえ、すぐに明日はい引っ越し完了という訳にもいかない。
早くても数日、いや1、2週間はかかるのではないだろうか。
その間また私がここからいなくなると、晶露様が不安定になる。それを避けたいと言うことか。
「大海には引っ越しが完了するまで、この母屋に滞在を許す」
まるっきり上から目線である。許すだと?
思わず、ぴきりとこめかみに筋が立つ。
前世の記憶があるとはいえ、私はまだ5歳であるぞ?
その5歳の幼女に、親元を離れて長期に1人、本家とはいえ、まだ会ったばかりの他人の家に滞在しろというのであるか?
晶露様と同じで、私の心も不安定になるとは思わないのであるか!
「恐れながら、若君、私もまだ5歳。親と離れて長きにわたりお泊まりするのは、心細うございます」
少ししょんぼりした感じで申し出てみた。
私だって普通の幼児であると主張するのである!
「うそをつくな。お前ほどの者が、親と少し離れたぐらいで気持ちがぐらつくものか」
また若君、お前呼ばわりに戻ってるのである!
それに私の心証がひどい!
なにか?私は鉄の心を持っているとでもいうのであるか!
私だって、ちょっとは不安になる!筈である。
「それは勘違いでございます!今日も母親が一緒だからこそ、こうして本日ここに来れたのでございます」
「それにしては、おじいさまのいる部屋に着いた時に、瞬時に色々察していたようであるがな。そして何気に許容できるところぎりぎりを交渉していたように見受けられたがな」
若君、よく見ておられるようである。
「お戯れを。私のような分家序列が最下位の娘がそのような大それたことができる筈がございませぬ」
「お前のそのメンタルの強さは5歳とは思えぬ。歴戦の商人のようだ」
失礼がすぎるよ!私は可愛い幼児である!前世では軍人であったがな!
「もういい。要求を早く言え」
「要求などと。私がどうしてもこちらに滞在する必要があるならば、その滞在中、毎日父の顔をみたいと思いますれば」
今日は本家の書架閲覧要求、そして若君へ呼称の変更を願い出た。
これ以上となれば、些細なものでなければなるまい。
「顔を」
「はい。一目でも会えれば、一日の活力になりまする。父に私がこれから通うであろう学園の幼年部への送迎の許可をいただければと思います」
ただの顔見せでは話す時間もない。私はどのように事が運んでいるか知りたい。その為ある程度父と話す時間が欲しい。
加えていうならポイントは、もう一つある。学園までの送迎、送りだけでなく迎えもと私はお願いしているのである。そうなれば朝と夕方に父の顔が見れる。
若君はしばらく考えた後に、頷いた。
「よかろう。諸処の手続きはこちらでもできるだろうし、母親もいるからな」
「ありがたく」
よし! これでネイちゃんとの別れのタイミングなどはかれるだろう。幼稚園の友、ネイちゃんに別れの挨拶もできずに済ませるなど、私にはできないのである!
「お前には客間を用意する。そこで当座過ごせばよい。必要なものはこちらで用意する」
「ありがとうございます」
用意したものは後でもらってもよいのであるかな?
貧乏性と言うなかれ。利用できるものはするのである。
「よし。ではそれですすめろ」
若君はそれだけ言うと、すっと立ち上がった。
「あ」
「なんだ?まだなにかあるのか?」
若君にぎろりと睨まれた。
「いえ。あの若君はこれからご用事がおありでありますか?」
変な日本語になってしまったよ。若君の目つきがあまりにひどいからさ。
「私は少し仮眠をとる」
でありますか。それなら引き留めることはできぬ。
ひどいクマだものな。
私は若君のすこしよれた背中を見送ったのであった。
若君が元気であれば、本家の本業について詳しく話を聞きたかったのであるが、子どもには睡眠は必要だからな。
私もそこまで、わがままではないのである。
前当主に本家書架の許可も頂いたことだし!
時間のある時に、書架へ突撃すればよいのである!
私は興味を持ったものへの苦労は厭わないのである!
5歳で、単身お泊まりするって、結構厳しいと思います。
大海、頑張って欲しい。




