第58話 私、一部話し合い終了、個別話し合いの為移動
「では、今度こそ話は終わりだ。諸処の手続きは、そこの三弥に聞け」
そう言われて、入口付近を見る。
いつの間にか気遣いができる本家の子分の松也さんから三弥さんにチェンジしていた。
いかん、いかんな。自分で思っていたよりも怒り心頭していたらしい。
それ以上にこの場に飲まれていたか。
私もまだまだであるか。しかし、私は最後まで前当主の名を口に出さなかったし、心の中でも名を出さなかったのである。自身の誓いは守る余裕はあったとみていいだろう。
ふふ。
私が三弥さんを見て、自身の反省に気をとられているうちに、前当主は、さっさと部屋を出て行ってしまった。
あ、どうせなら私をなぜに筆頭許嫁候補に押しつけ、いや推しくれたのか理由を聞けばよかったのである。
分家序列末席の身、前当主と直に話をするなど、滅多にない機会であったのに。
しくじりである。
もう一つしくじったことがある。
いくら寝ているとはいえ、孫に声かけなしか?
晶露様の為の話し合いであろうに!
私や両親と話をつける場ではあったが、孫をいたわる視線も感じなかったのである!
ひどい祖父である!
減点10である!
更にマイナスになったのである!
プラスになるよう努力して欲しいものである!
更に更に言うならばである!
隣に座っている跡取りにも、労いの1つもない。声かけもない。
若君の顔色が悪いのは、他人の私でもわかるくらいである。
いつも見ている身内であれば、余計にわかるのではなかろうか?
一万歩譲って、眠っているスペアの晶露様に声かけなしにしても、一晩中晶露様をなだめていたに違いない若君に一言もないって、どういうことか?
不器用では片付けられないのである!
ここでも減点10だ!
ふう。それにしてもである。
短い時間であるが、見えてしまった。
本家の冷え冷えとした家族関係。
コミュニケーション不足というより皆無に等しいのではなかろうか。
幼い2人の兄弟に同情してしまうレベルである。
私が憤っているのに、肝心の若君は、平静である。
まるでそれが日常であるかのように。
私は怒りを通り越して、悲しくなってきてしまったのである。
私は思わず、晶露様の頭を撫でた。
不憫である。そして晶露様は無意識にそれを感じているのかもしれないが、若君はそれをもう通り過ぎてしまっているのか。
若君!君はもっとわがままを言っていいのである!
暴れてもいいと思うのである!
若君の姿が前世の長兄の姿を彷彿とさせる。
兄君も小さき頃には寂しい思いをされていたのであろうか。
いつもにこやかに笑っていた長兄さま。お元気であろうか。
私の思考が本格的にずれてきたところをまるで見透かしたかのように、
「灰咲ご夫妻は私と同行願います」
三弥さんがいつの間にか間近にいた。
気配しなかったのである!怖いのである!
「了解しました。日陽さま、よろしくお願いします」
父びくついていない。気づいていたのか。
そして、まるっきり会社の上司への返事である。
「三弥さんの名字日陽なのですね」
やはりそうであったか。私の予測は当たっていた。今来ているスーツのポケットチーフも赤だからな。若君の側近は分家序列1位か。当然か。
せっかく名前の話題がでたので、疑問を解消しておこう。
「父、なぜ本家の方々は分家の方々を下の名前で呼ぶのですか?」
父は序列差から考えて、名字呼びしているが、本家の方々は子分を下の名前を呼んでおられる。
「ああ、おそらくお屋敷では分家の方々が多く働かれているからだろう。会社でも本家や分家の出身者が多いから、下の名前で呼ぶことが多いかな」
「なるほど」
うん。こちらも予測通り。疑問解消、すっきりである。
にしても、私は若君の暫定とはいえ、許嫁候補筆頭になった訳である。
個人の序列として少しはランクアップしたのであろうか?
両親のランクはどうか?
三弥さんは両親に丁寧な対応。判断が難しい。
「お前は私と来い。まだ話があるからな」
若君、私にたいしてはぞんざいな物言いである。配慮なしである。
そりゃそうだ。若君は個人の序列でいえば、当主、前当主に次ぐ、おそらく第3位である。私に気を遣う必要はないのである。
にしても。無意識に出たであろう、若君のため息が、重いのである。
まだ7歳なのに、大人としての、いや、跡取りとしての役割を求められている。
その役割をこなすだけでも大変であるのに、養育面においてアメとムチの、アメ部分が限りなくなさそうである。
うむ。だからであるか?
弟君への対応が不器用なのは。
うむうむ。これは若君も愛情欠乏症とみるべきであるな。
誰か、愛情を振りそそいであげて欲しい。見返りをもとめるのは厳禁である。
え?私?筆頭許嫁候補であるならば?
私は晶露様のお相手で手一杯である。それ以上求めるならば、本家の書架閲覧以上の対価を求める。
他人には見返りを求めるなと言いつつ、自分は見返りを求めるのかとお叱りを受けそうなので、説明しておこう
ふ。私は子どもである。私にもアメをたんともらわないとやってられないと言っておく。
無心の愛はどこかの大人に任せたいのである。
「大海、何をぼうとしているんだい?ネイちゃんはいないのだから、自力でしゃきっとしてね?ほら、若君についていきなさい。後で迎えに行くから」
父め。わかっている。ネイちゃんの援護がない今、私がしっかりしなければならないのは自明の理である。
が、私はぼうっとはしていないのである。
考え事をしていただけである。
ああ、ネイちゃん、幼稚園の友よ。今無性に君に会いたい。
「大海?」
はっ。今意識がネイちゃんへと飛んでしまった。
「わかった。迎えお願いね」
さて、次はどこに連れて行かれるのか。
ここで問題が1つ発生。
晶露様、まだ起きません。
松也さん、戻ってきて欲しい。
繰り返すが、私に晶露様をだっこしての移動は無理である。




