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第57話 私、本家の提案に、注文をつける

 私は頭をフル回転させて、ポンと答えを出す。

 私は伏せていた顔をあげ、まっすぐに前当主の顔を見上げる。

 見上げる、ここポイント。一段高いところにいるから見上げざるを得ない。

 まったくどこまでも人を従わせる場であるな!

 けれど、私には通用しないのある!

 言うべきは言うのである!

「恐れながら。1つお願いがございます」

「願いだと?」

 前当主様ぴくりと片眉をあげる。

 取り下げろとの威圧をかましてくる前当主。

 否!断じて否である!

 私は父みたいに唯々諾々と了承する気はないのである。

 例え相手にとってたいしたものではなくても、私の要求は聞いてもらう。

 相手に要求をのませる。それに意義があるのであるからな!

 前当主様の威圧など怖くない。前世の軍の上官の威圧にも耐えた私である!

 この震えは足がしびれて来ただけである。

 私は平然と答える。

「はい」

「言ってみろ」

「ありがとうございます」

 勝った。

 私は深々と頭を下げる。晶露様が膝にいるから、できるだけであるがな。

 横目に父が顔を引きつらせているのがわかる。

 だが、ここは私の我を通させてもらうのある!

「私は期せずして若君の許嫁候補筆頭になりました。私の家は分家序列最下位であり、その中でも末にあたる家。恥ずかしながら、ご本家さま、またその生業についての知識があまりにも乏しいのでございます。候補と、筆頭の文字が外れ、晴れて許嫁になる為の努力の一助としてどうか、ご本家様の書架の解放をお願いしたいのでございます」

 私はそこでまた頭を下げる。

 候補、筆頭が外れるように、いや私はむしろ許嫁候補から外れることを望んでいるが、本家の書架は是非とも見たいのである!

 その為の方便で、これほど的確なものはなかろう!

 私はまだ5歳。婚姻までまだ数年いや10数年先である。

 その間、若君との接触をできる限りしなければ、きっとフェードアウトできる筈だ。

 だから、この方便ものちに響いてくることはあるまい。

 ふふ。私は明けの明星での館で、図書室を見れなかったことを忘れてはいないのである。

 おのれ!貫禄メイドさんめ!

「よい心がけだ。禁書庫以外は許す」

「ありがとうございます!精進します!」

「うむ」

 なんと!なんとなんとなんと!

 禁書庫があるのか!? 見たい! 読みたい!

 よい情報をもらえたのである!

 禁書庫素敵な響きである!

 絶対に入ってみせる!

 私は皆に見えないように、小さく拳を握った。

 私の心は今までになく高鳴った。

 ああ、一時であるなら、若君の許嫁候補になってもよかったかもしれない。

 平静を装い頭を下げつつ、それでもにんまりと顔がほころぶのをとめられなかった。

 悔しいがどうせ断れないなら、精々この立場を最大限に利用させてもらうぞっと!

 本家の書架の閲覧許可は小さいものかもしれない。

 しかし、ただ本家の提案(命令)に従うのではなく、交渉の末に相手にこちらの要望を飲ませたことに意義があるのである。

 父、私のこの交渉術をぜひとも見習って欲しい!

 そう思い、隣の父の顔を見ると、無になっていた。

 私が要望を出しただけで、キャパオーバーになってしまったらしい。

 誠に残念な(脳筋)である。


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