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第52話 私、母とともに、連行される

 本家の長い廊下を若君が先頭を歩く。

 私は抱っこされてるので楽ちんであるが、本家手下の松也さん、2人の幼児を抱えての移動、腕は大丈夫であろうか?しびれてきていないであろうか?

 どうか突然落とすのだけは勘弁して欲しいところである。

 前世の私であったならば、どうだったであろうか?と一瞬考えたのち、問題ないなと結論づけた。

 前世で戦地を駆け回っていた私は、否応なく筋力がついて幼児の1人や2人なんてことはなかった。

 なにせ戦地の友が怪我をしたならば、担ぎ上げて撤退しなければならなかったのであるからな。

 本家の子分である。体力筋力も万全であろう。心配など無用と判断する。

 そんな埒もないことをつらつら考えているうちに、若君がある部屋の前で止まった。

 そしてすっと膝を突くと、

「失礼します」

 と、一言断りを入れてから、(ふすま)を開けた。

「我が許嫁筆頭が到着したので、連れて参りました」

 若君!候補が抜けてるよ!候補が!そこ重要だから落とさないように!

 若君にしたら、些細なことかもしれないが、私にとっては重要であるからな!

 お願いしておく!心の中でな!

「入れ」

 む、この声は。当主か?!

 当然か。可愛い自身の子どもについての話であろうからな。

 ここで誰かに任せたら、私の評価は底辺に下がっていたのである!

 当主にとっては私の評価などどうでもいいかもしれんがな!

 若君に続いて、私たちを抱っこした松也さん、我が母が部屋の中へと入る。

 ここは正当な日本間の応接室なのであろうな。

 最初の感想は広い、である。

 おそらくこの部屋、我が家の1階全部入ってしまうくらい広い。

 うちの1階間取りは、台所、居間、風呂、玄関、トイレである。

 2階は二間ある。日本での3人暮らしには十分である。

 私は今の暮らしに満足している。それが大事である。むなしくなんてない。

 相手に応じて、こういった応接室がこの母屋には何部屋もあるのであろう。

 なにせイベントをする為だけの館が別にあるくらいであるからな。

 本家の敷地内をすべて見て回るにも、1日では無理な広さであろう。

 移動が車であることからも、そう推測される。

 前世の私の実家でも、応接室は2部屋しかなかった。貴族用と平民用である。

 それでも立派なものだと思っていたが。上級貴族になると部屋数が半端なかった。

 本家もそうなのであろう。

 おそらく警戒が必要な人物相手には、がっちりと警備しやすい部屋を。

 警戒度や客人の重要度により使い分けるだけの応接室があるのかもしれない。

 そして私たちが通されたこの部屋は社員に辞令を渡す部屋レベルか。

 私は軽く首を振った。

 考えるのはやめよう。

 部屋広いが、装飾されていない。

 シンプルである。

 部屋の奥、畳の厚さ分一段高い上座に前当主が座り、私たちを待っていた。

 そして当主から3メートル下座に置かれた座布団の1つに父が座っていた。

 父は襖が開いた途端に振り返った。

 そして私たちが目に入った瞬間、父が叫んだ。

「大海!鳴海!」

 父よ。なんだそのすがるような目は!そしてなにげに私を先に呼んだな?

 母は頼りないのか?

 母の様子をちらりと向けると、ほっとした顔をしてる。

 後に呼ばれたのは、気にしていないらしい。

 私が細かいのか?

 にしても、この部屋にいるのは前当主、若君、弟君、本家の子分松也さん、私たち親子3人である。

 この広さ、いらなくはないだろうか。

 本家の権威を見せる為であるか?

 あいにく、そんなこけおどしに、私は屈しはしない。

 私の怒りは(おさ)まりはしないのである。

 更にこの部屋。よく見ると、どこぞの江戸屋敷の一室であるかって感じである。

 本家と分家の座る高さが違うって、現代でもありなのか?

 どこの殿様であるか!

 優位に話を進めようって魂胆であるか?

 前当主、早くの減点1であるな。

 本家はそこまで偉いのか?

 偉いんであろうな一族内部では。

 しかしながら、あからさまな対応されるとこちとら子供である。かちんとくるのである。

 両親の手前、抗議できないのが悔しい。

 それだけでなく、前世で培われた軍の教育のせいか。はたまた貴族だったせいか。

 上には逆らえない。

 くっ。軍人気質が抜けない。抜くよう努力をしなければならない。

 ぐぬぬ。

 短期間によく見ているなとの満足そうな前世の友の声が頭に響いた気がした。

 当然である。状況判断は駆け引きにおいて重要であるのだからな!

「急な呼び出しに応じてくれて、感謝する」

 前当主、本宮隆源が口を開いた。

 形ばかりの謝意だ。全然悪いと思っていない。

 本家の呼び出しには応じるのは当然と思っているのであるな。上級貴族的考えと似ているのである。

 私はせめてもの反抗で、正座したまま一礼をするに留める。

 もちろん礼に則った挨拶もなしだ!

 むむ!これだけではまだ気が済まない。もう一矢報いたい。

 そうだ。私はわざときょろりと部屋を見渡した。

 それに敏感に反応したのは前当主である。

「当主の明臣は多忙でな、私がかわりにこの件について対応させてもらう」

 予測通りか!部屋に入って当主がいないことにいやな予感はしていたのである。しかしだ!私は心優しい幼児であるからな、もしかしたら遅れているだけやもしれぬと、敢えて突っ込みをいれなかったのである!

 父である明臣様不参加確定ならば、言わせてもらおう!心の中でな!

 実子のことであるぞ!父としてよりも当主の立場優先であるか!

 そしていくら祖父にとはいえ、忙しいの一点で任せるか?

 そこを譲ったとしても母親が出てこいや!

 「失礼ながら、お母堂様もご多忙でございましょうや?よほどの用事がおありなのでしょうか?」

 私は敢えて踏み込む。

 私たち親子以外、本家子分だけだし、無礼を承知で突っ込むよ!

 私は怒っているのである。

 何度でも言おう!実の息子のことである。

 当然母親が同席してもいい筈である!

 ていうか、この状態になってる晶露様、心配ではないのか!

 初見えの前儀での晶露様の放置状態から推測できるが、母親はやはり晶露様をよく思っておられないのか。

「そうとってもらってかまわぬ」

 なにそれ。答えになってない。

 けれど、これ以上は突っ込まないほうがよいだろう。

 はっきりした状況が掴めていないし、情報が不足しているからな。

 感情は抑えなければ、冷静な判断ができない。

 私はふうと1つ深呼吸する。

「さようでございますか」

 状況はわかったよっていう返事をする。

 納得していると思わないで欲しいのである!

 しかし。よくよく注意しなければならぬ。

 当主の不在、晶露様たちのご母堂の不在、私が気にしなければ、スルーされていただろう。下に見ている私の両親には説明の必要はないって感じだからな。

 むかつくのである。

 けっ!実の子供より大事なことって何であるか!

 当主減点2である。いやこれだけの減点では甘いか?減点8は固いか?10点満点中であるから、もう底辺に近いことは言っておこう!

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