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第50話 私、本家を内心で罵倒する

 昨日出た筈の本家に到着。

 もう夕方になる。これは今晩お泊まり確実か。

 車は本家のものな為か、そのまま門の中に入ることができた。今日は乗り換えなしである。

 私と母が連れていかれたところは、儀式をした明けの明星の館ではなく、本家の方々が住んでいるだろう感じの純日本家屋の前。そこで、車が止まった。

 立派な玄関である。

「母、よかったね。本家見られて」

 2日前、家のお留守番をさせられた母は少し不満そうだったので、私はこそりとそう言ったところ、なぜかすごい目で睨まれた。

 なぜであるか!

 私はこんな場合であるが、この母屋であれば、私が求める本がある書架があるに違いないとほんの少し心を躍らせているのに。

 余裕だなと思われるかもしれない。違うのである。人間どんな時でも、興味は常に持っておくべきなのである。これ重要である。諸君も心に留めておくように。

「こちらに」

 できた子分こと、一廉さんに促されて、本家に足を踏み入れた。

 玄関だけでもかなりな広さである。

 ぬ。玄関が段々になっている。なぜだ。

 あ、わかった。日本家屋は段差が結構あるから、靴の着脱をしやすくする構造なのかもしれない。

 ふむ。合理的なのか?

「早く中に入るわよ」

 私が感心していると、母に手を引かれた。

 あ、まって。もう少し観察したかったのに。

 母も一廉さんもせわしないのである。

 とは言ってはいられないか。

 私も晶露様が心配であるからな。急がねばならない。

 決してここに来た理由を忘れていた訳ではないのである。

 私たちはまっすぐに晶露様のお部屋に向かう。

 晶露様のお部屋に到着するまでに、曲がって曲がって曲がってと、廊下を結構歩いた。

 正直に言おう。

 一人で屋敷を出れる気がしない。

 母を見上げると、別に慌てる様子はない。

 仕事上、入り組んだ屋敷に慣れているのか、はたまたはったりか。

 母も警備会社の元社員である。ルートを記憶するのはお手の物だと思っておこう。

 そうこうしている内にどうやら着いたようである。

 すっと開かれた扉の先に、晶露様がいた。

 うつむいて部屋の真ん中で泣いている。その回りをロウがおろおろと歩いている。

 飛ばんのか!と突っ込みたいが、それをさせぬほど、晶露様が小さくしぼんでしまっていた。

 その姿がなんとも哀れで。

 私は母を通り越して、駆け寄った。

「晶露さま!」

 そしてすぐさま、その小さい身体を抱きしめた。

 熱い。熱があるのではないかと思うほどだ。

「晶露様?そんなに泣いては目がとけてしまいますよ?」

 私は少し身体を離すと、そっと晶露様の顔から手をどけてやる。

「ねえさま?」

「はい」

 見上げてくるその目は、泣きすぎて腫れて痛々しい。

 それでも私がわかったのか、すぐにひしっとしがみついてきた。

「おおみねえさま!ねえさま!」

<大海よ!>

 ロウも私の膝に抱きつく。

 いや、お前も一緒になって哀れになってどうする!

 しっかりお慰めしろと言ったであろう!

 そう説教したかったが、ロウも一杯一杯なようなので、やめておく。

 きっと、ずっと泣き通しの晶露様を、どうしたらいいかわからなかったのだろう。

 まだお前と晶露様の縁は薄いからな。

 仕方がないか。

「ねえさま」

「はい、ここにいますよ」

 私はそう答えながら、腕に力を入れて、膝上に抱き上げてあげた。

「ねえさま‥もう‥どこにも‥いかないで‥」

 そこで限界だったのだろう。

 晶露様は私の肩に頭を預けると、ことりと眠ってしまった。

 うう、ここまで私を慕ってくれているとは思っていなかった。

 目測を誤った。申し訳なかったのである。

 しかし!しかしである!

 よい年をした大人が大勢いるであろう本家である!

 こんな晶露様をお慰めする人が1人もいないって、そんな馬鹿な事があるかって、改めて思ったのである!くそったれ!!

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