第49話 私、車中にて食事、不本意である
食事を先に!という私の切なる願いは叶えられなかった。
どういうことか。
端的に言おう。
母は長いものに巻かれる人であった。
それも、切実に自身と密接に関係がある長いものなら、なおさらなのか。
それとも父の指導が行き届いているからなのか!
父よ!なぜにこの場にいないのであるか!
今こそ大黒柱である父が必要な時ぞ!
その叫びむなしく、父不在のまま、私は母と共に、車に揺られている。
前回本家の招待では非血縁者である母ははじかれたが、今回は保護者として母も同行を許された。
さしもの本家でも、私を1人連れ去ることはしなかった。
うむ。常識は弁えてくれているようである。
だが、それだけである。
本家の評価は急降下中である。
私はやっと手にしたサンドイッチを食しつつ、内心で苦虫を嚙み潰していた。
悪い予感はしていた。
私が車に揺られている理由。
諸君も予測はつくのではなかろうか。
そう、昨日どうにか脱出した本家の弟君、晶露様であった。
弟君は私が帰った後、ご飯も食べず、ずっと泣き通しらしいのである。
どうなだめすかしても、泣き止まない。
このままでは体調を崩してしまう。
それは一大事であると、急遽私を本家の子分なるものが、迎えに来たという訳である。
私は2つのことに憤慨している。
先にも述べたが、1つはまだ会ったばかりの私にそこまで執着するほど、弟君は不安な日々を過ごしていたこと。
誰も慰めにならないくらい人間関係が希薄ってどういうことか!?
2つめは、私の空腹の訴えをサンドイッチで済まそうとするところである!
それも車中で食することを強制するなど!
食事はゆっくりと味わっていただきたいものである!
サンドイッチは大変高級で美味なるもの、本家子分が買ってくれたものである。
それで溜飲が少しは下がったではあるが!
昨日の今日である!
ゆっくりさせてほしい!私はまだ5歳の幼児である!幼稚園の友、ネイちゃんにも会いたいのである!これでは明日もきっと会えないではないか!?
いくら晶露様が心配といえど、この扱いに不平が出るのは、当然のことである!
くう。せっかくのサンドイッチがまずくなる。
一旦違うことに頭を向けよう。
食べ終えてから改めて考えるのである。
うむ。車だ。この車について考えよう。
この車、全然揺れない。素晴らしい乗り心地である。
そしてうちの車と違って、内部がかなり広い。運転席のほか、後ろの後部座席は2人づつ向かい合わせて座れるようになっている。総合的に見て、高度な文明の利器である。
素晴らしきかな。心ゆくまで、腹を満たしたら、内部をよく観察したいものである。
はっ。違うぞ。私は決して怒りが収まってはいないのである!
車という高度な文明の利器に目が眩んだりはしていない!
サンドイッチが殊の外美味で、思わず顔が緩んでしまったということは、決してない!
それにだ!私の腹はまだ6割ほどしか満たされておらぬのだ!怒りは続いているぞ!。
「デザートも召し上がりますか?」
向かい側に座る本家の子分の男性が切り分けられたフルーツを差し出してくる。
つややかな光を放つ宝石たち。
「ありがとうございます!」
もちろんいただくとも!
「大海ちゃん!」
隣に座る母が、とがめるように私の名を呼ぶ。
しかし、無視である。
私は腹が空いているのだ。それにこれからややこしい案件が控えているのだ、腹を満たしておかねば、頭が回らぬ。
母が対応してくれるというのであれば、私もデザートを味見程度に控えようではないか!
けれど、母の様子を見るに、父同様、カチンカチンになっている。
うん。似たもの夫婦である。
私と2人でデザートを味わう余裕はなさそうである。
私は視線を戻して、前に座る男を見る
この本家の子分、なかなか気が利く男である。
確か木羽一廉と名乗ったか。
黒のスーツの胸ポケットには緑のポケットチーフ。
分家序列でも、一族個人の序列でも私と母は底辺であろうに、母にも私にも丁寧に接してくれている。
本家の子分、すなわちエリートな筈なのに。
灰の分家を見下すようなところが1ミリたりともない。
腹のなかでどう思っているにせよ、できた本家の子分である。
だから、子分でいられるのかもしれないのである。
リンゴをかじる!
私の頭は一瞬で甘みに支配された!
おお!甘美である!
このリンゴもお高いリンゴである!
間違いあるまい!




