第5話 私、本家から招待(命令)を受ける
いよいよお話が動き出します。
ここまで長かったかも。
私の両親はごく一般的な庶民であると思っていた。
その考えは間違っていない。私が今世生まれた日本国には身分制度は現行廃止されており、四民平等で皆一般庶民である。
階級による差はあるようだが、建前上はそうなっている。
なので、私を含む灰咲家家族3人は、一般庶民である。
であるが、どうやら青い血とは言わないまでも、灰咲家は古くから続く血族らしいのだ。
とはいえ、両親とも日々の生活のため働かなくてはならないほどに一族の末端とのことである。分家の分家の、まあとにかく末端らしいのである。
なぜ今更そんな話題をするのかと、諸君は不思議に思われるだろう。
そう、それなりの理由が出てきたからである。
「本家から招待状が届いた?」
夕食を食べ終わって、居間でまったりとお茶を飲んでいたところで、父より切り出された。
ちなみに5才の私も、しっかり緑茶をすすっている。
前世では飲んだことのない、緑色の飲み物。
私はこの緑茶なるものが気に入っている。
食後に飲むとすっきりとするからである。
話を戻そう。
「招待状って、私に、ですか?」
「そうなんだ。これはどうしても断れない」
本家と分家。
前世の記憶から、例えるならば、寄親と寄子の関係に似ているかもしれない。
昔なら本家が分家を管理することもあった。
諸君の中には、現代社会において、そんな横暴は通らなかろうとおっしゃられるかもしれない。
けれど、父の言から察するに、すべての分家の総本山、本宮家は、まだ分家に対して多大な影響を与える立場にあるとのことである。
そんな本家、本宮家からの通達という命令が、この分家の末端である灰咲家に届いてしまったのである。
それがなければ、私は未だに血筋だの、本家分家など考えることなく、幼稚園通園生活を満喫していただろう。
私は父より話が出た時、思いっきり鼻にしわを寄せた。
家のしがらみなんて、非常に面倒、これ一言に尽きる。
ましてや本家からの恩恵はないにも関わらず、義務だけは生じる。
理不尽である。
私はベビールームから抜け出すことが出来てから、日本においての文明の利器である、テレビやラジオなるものから、多大な情報を得ることができた。
1つ、ここは日本国であること。
1つ、日本国は地球なる丸い惑星にある、1つの国に過ぎないこと。
1つ、国は1つではなく、この世界には100以上の様々な国が混在すること。
1つ、この日本国では、基本国民皆平等で、身分差は存在しないとのこと。
などなど、私は様々情報を仕入れることができた。
そして前世の世界との違いに驚きながらも、順応しようと頑張ってきたのである。
しかしやはりと言うべきか。身分差はともかく、家格か家柄かなどの評価はこの日本においてもしっかりと生きており、それに縛り付けられている家も、存在する。
それを知ったのは、母がよく読んでいるライトノベルなるものからの情報であったが、世界は違えども、人間なるものは、序列をつけたがるものなのだなと、しみじみ思ったものである。ライトノベル、そう軽い小説、架空の物語である。
想像上のお話なのだから、それを現実と捉えるのはいかがなものか、と忠言してくれる方もいらっしゃるだろう。
だがしかし。
まんま、己に降りかかってきて、やはり小説とは現実を模してもいるのだろうと、思い返す事になったのである。
話を戻そう。
誠に面倒、面倒である。
私は今知らされた情報を頭をフル回転させ、精査していく。
本家、私の理解であってるか、念の為、確認しておこう。
「本家ってなんですか? 誰なのでしょうか?」
「うーん本家はね、パパの親戚、親戚ってわかるかな?血のつながりのある人、パパのパパ、そのまた上のパパを辿っていった一番偉い家に、行くことなったんだよ」
うん、子供に親戚、血族を説明するのは困難である。
父よ、私は大丈夫だ、十分理解している。しかし偉いという言葉が出たか。
「父の、遠い父なのに、名前が違うのですね」
「うん。本家は、遠い、遠いパパだから、お名前も変わってしまってるんだよ」
おそらくだが、本家から分家に分かたれる時に、本家の姓を名乗ることを許されなかったか、または分家としてではあるが、独立を認められ姓を新たに頂戴したか。
どうやら私の理解で正しいようだ。本家、つまりは寄親からの呼び出しか。
先ほどの父の説明から、我が家は分家、それも父の話から察するに分家でも末流なのだろう。
「それとね、大海、父ではなく、パパと呼んでほしいと言ってるだろう?父なんて固すぎる。せめて父様と、呼んでほしいな」
父がさりげなく、また父に対する呼称を直そうとする。
まだ諦めていないのか。
パパ呼び。無理である。諦めてほしい、父よ。
意識が前世に引っ張られている私、というか、まんま前世の意識の私には、おそらく前世で、同年代くらいの父をパパとは呼びにくい。呼べない。すまない、父よ。
それに、父様呼びはイメージに合わない。
私は父の要求を完無視して、話を進めることにする。許せ、父。
「その本家の人から、お呼ばれしたのですか?私が?」
分家の末まで、呼び出しとは何事か。
「そう、パパの可愛い大海ちゃんが」
……完無視である。
ここで1つお知らせしておこう。
遅くなったが、幼稚園の友、ねいちゃんとの会話でもわかったであろうが、この父の呼びかけからもわかるように、今世の私の名前は大海、灰咲大海である。
女児である。
父は灰咲近平、母は灰咲鳴海である。
2人の名前を披露したことで、私の名前の由来はおわかりだろう、父の近と母の海から連想して名付けられた。
この国の名付けでは、オーソドックスな付け方に入るかもしれない。
そして今回の本家呼び出しは、話を切り出した父方の筋からだ。
父方は連綿と続いて来た古い家らしいが、血が薄まってしまうと、父のような善良な脳筋になるのかもしれない。
それもまたよし。
親に対して辛辣すぎる?
いや、この話にはまだ続きがあって、その内容を聞けば、私が辛口になったのも仕方なしと思ってくれるのではないだろうか。
その父との話を続けよう。
「私はその親戚の人と、会ったことありませんよ?」
「実は、パパも会った事はないかな?」
なぜ疑問形?
会ったか会わないか。選択肢の答えは、1つしかなかろうに。
「どうして私がお呼ばれしたのですか?」
そう、理由が重要である。単に遊びにきなさいならば、喜んで伺おう!
「うん。本家の跡取りのご子息様の花嫁を決める集まりに、大海も呼ばれたんだよ」
は?なんだと?
「つまりは、私はその本家のご子息様のお嫁さん候補としてお呼ばれしたということですか?」
「そう通りだ!」
正解!って叫びそうな勢いだな父よ!
話し下手の脳筋め!
母よ!この脳筋な父の話し下手を、フォロー頼むよ!
母は視線に気づいたのか、一言。
「私も、パパの家のことはよくわからないから」
そして肩をすくめる。それでいいのか、母!
そうだ!母も脳筋だった!
残念!
「正確には許嫁を選ぶ集いかな?許嫁ってわかるか? 将来お嫁さんになるっていう約束をした人だよ? 本当なら俺の可愛い娘を、会ったこともない本家の長男になんて会わせたくはないんだけど! この命令にはパパ逆らえないんだ! 悔しいけどな!」
やはり父方の本家筋からの命令は、無視することはできないらしい。
私の前世の意識からしても、寄親からの命令は絶対である。
逆らうなんてよっぽどの理由がなければ、してはいけないことである。
システムが崩れるからな。父よ、そこは仕方なしである。
父の話をまとめると、こういうことらしい。
灰咲家の本家である本宮家の跡取りの若君が、御年7歳を迎えるにあたり、一族の繁栄を願って初見えの前儀と、好配の儀と呼ばれる儀式が行われるらしい。
初見えの前儀とは、7才を迎えた本家の長男が、一族の女子を集め、自らの未来の花嫁、許嫁を選ぶ集いのこと。
貴族等にもよくあるが、血を尊ぶ家では血縁者から嫁を選ぶことが多い。主家の本宮家もその例にもれず、本家、分家問わず、一族と認められている血縁の中から、下は0歳から18歳までの女子を一同に集めて、儀式を執り行うとのことだ。
好配の儀式とは、初見えの前儀で、許嫁に選ばれた娘を本家当主を始め、分家の当主が、その娘を本家の許嫁として決定する儀式とのことである。
はあ。またなんとも面倒、いや古風な儀式が、残されているものである。
7歳か。現代日本において、7才など、まだまだ子どもである。
しかし前世の身分である貴族であった私の家では、長兄様は幼少のみぎりから婚約が結ばれていた。今の世界でも、しきたりを重んじる家ではそうであるのか。なかなか難儀なことである。
しかし、7歳の子にダブルスコアを通り超して、18歳まで対象にするとは。少し幅を持たせ過ぎではないかと思ってしまう。
基準はなんなのか?未成年者ということか?
ともあれ、5才になる私も、許嫁候補の対象になっており、その儀式に出席するようにとの、お達しがあったのだ。
はっきり言おう。大迷惑である。
ではあるが、私はそんなに心配はしていない。
私が選ばれることは、まずなかろうと思うからである。
何をのんきなことを、もしもということがあるではないか、熟考せよとおっしゃられるかもしれない。
ご心配ありがたく。けれどもその心配は杞憂に終わると私は考えている。
こういった儀式が行われる場合、招待状が届く頃には、段取りはほぼ決まっているものである。
たくさんの招待客の前で、混乱を招く、つまりは恥をかくことを、血を尊ぶ家はひどく嫌う。
そこから推察するに、許嫁に選ばれる乙女は、すでに決まっている可能性が高い。
つまり、この初見えの前儀と好配の儀、自体、形骸化されておることが多いのだ。
最初は意義があったであろう儀式でも、回を重ねるにつれて、色々な思惑が絡んで、そうなっていくものである。
万が一私が本家若君の許嫁に選ばれる可能性が、少しでもあるなら、儀式への招待状が届く前に、なんらかの本家からの呼び出しがある筈なのである。
父は、招待状が届いたとだけ、私に打ち明けている。
となると、前段階で、本家から連絡が来たとは考えられない。
父は、腹芸ができる御仁ではないのである。
よって、私が選ばれることは万に一つもないとの結論に達した次第である。
諸君が納得してくれると、嬉しく思う。
この結論から、私はこの招待を、次のように受け止めることにしたのである。
本家は、我が家がある県から、結構離れた東京なる場所にあるらしい。
ということで。
私は生まれて初の遠出になる外出を、心ゆくまで楽しむ、こう解釈した。
もうこの解釈、一択である!
ふう。父の話から私の結論に達するまで、長い道のりであった。
ともあれ、返事を先にしよう。
「わかりました。私、楽しみにしております!」
私は満面の笑みを浮かべて、父に答えた。
「た、楽しみ?本家の息子のお嫁さんを決める集まりに出ることが?」
「はい!」
「ママ!大海が!俺の可愛い娘が!嫁に行ってしまうかもしれない!!」
ふふふ。少しは父も、慌てるがいいのである。
たとえ、本家の若君の花嫁に選ばれる可能性がなかろうと、私にとってはなかなか重要な話であったことは、明白である。
その話をお茶を飲みながら、そういえば、のような気軽のりで、父は話してきたのである。
少しは重き軽きを考えて、場所と時を選んでほしかったと、望むのは間違いではあるまい。
父には反省を希望する。
とはいえ。我が家には父の書斎や応接間などもないことから、父にはあまり厳しくはいえぬのが、実情である。
しかし、この話によって、私には重要な情報がもたらされたことは喜ばしいことである。
自分のルーツを知ることは、己を知ることに直結するのである。
私は末端とはいえ、古き血筋の生まれとわかった。
となると、この身体を巡回する魔力もどきなる力の情報が、本家に行けば、少しはわかるのではないか?
私の外出への楽しみは倍、いやそれ以上に膨れ上がった。
願わくば、その儀式の合間に、本家の書架をのぞきみることができないだろうか。
私はまだ幼児だ。多少本家の屋敷をうろついても問題なかろう。
ごまかしもきくだろう。
試してみる価値あり、である。
この力の正体や使い方もわかれば、将来、明るく見通すこともできよう!
期待に胸が膨らむ。
遅きに失するかもしれないが、ここで一つはっきりさせておこう。
私は灰咲家が長女、灰咲大海。
前世では男子として生を受けた。
が、今世私は、男子ではなく女子に生まれたのである。
まだこの事実は受け止めきれていない。
難儀なことよ。
自身の性別を受け止めきれぬ、私である。
格差婚を狙う気持ちはつゆほどもない。
私の狙いは、2つ。
自身の体内に宿る魔力もどきの力の正体、この手がかりを得ること。
そして初見えの前儀、好配の儀に、きっと出るであろう、豪勢な料理の相伴に預かることである!




